USPTO experimentelle Nutzung requirements Advocacy Artwork.

適用範囲が拡大される?:USPTOが実験的使用の例外について公開意見の募集を開始

1. はじめに

1.1. 実験的使用の例外に関する意見募集の告知

2024年6月28日、米国特許商標庁(USPTO)は連邦官報で実験的使用の例外(Experimental Use Exception)に関する意見募集の告知を公開しました。この告知では、現行の判例法理の状況と、立法措置によって法定の実験的使用の例外を制定すべきかどうかについて、広く一般からの意見を求めています。

意見提出の締め切りは2024年9月26日と設定されており、3か月という比較的長い期間が設けられています。

1.2. 意見募集の背景と目的

なぜ今、USPTOはこの問題に取り組もうとしているのでしょうか。

その背景には、現行の実験的使用の例外が極めて狭く解釈されていることへの懸念があります。特に、2002年のMadey v. Duke University判決以降(後に詳しく説明)、この例外の適用範囲が著しく制限されてきました。

一方で、他の多くの国々では、より広範な法定の実験的使用の例外が存在しています。このような国際的な動向も、USPTOの今回の取り組みに影響を与えていると考えられます。

今回のUSPTOの目的は明確です。実験的使用の例外に関する現状を把握し、その影響を評価すること。そして、必要であれば法制化を含めた制度の見直しを検討することです。この取り組みは、イノベーションの促進と特許権者の権利保護のバランスを再考する重要な機会となるでしょう。

意見募集の結果次第では、米国の特許制度に大きな変革がもたらされる可能性があります。研究者、発明者、そして企業にとって、この動向は今後の研究開発戦略に直接影響を与える可能性があるため、注視する必要があります。

2. 実験的使用の例外の歴史的発展

実験的使用の例外(Experimental Use Exception)は、米国特許法の歴史とともに発展してきました。この概念は、特許権の保護と科学の進歩の促進というふたつの目的のバランスを取ろうとする試みから生まれたものです。その歴史を紐解くと、判例法によって形作られてきた経緯が見えてきます。

2.1. Whittemore v. Cutter判決(1813年)

実験的使用の例外の起源は、19世紀初頭にさかのぼります。1813年のWhittemore v. Cutter事件で、ストーリー判事は画期的な見解を示しました。「哲学的実験のためだけに、あるいは発明が意図した効果を生み出すのに十分かどうかを確かめるために機械を製造した者を罰するのは、立法者の意図ではなかったはずだ」というのです。

この判断は、純粋に科学的または哲学的な目的で行われる特許発明の使用を、侵害から除外する道を開きました。

2.2. その後の判例の展開

Whittemore v. Cutter判決以降、実験的使用の例外は徐々に形を整えていきました。しかし、その解釈は時代とともに変化していきます。

例えば、1984年のRoche Products v. Bolar Pharmaceutical Co.事件では、連邦巡回控訴裁判所(CAFC)が、商業的目的を持つ実験的使用は例外の対象外であると判断しました。この判決は、実験的使用の例外の適用範囲を狭める方向性を示しました。

一方で、1990年には特許競争力・技術革新法案(Patent Competitiveness and Technological Innovation Act)が提案され、研究目的での特許発明の使用を侵害から除外しようという動きもありました。しかし、この法案は成立には至りませんでした。このように、実験的使用の例外の範囲をめぐっては、長年にわたって議論が続けられてきた経緯があります。

2.3. Madey v. Duke University判決(2002年)による狭義の解釈

そして、近年で実験的使用の例外の適用範囲を大幅に制限したと注目されているのが、2002年のMadey v. Duke University事件です。

この事件において、CAFCは、「被疑侵害者の正当な事業の範囲内にある行為」は、たとえ商業的意味合いがなくても、例外の対象にならないと判断しました。(“regardless of whether a particular institution or entity is engaged in an endeavor for commercial gain, so long as the act is in furtherance of the alleged infringer’s legitimate business and is not solely for amusement, to satisfy idle curiosity, or for strictly philosophical inquiry, the act does not qualify for the very narrow and strictly limited experimental use defense.”) つまり、大学での研究であっても、それが大学の正当な事業活動の一環である限り、実験的使用の例外は適用されないというのです。

この判決により、実験的使用の例外は「非常に狭く、厳しく制限された」ものとなりました。特に、大学や研究機関にとっては大きな影響がありました。なぜなら、彼らの研究活動の多くが、この狭い例外の範囲外に置かれることになってしまったからです。

