たとえ直接的な金銭のやり取りがなくて、当事者は「実験的使用」と考えていても、特許の観点上、実験的使用として認められないことがあります。今回も出願前の契約で対価と考えられるようなものが認められたことにより、「実験的使用」が認められませんでした。
2022年4月29日、連邦巡回控訴裁判所(CACF)は、Sunoco Partners v. U.S. Ventureにおいて、この実験的使用(experimental use)に関する問題と、オンセールバー(on-sale bar)に関する問題が審議されました。
判例:Sunoco Partners Marketing & Terminals L.P. v. U.S. Venture, Inc., No. 20-1640 (Fed. Cir. 2022)
地裁では実験的使用が認められ3倍賠償に
背景として、Sunoco社の特許は、流通過程の最終地点に近い場所、特にタンクローリーに卸される直前の地点でブタンをガソリンに混合するシステムおよび方法に関するものでした。このブタンの混合については、場所と時期により、一定の規制要件があるのですが、この特許技術を使うことで、生産者は、場所と時期に応じて、ガソリンの各バッチに許容される最大限のブタンを混合することが可能になりました。
イリノイ州北部地区連邦地方裁判所は、ベンチ・トライアルを行い、Venture社のオンセール・バー抗弁を却下しました。連邦地裁はSunocoに200万ドルの損害賠償を与えることを命じ、これに3倍賠償を適用し、600万ドルとしました。Venture社は、連邦地裁がオンセールバー抗弁を却下したことに異議を唱え、控訴しました。
設備に関する契約の縛りや別途の供給契約なども総合的に考慮される
連邦巡回控訴裁(CAFC)は、Venture社のオンセールバー抗弁について、Venture社が、基準日(critical date)までにSunocoの特許発明が (1) 「商業的な販売申し出の対象」(the subject of a commercial offer for sale)となっていたこと、そして、 (2) 「特許取得の準備ができていた」(ready for patenting)ことを示す必要があると指摘しました。さらに、CAFCには、Sunocoは、販売が「主に実験目的」(primarily for purposes of experimentation)であったことを証明することで、オンセールバー抗弁に対抗することができると指摘しました。
(1)「商業的な販売の申し出の対象」であることについて、CAFCは、基準日前に、発明者の会社が他の会社のために特許システムを販売・設置することを申し出たことに言及しました。連邦地裁は、金銭の授受がなかったことなどの事実から、この取引は商業目的ではなく実験目的であると判断していました。
しかし、契約書には、ブタンを購入することを対価とする売買と記載されていました。特に、この契約には、発明者らの会社がブタン混合装置を設置する要件や、相手方の会社に対するブタン供給契約の規定がありました。
Sunocoは、この契約は実験目的に関連するものであると主張。特に、Sunocoは、設置前のテストと設置後のテストを要求する契約書の条項から、この契約が実験的な用途に使用されるものであることがわかると主張しました。しかし、CAFCは、Sunocoの主張を受け入れませんでした。特に、Sunocoは、設置前テストが第三者の施設で行われ、システム販売のオファーがなされる前に実施される可能性があったことに異議を唱えていないことに注目しました。
実験的使用を主張する場合の契約周りは慎重に
したがって、今回のCAFCの意見は、実験の場所やタイミングに関する要件について、実験目的と見なされない点についていくつか言及しています。さらに、CAFCの見解は、どのような行為がオンセールバーになりえるかについても、いくつかの示唆を与えています。例えば、購入供給のコミットメントや解約金などは、販売を示唆する対価の根拠となりえます。
(2)「特許化の準備ができている」ことについては、連邦地裁はこの問題を扱っていなかったため、CAFCは、この点を評価するよう連邦地裁に差し戻しました。
可能な限り販売開始前に特許出願を行う
今回の判例や関連する判例をみると、「実験的使用」を証明するのは難しくなっている傾向が見られます。そのため、可能であれば、発明に関する商品やサービスの販売を開始するまえに、仮出願でもいいので、特許出願をすることをおすすめします。
参考文献:The Federal Circuit Provides Insight on Experimental Use and On-Sale Bar