USPTO updates examination guidance following CAFC decision on design patent obviousness analysis.

USPTOがCAFCによる意匠特許の自明性分析の変更を受けて審査ガイダンスを更新

2024年5月21日、連邦巡回区控訴裁判所(CAFC)は、LKQ Corp. v. GM Global Technology Operations LLC事件において、意匠特許の自明性を判断する長年の基準であるRosen-Durlingテストを覆す画期的な判決を下しました。この判決は、意匠特許の自明性分析を実用特許の自明性分析により近づけるものです。

USPTO は、このLKQ判決を受けて速やかに審査官へのメモを発表し、意匠特許の自明性の審査実務を見直しました。このメモは、審査官とPTABに対し、Rosen-Durlingテストから脱却し、KSR事件最高裁判決に沿ったアプローチを適用するよう指示しています。

このメモの目的は、意匠特許の審査において、自明性の判断基準を実用特許の基準に近づけることにあります。これにより、意匠特許の審査の透明性が高まり、出願人と特許権者にとってより公平な審査が期待できます。また、CAFCの判決を迅速に審査実務に反映させることで、審査の遅延を最小限に抑えることが期待されています。

USPTOのメモは、意匠特許の自明性分析に関する重要な変更点を明確に示しており、審査官と出願人の双方にとって有益なガイダンスとなるでしょう。以下では、メモの主要な変更点と新たな審査フレームワークについて詳しく見ていきます。

主要な変更点

USPTOが発行したメモ:Updated Guidance and Examination Instructions for Making a Determination of Obviousness in Designs in Light of LKQ Corp. v. GM Global Technology Operations LLC

USPTOのガイダンスメモは、LKQ判決を受けて、意匠特許の自明性分析に重要な変更を導入しています。以下では、メモの主要な変更点について詳しく説明します。

実用特許の自明性分析に沿った柔軟なアプローチの採用

メモの最も重要な変更点は、意匠特許の自明性分析において、実用特許の自明性分析により近い柔軟なアプローチを採用したことです。これは、KSR事件最高裁判決で示された、自明性の判断における柔軟性を反映したものです。

従来のRosen-Durlingテストは、主要先行技術と二次的先行技術の関連性について厳格な要件を課していました。しかし、メモは、このような厳格な要件を排除し、より柔軟な分析を可能にしています。これにより、審査官は、先行技術の組み合わせについて、より広範な考察を行うことができます。

メモは、実用特許の自明性分析に関するMPEP(Manual of Patent Examining Procedure)第2141章以下を参照するよう審査官に指示しています。これは、意匠特許の審査において、実用特許の審査で培われた知見を活用することを意味します

Rosen-Durlingテストから Graham 要素分析への移行

メモのもう一つの重要な変更点は、Rosen-Durlingテストから、Graham事件最高裁判決で示された「Graham 要素」分析への移行です。Graham 要素とは、自明性の判断において考慮すべき4つの要素で、以下の通りです:

  1. 先行技術の範囲と内容
  2. 先行技術と特許クレームの差異
  3. 当業者の通常の技能レベル
  4. 商業的成功、長年の未解決ニーズ、他者の失敗など、二次的考察

メモは、審査官がこれらのGraham 要素を考慮して意匠特許の自明性を判断するよう求めています。これにより、意匠特許の自明性分析は、実用特許の分析手法により近づくことになります。

特に、先行技術の範囲と内容の考慮において、メモは主要先行技術の特定を要求しています。ただし、主要先行技術は、従来のRosen-Durlingテストのように「基本的に同じ」である必要はなく、「視覚的に類似」していれば十分であるとしています。また、主要先行技術と二次的先行技術は、「密接に関連」している必要はありませんが、両者とも「類似技術」でなければなりません。

以上のように、USPTOのガイダンスメモは、意匠特許の自明性分析に重要な変更を導入し、より柔軟で実用特許の分析手法に近いアプローチを採用しています。次に、メモが提示する新たな審査フレームワークについて詳しく見ていきます。

Graham 要素に基づく新たな審査フレームワーク

USPTOのガイダンスメモは、意匠特許の自明性分析に関する新たな審査フレームワークを提示しています。このフレームワークは、Graham事件最高裁判決で示された4つの要素(Graham 要素)に基づいています。以下では、各要素について詳しく説明します。

要素 1: 先行技術の範囲と内容

主要先行技術の特定

審査官は、まず、主要先行技術を特定する必要があります。主要先行技術は、クレームされているデザインと視覚的に類似している必要がありますが、Rosen-Durlingテストのように「基本的に同じ」である必要はありません。メモは、「主要先行技術は、『存在するもの』であり、『視覚的に類似している』必要がある」(“something in existence” and “visually similar” to the claimed design to protect against hindsight.)と述べています。主要先行技術は、通常、クレームされているデザインの製品分野と同じ分野のものですが、類似技術であれば、異なる分野のものでも構いません