Madey判決以降、実験的使用の例外の適用はますます難しくなりました。この状況が、現在のUSPTOによる再検討の動きにつながっているのです。研究者や発明者たちは、この厳格な解釈がイノベーションを阻害しているのではないかと懸念を抱いています。

果たして、現在の狭い解釈は適切なのでしょうか。それとも、より柔軟な例外規定が必要なのでしょうか。USPTOの意見募集は、まさにこの点に光を当てようとしているのです。

3. 現在の実験的使用の例外の状況

Madey v. Duke University判決から20年以上が経過した現在、実験的使用の例外は極めて限定的な適用しか認められていません。この状況が、研究開発やイノベーションにどのような影響を与えているのか、さまざまな議論が交わされています。

3.1. 狭義かつ厳格に制限された防御手段

現在の実験的使用の例外は、文字通り「例外中の例外」といえるほど狭く解釈されています。CAFCの判断基準に純粋に従えば、被疑侵害者の行為が「単なる娯楽のため、単なる好奇心を満たすため、あるいは厳密に哲学的な探究のためだけ」でない限り、例外は適用されません。

この厳格な基準により、多くの研究活動が例外の適用対象外となっています。大学や研究機関での研究であっても、その機関の「正当な事業」の一環とみなされれば、例外は適用されないのです。結果として、多くの研究者が、特許侵害のリスクを常に意識しながら研究を進めなければならない状況に置かれています

3.2. 商業的目的での使用は対象外

実験的使用の例外が適用されない典型的なケースが、商業的目的での使用です。たとえ研究段階であっても、将来の商業化を視野に入れた研究は、ほぼ確実に例外の対象外となります。

これは特に、産学連携や応用研究の分野で大きな課題となっています。多くの革新的な研究が、実用化や商業化を目指して行われているのが現状です。しかし、こうした研究は実験的使用の例外による保護を受けられないため、研究者や機関は特許ライセンスの取得や、特許回避の設計に多大な労力を費やさざるを得ません。

特許制度の本来の目的が技術革新の促進にあることを考えると、この状況は皮肉といえるかもしれません。

3.3. 現状に対する賛否両論

現在の実験的使用の例外を巡っては、賛成派と反対派の間で熱い議論が交わされています。

賛成派は、現在の狭い解釈が特許権者の権利を適切に保護し、イノベーションへの投資を促進していると主張します。彼らは、広範な例外規定が導入されれば、特許の価値が低下し、結果として研究開発への投資が減少する可能性を懸念しています。

一方、反対派は現状の厳格な解釈が研究活動を萎縮させ、イノベーションを阻害していると訴えています。特に、基礎研究や学術研究の分野では、特許侵害を恐れるあまり、重要な研究テーマに取り組めないケースも出てきているといいます。

また、国際競争力の観点からも懸念の声が上がっています。多くの国々がより柔軟な実験的使用の例外を採用している中、米国の厳格な姿勢が国内の研究開発活動を不利な立場に置いているのではないか、という指摘です。

こうした賛否両論の存在が、USPTOによる今回の意見募集の背景にあります。果たして現状の制度を維持すべきか、それとも新たな法制化を目指すべきか。この問いに対する回答は、米国の研究開発の将来に大きな影響を与えることになるでしょう。

4. 他国における実験的使用の例外

実験的使用の例外は、世界各国で様々な形で採用されています。米国の判例法による狭い解釈とは対照的に、多くの国々では法律によって明確に規定されています。この国際的な状況を理解することは、米国の制度を再考する上で重要な視点を提供してくれるでしょう。

以下で示す外国の法律に関する詳細は今回の連邦官報の「Experimental Use in Other Jurisdictions」とその脚注を参照してください。

4.1. 欧州諸国の法定例外

欧州では、実験的使用の例外が法律で明確に規定されている国が多く存在します。例えば、ドイツ、イギリス、フランス、スペイン、イタリア、スイス、オランダなどが挙げられます。

これらの国々では、特許法に「研究例外」や「実験的使用の例外」という条項が設けられています。多くの場合、この例外は米国よりも広く解釈されており、商業目的を含む幅広い研究活動をカバーしています。

例えばドイツでは、特許法11条に「特許の効力は、特許の対象に関する実験目的の行為には及ばない」と明記されています。この規定により、特許発明に関する研究や実験が、その目的や性質に関わらず広く許容されています。

イギリスの特許法も同様に、「実験目的で行われる行為」を特許権の効力が及ばない行為として明確に規定しています。これにより、基礎研究から応用研究まで、幅広い研究活動が保護されています。

4.2. アジア、カナダ、ラテンアメリカの成文化された例外

実験的使用の例外の法定化は、欧州以外の地域でも広く見られます。

カナダでは、特許法55.2条に研究例外が規定されています。この規定は、特許発明に関する研究や改良を目的とした使用を広く許容しています。

ラテンアメリカでも、多くの国が実験的使用の例外を法律で定めています。例えば、メキシコやブラジルの特許法には、研究目的での特許発明の使用を許可する条項が含まれています。

これらの国々の法定例外は、一般的に米国の判例法よりも広い範囲をカバーしており、研究者や発明者により大きな自由を与えています。

4.3. 日本、中国、韓国、インド、ブラジルの事例

アジア諸国も、それぞれ特徴的な実験的使用の例外を採用しています。

日本の場合、特許法69条1項には「試験又は研究のためにする特許発明の実施」は特許権の効力が及ばないと明記されています。この規定は比較的広く解釈されており、商業目的の研究開発も含む可能性があります。

中国の特許法も同様に、「科学研究および実験を目的とする」特許発明の使用を許可しています。この規定により、中国の研究者たちは、特許侵害を心配することなく幅広い研究活動を行うことができます。

韓国の特許法もまた、研究または試験を目的とする特許発明の実施を特許権の効力外としています。これは日本の規定と類似しており、広範な研究活動を保護しています。

インドの特許法では、さらに踏み込んだ規定が設けられています。同法では、研究目的での使用だけでなく、教育目的での使用も特許権の効力外とされています。これにより、学術機関での研究や教育活動が広く保護されています。

ブラジルの特許法も、研究目的での特許発明の使用を明確に許可しています。ここでも、商業目的か否かを問わず、幅広い研究活動が保護の対象となっています。

これらの国々の事例は、実験的使用の例外をより広く解釈することで、研究開発やイノベーションを促進しようとする国際的な傾向を示しています。米国が現在の制度を再考する上で、これらの事例は貴重な参考になるでしょう。各国の制度には一長一短がありますが、研究の自由とイノベーションの促進という観点から見れば、米国の現行制度には改善の余地があるのかもしれません。

5. 米国における部分的な法定例外

米国では、実験的使用の例外が主に判例法によって形成されてきましたが、特定の分野では法律によって部分的な例外が設けられています。これらの法定例外は、特定の産業や研究分野のニーズに応じて制定されたもので、一般的な実験的使用の例外とは異なる特徴を持っています。

5.1. ハッチ・ワックスマン法(1984年)のセーフハーバー条項

ハッチ・ワックスマン法(Hatch-Waxman Act)、正式名称を「医薬品の価格競争と特許期間の回復に関する法律」(Drug Price Competition and Patent Term Restoration Act)と呼ばれるこの法律は、製薬業界に大きな影響を与えました。この法律の中でも特に注目すべきは、いわゆる「セーフハーバー条項」(safe harbor provision)です。

この条項は、35 U.S.C. § 271(e)(1)として特許法に組み込まれており、ジェネリック医薬品の開発を促進することを目的としています。具体的には、「連邦法の規制下にある医薬品または獣医学的生物学的製品の製造、使用、販売に関する情報の開発および提出に合理的に関連する使用」であれば、特許権侵害にはならないと規定しています。

つまり、ジェネリック医薬品メーカーは、特許期間中であっても、規制当局の承認を得るために必要な試験を行うことができるのです。これにより、特許期間満了後すぐにジェネリック医薬品を市場に投入することが可能になりました。

この条項は、Roche Products v. Bolar Pharmaceutical Co.事件の判決を覆す形で制定されました。CAFCは同事件で、ジェネリック医薬品の承認申請のための試験も特許侵害に当たると判断していましたが、ハッチ・ワックスマン法はこの判断を法律で修正したのです。

セーフハーバー条項の解釈をめぐっては、その後も多くの訴訟が起こっています。例えば、Merck KGaA v. Integra Lifesciences I, Ltd.事件では、最高裁が同条項の適用範囲を広く解釈し、FDA承認を目的とした前臨床試験も保護の対象になると判断しました。

5.2. 植物品種保護法(1970年)の研究目的での使用許可

植物品種保護法(Plant Variety Protection Act)は、新しい植物品種の開発者に独占的な権利を与える一方で、研究目的での使用を明確に許可しています。これは、農業分野における研究開発の重要性を認識し、イノベーションを促進するための措置といえるでしょう。

同法の7 U.S.C. § 2544には、保護された品種の使用に関する研究例外が規定されています。この規定により、新品種の開発を目的とした研究や実験のために、保護された植物品種を自由に使用することができます