類似技術の考慮事項

審査官は、主要先行技術と二次的先行技術が類似技術であるかどうかを判断する必要があります。メモは、クレームされている意匠の製品分野以外の先行技術が類似技術であるかどうかの判断基準を明確に定義していませんが、「通常の技能を有するデザイナーが他の分野を参考にする動機付けの程度」を考慮するよう審査官に指示しています。また審査官は、先行技術が類似技術であるかどうかについて疑問がある場合、上級審査官と相談すべきとしています。さらにUSPTOは、類似技術の判断事例を蓄積し、審査官の判断の一貫性を高めていく予定です。

要素 2: 先行技術とクレームされた意匠の差異

審査官は、先行技術の範囲と内容を考慮した後、先行技術とクレームされた意匠の差異を判断する必要があります。メモは、「類似性」の閾値を設けていません。代わりに、審査官は、クレームされた意匠の製品分野における通常の技能を有するデザイナーの観点から、クレーム意匠と先行技術意匠の視覚的な外観を比較する必要があります。

要素 3: 通常の技能を有する者のレベル

審査官は、クレームされた意匠の製品分野における通常の技能を有するデザイナーの知識を考慮する必要があります。これは、意匠特許の審査における当業者(PHOSITA、Persons Having Ordinary Skill In The Artの略)の基準であり、先行技術とクレームされた意匠の差異の判断に影響を与えます。

要素 4: 二次的考察

審査官は、商業的成功、長年の未解決ニーズ、他者の失敗など、自明性を示唆する二次的考察(secondary considerations)を考慮する必要があります。メモは、このような二次的考察が存在する場合、審査官はそれらを考慮しなければならないと述べています。

以上のように、USPTOのガイダンスメモは、Graham 要素に基づく新たな審査フレームワークを提示しています。このフレームワークは、意匠特許の自明性分析をより柔軟で実用特許の分析手法に近いものにしています。

新ガイダンスに基づく自明性の評価

USPTOのガイダンスメモは、Graham 要素に基づく新たな審査フレームワークを提示するだけでなく、このフレームワークに基づいて自明性を評価する方法についても詳細に説明しています。以下では、メモが示す自明性の評価方法について詳しく見ていきます。

通常のデザイナーが先行技術を組み合わせてクレームされた意匠に至る動機付けがあったか

審査官は、クレームされた意匠の製品分野における通常の技能を有するデザイナーが、先行技術を組み合わせてクレーム意匠と同じ全体的な視覚的外観を創出する動機付けがあったかどうかを判断する必要があります。メモは、「クレームされた意匠が属する分野の通常のデザイナーが、先行技術意匠を修正してクレーム意匠と同じ全体的な視覚的外観を創出する動機付けがあった場合、審査官は、記録上の二次的考察で自明性が示されない限り、35 U.S.C. 103に基づいてクレームを拒絶すべきである」と述べています。

クレームされたデザイン全体の視覚的印象に焦点を当てる

自明性の評価において、審査官は、クレームされたデザイン全体の視覚的印象に焦点を当てる必要があります。メモは、「この判断は、クレーム意匠全体の視覚的印象に焦点を当てるべきであり、個々の部分に焦点を当てるべきではない」と強調しています。

先行技術は類似技術に限定される

メモは、自明性の評価において考慮される先行技術は、類似技術に限定されると述べています。主要先行技術と二次的先行技術は、「密接に関連」している必要はありませんが、両者とも「クレーム意匠の類似技術」でなければなりません。

組み合わせの論理的理由と後知恵の排除

メモは、先行技術の組み合わせの動機付けは、先行技術自体から得られる必要はないと述べています。ただし、「クレームされた意匠の製品分野における通常のデザイナーが、主要先行技術を二次的先行技術の特徴で修正して、クレーム意匠と同じ全体的な外観を創出したであろうという、記録上の裏付けのある理由」が必要になります。これは柔軟な動機付けを認めつつ、不適切な後知恵がおこらないよう(protect against hindsight)にする配慮かと思われます。

さらにメモは、主要先行技術と二次的先行技術の全体的な外観が異なるほど、「主要先行技術を二次的先行技術に照らして修正する動機付けを立証し、自明性を示すために、特許に異議を唱える者がより多くの作業を行う必要がある」と述べています。そのため、異なる分野における先行技術の組み合わせの動機の説明はより慎重にそして詳細に行うよう促していることがわかります。

以上のように、USPTOのガイダンスメモは、新たな審査フレームワークに基づく自明性の評価方法を詳細に説明しています。これらの指針は、審査官が意匠特許の自明性を一貫して評価するための重要な指針になるでしょう。

審査基準の変更の実施と課題

USPTOのガイダンスメモは、意匠特許の自明性分析に関する重要な変更を導入していますが、これらの変更の実施には、いくつかの課題が伴います。以下では、メモの実施に関連する主要な課題について詳しく説明します。

メモの即時発効

USPTOのガイダンスメモは、発行された時点で即時に発効しました。これは、審査官がすぐにメモの指示に従って意匠特許の自明性を評価しなければならないことを意味します。ただし、審査官がメモの内容を完全に理解し、新たな審査フレームワークを一貫して適用するには、一定の時間が必要となることが予測されます。