この例外規定は、植物育種の分野で極めて重要な役割を果たしています。新しい品種の開発には、既存の品種を基にした交配や遺伝子操作が不可欠だからです。もし、こうした研究活動が権利侵害とされてしまえば、植物育種の進歩は大きく妨げられてしまうでしょう。

植物品種保護法の研究例外は、農業分野における実験的使用の重要性を認識した先駆的な法律といえます。この例外規定のおかげで、研究者たちは既存の保護品種を自由に利用し、新たな品種の開発に取り組むことができるのです。

これらの部分的な法定例外は、特定の分野における研究開発の重要性を認識し、イノベーションを促進するための措置といえるでしょう。しかし、これらは限定的な適用範囲を持つものであり、一般的な実験的使用の例外とは異なります。USPTOの今回の意見募集は、こうした部分的な例外を超えて、より広範な実験的使用の例外の可能性を探るものだといえるでしょう。

6. USPTOの意見募集の具体的内容

USPTOが実施している今回の意見募集は、実験的使用の例外に関する包括的な見直しを目指すものです。幅広い分野からの意見を求めることで、現行制度の課題や改善の可能性を探ろうとしています。

6.1. 対象となる技術分野

USPTOは、特定の技術分野に限定することなく、あらゆる分野からの意見を募集しています。しかし、特に以下の分野に注目しているようです:

  • 量子コンピューティング
  • 人工知能(AI)
  • その他のコンピュータ関連発明
  • 農業
  • ライフサイエンス(処方薬や医療機器を含む)
  • 気候変動緩和技術

これらの分野は、急速な技術革新が進んでおり、かつ社会的影響も大きいことから、特に重要視されているのでしょう。例えば、農業分野では、米国農務省が2023年に発表した報告書「農家のためのより多くのより良い選択肢:種子およびその他の農業投入物における公正な競争とイノベーションの促進」において、現行の狭い例外が障害となっている可能性が指摘されています。

6.2. 主要な質問事項

USPTOは、8つの主要な質問を提示しています。これらの質問は、実験的使用の例外に関する幅広い側面をカバーしています:

  1. 現行の実験的使用の例外の判例法理が、各技術分野の投資や研究開発にどのような影響を与えているか。
  2. 現行の例外によって悪影響を受けている技術分野はあるか。ある場合、それはどの分野で、どのような影響があるか。
  3. 法定の実験的使用の例外が設けられた場合、新技術のイノベーションや商業化にどのような影響があるか。研究開発、資金調達、投資戦略、特許のライセンス、製品開発、販売、競争、特許の執行や訴訟などの観点から考察してほしい。
  4. 現行の例外の状況が、特許出願や特許の購入、ライセンス、売却、維持に関する意思決定に影響を与えたことはあるか。
  5. 米国は法定の実験的使用の例外を採用すべきだと考えるか。その理由を、証拠やデータとともに説明してほしい。
  6. 仮に法定の例外を設ける場合、どのように定義すべきか。特許権が適切に保護されるために必要な制限や制約はどのようなものか。
  7. 現状維持または例外の変更を支持する公共政策上の理由は何か。
  8. 米国における特許発明の実験的研究を促進するための追加的な提案はあるか。

これらの質問は、実験的使用の例外が技術革新、経済、法律、そして公共政策に与える影響を多角的に検討しようとするUSPTOの意図を反映しています。

6.3. 意見募集の期限

USPTOは、十分な検討時間を確保するため、比較的長い意見募集期間を設定しています。具体的には、2024年9月26日までに意見を提出するよう求めています。

この3ヶ月という期間は、複雑な問題について深く考察し、データや証拠を収集し、十分に練られた回答を準備するのに適切な長さだと考えられます。特に、組織や団体からの意見提出を想定すると、内部での議論や承認プロセスにも時間が必要でしょう。

また、この期限設定には、夏季休暇シーズンを考慮した配慮も感じられます。多くの人々が休暇を取る7月や8月を避け、9月末までとすることで、より多くの関係者が意見を提出できるようにしているのでしょう。

USPTOは、この意見募集を通じて得られた情報を基に、実験的使用の例外に関する政策の方向性を検討していくことになります。知的財産に関わる全ての人々にとって、この機会に自らの見解を表明することは非常に重要といえるでしょう。

7. 実験的使用の例外の法制化に関する議論

実験的使用の例外を法制化すべきかどうかについては、さまざまな角度から議論が行われています。この問題は、イノベーション、商業化、そして特許権者の権利保護という、時に相反する利益のバランスをどう取るかという難しい課題を提起しています。

7.1. イノベーションへの影響

実験的使用の例外を法制化することで、イノベーションが促進されるという見方があります。

例外規定を広く設けることで、研究者たちは特許侵害を恐れることなく、既存の特許技術を基にした研究開発を行うことができます。これにより、特に基礎研究の分野で大きな進展が期待できるでしょう。新しいアイデアは既存の知識の上に築かれるものです。そのため、研究者が自由に既存の技術を探究できる環境は、画期的な発見や発明の可能性を高めることにつながります。

また、法的な明確性が増すことで、研究機関や企業は長期的な研究計画を立てやすくなります。現状では、判例法による不確実性が研究活動を萎縮させている面があります。法制化によってこの不確実性が取り除かれれば、より積極的な研究投資が行われる可能性があります。

一方で、広範な例外規定がイノベーションを阻害するという意見もあります。特許権の価値が低下すれば、企業の研究開発への投資意欲が減退する可能性があるというのです。特に、製薬業界などでは、膨大な投資を回収するために強力な特許保護が必要だと主張されています。

7.2. 商業化への影響

実験的使用の例外の法制化は、技術の商業化プロセスにも大きな影響を与える可能性があります。

肯定的な影響としては、研究段階から商業化段階へのスムーズな移行が期待できます。現状では、研究段階で使用していた特許技術を商業化段階で使用できなくなるというリスクがあります。法制化によってこのリスクが軽減されれば、研究成果の商業化がより容易になるでしょう。

また、スタートアップ企業にとっては、初期段階の研究開発にかかるコストを削減できる可能性があります。特許ライセンス料を支払うことなく、既存の技術を基に新製品の開発を進められるからです。これにより、新規参入者の市場参入障壁が下がり、競争が活性化する可能性があります。

しかし、懸念も存在します。例外規定が広すぎると、特許技術の無断使用が横行し、正当な特許権者の利益が損なわれる可能性があります。これは、特に中小企業や個人発明家にとって深刻な問題となり得ます。彼らは大企業に比べて特許権の行使が難しいため、より脆弱な立場に置かれる可能性があるのです。

7.3. 特許権者の権利保護との均衡

実験的使用の例外を法制化する上で最も難しい課題は、特許権者の権利保護とのバランスをどう取るかという点です。

特許制度の根本的な目的は、発明者に一定期間の独占権を与えることで、イノベーションを促進することにあります。しかし、実験的使用の例外はこの独占権に一定の制限を加えるものです。そのため、例外規定の範囲を広げすぎると、特許権者の権利が不当に侵害される恐れがあります。

一つの解決策として、段階的なアプローチが提案されています。例えば、基礎研究段階では広い例外を認め、商業化が近づくにつれて例外の範囲を狭めていくというものです。これにより、研究の自由を確保しつつ、特許権者の経済的利益も保護できる可能性があります。

また、特許権者に対する補償制度を設けるという案もあります。実験的使用によって特許権者が被る損失を、何らかの形で補償するというものです。これにより、研究の自由と特許権者の権利保護の両立を図ることができるかもしれません。

しかし、こうした提案にも課題があります。例えば、基礎研究と応用研究の境界線をどこに引くのか、補償額をどのように算定するのかなど、実務上の困難が予想されます。

実験的使用の例外の法制化は、イノベーション、商業化、特許権者の権利保護という、時に相反する利益のバランスを取る難しい課題を提起しています。USPTOの意見募集は、まさにこの複雑な問題に対する解決策を模索するものといえるでしょう。今後、さまざまな立場からの意見が寄せられ、活発な議論が展開されることが期待されます。

9. まとめ

USPTOによる実験的使用の例外に関する意見募集は、米国の特許制度の未来を左右する重要な取り組みです。現行の狭い解釈が研究活動を萎縮させているという懸念がある一方で、特許権の価値を損なうことなくイノベーションを促進する方法を見出すことは容易ではありません。この問題は、イノベーション、競争、そして知的財産権の保護という、現代経済の根幹に関わる重要なテーマを提起しています。多くの国々がすでに法定の実験的使用の例外を採用している現状を考えると、米国もこの問題に真剣に向き合う時期に来ていると言えるでしょう。9月26日の締め切りに向けて活発な議論が展開されることが期待される中、USPTOがこの意見募集を通じてどのような結論を導き出すのか、そしてそれが米国の特許制度にどのような変革をもたらすのか、今後の動向から目が離せません。この決断は、グローバルな特許制度の未来にも大きな影響を与えることでしょう。

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