審査官へのトレーニングの必要性

メモの内容は、意匠特許の審査実務に大きな変更をもたらすものです。したがって、審査官に対する適切なトレーニングが不可欠です。特に、実用特許の自明性分析に関する知識が十分でない審査官もいるかもしれません。USPTOは、短期的に、審査官に対して35 U.S.C. 103とKSR事件最高裁判決に関するトレーニングを提供する予定ですが、長期的には、より包括的なトレーニングプログラムが必要となることでしょう。

運用の不一致の可能性と更なる明確化の必要性

メモは、意匠特許の自明性分析に関する重要な指針を提供していますが、すべての問題を網羅しているわけではありません。例えば、クレームされた意匠の製品分野以外の先行技術が類似技術であるかどうかの判断基準は、完全には明確になっていません。このため、審査官によって運用が異なる可能性があります。

そのため、現在のメモだけでは不十分で、USPTOは今後メモの内容をさらに明確化し、審査官の判断の一貫性を確保するための追加のガイダンスを提供する必要があるかもしれません。

類似技術の事例集

メモは、USPTOが類似技術の判断事例を蓄積し、それによって審査官の判断の一貫性が高まることを示唆しています。しかし、このような事例集の作成には時間がかかります。また、事例集が完成したとしても、すべての状況に対応できるわけではありません。したがって、事例集は、審査官の判断を助ける有用なツールにはなりますが、それだけで類似技術の判断の問題が解決されるわけではありません。

以上のように、USPTOのガイダンスメモの実施には、いくつかの課題が伴います。これらの課題を解決するには、USPTOによる継続的な取り組みと、審査官と出願人の間の建設的な対話が必要不可欠です。

意匠特許出願人と権利者への示唆

USPTOのガイダンスメモは、意匠特許の審査実務に重要な変更をもたらすものであり、意匠特許出願人と権利者に大きな影響を与える可能性があります。以下では、出願人と権利者が留意すべき主要な点について詳しく説明します。

審査段階での自明性拒絶の増加の可能性

新たな審査フレームワークは、より柔軟な自明性分析を可能にするものです。これは、審査官が先行技術の組み合わせについてより広範な考察を行うことを意味します。その結果、審査段階での自明性拒絶が増加する可能性があります。出願人は、このような拒絶に適切に対応するための準備が必要です。

類似技術の検討と自明性拒絶への対応の必要性

出願人は、クレームされた意匠の製品分野だけでなく、関連する他の分野の先行技術も検討する必要があります。審査官は、クレームされた意匠の製品分野以外の先行技術が類似技術であるかどうかを判断するため、出願人もこの点を考慮しなければなりません。出願人は、先行技術調査を行う際、類似技術の可能性を視野に入れるべきです。

また、出願人は、自明性拒絶に適切に対応するための戦略を立てる必要があります。例えば、主要先行技術と二次的先行技術の組み合わせについて、通常のデザイナーが動機付けを持たないことを主張したり、クレームされた意匠の全体的な視覚的印象が先行技術とは異なることを強調したりすることができます。出願人は、自明性拒絶への対応において、メモの内容を十分に理解し、それを自分の有利に活用すべきです。

新基準による既存意匠特許の有効性への異議申立ての可能性

新たな審査フレームワークは、既存の意匠特許の有効性にも影響を与える可能性があります。特に、Rosen-Durlingテストに基づいて登録された意匠特許は、新たな基準の下では、自明性が認められない可能性があります。競合他社は、このような特許に対して、新たな基準に基づいて無効審判を請求したり、訴訟において自明性を主張したりする可能性があります。

意匠特許権者は、自社の特許ポートフォリオを見直し、新たな基準の下で脆弱な特許がないかどうかを確認すべきです。また、権利者は、無効審判請求や訴訟に適切に対応するための戦略を立てておく必要があります。

以上のように、USPTOのガイダンスメモは、意匠特許出願人と権利者に重要な示唆を与えるものです。出願人と権利者は、メモの内容を十分に理解し、それに基づいて適切な対応を取ることが求められます。

結論

LKQ Corp. v. GM Global Technology Operations LLC判決を受けて発行されたUSPTOの審査ガイダンスメモは、意匠特許の自明性分析に関する重要な変更を導入しています。Rosen-Durlingテストに代わるGraham 要素に基づく新たな審査フレームワークは、より柔軟で実用特許の分析手法に近いアプローチを採用しています。このメモは、審査官が意匠特許の自明性を一貫して評価するための重要な指針となるでしょう。ただし、メモの実施には、審査官のトレーニング、運用の不一致の可能性、類似技術の判断基準の明確化など、いくつかの課題が伴います。また、このメモは、意匠特許出願人と権利者に重要な示唆を与えるものであり、彼らは、メモの内容を十分に理解し、それに基づいて適切な対応を取ることが求められます。今後、USPTOによる継続的な取り組みと、審査官と出願人の間の建設的な対話を通じて、新たな審査フレームワークが定着し、意匠特許の審査の予見可能性と公平性が高まることが期待されます。

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