2024年10月10日、米国特許商標庁(USPTO)がPTABの代理人規則を改正しました。代理人要件に柔軟化や手続きの簡素化が実現されました。非登録代理人のリード代理人就任は見送られ、パイロットプログラムとして検討されることになります。改正はPTABの代理人制度の重要な転換点となります。改正規則の内容や日本の知財実務家が押さえるべきポイントについて解説します。

USPTO代理人規則改正2024: PTABの代理人要件はどう変わる?

1. はじめに

米国特許商標庁(United States Patent and Trademark Office、USPTO)は2024年10月10日、特許審判部(Patent Trial and Appeal Board、PTAB)における代理人規則の改正案を公表しました。この改正は当初、より大胆な改革を目指していましたが、最終的にはより慎重なアプローチが採用されることになりました。

注目すべきは、当初提案されていた非登録代理人のリード代理人(lead counsel)就任を認める案が見送られたことです。USPTOは、パブリックコメントでの意見を考慮し、まずはパイロットプログラムとして試験的に実施する方針に転換しました。これは、代理人の質の確保を重視する慎重なアプローチの表れといえるでしょう。

一方で、PTABにおける代理人要件の一部柔軟化は実現されました。これまでPTABでの手続きでは、当事者が代理人を選任する場合、リード代理人とバックアップ代理人(back-up counsel)の両方を指名することが必須とされ、リード代理人には登録実務家(registered practitioner)であることが要求されてきました。しかし、この厳格な要件が、特に中小企業や個人発明家にとって大きな負担となっているという指摘が続いていました。

このような背景から、USPTOは代理人規則の部分的な見直しを進め、特に財務的な制約のある当事者への配慮を示しつつ、代理人の質は確保するというバランスを保った変更を採用することになったのです。

改正された規則は2024年11月12日から施行されます。本稿では、採用された改正点と見送られた提案の両方を含め、この改正の主要なポイントを解説するとともに、日本の知財実務家が押さえておくべき実務上の留意点について詳しく説明していきます。

2. 代理人要件の主要な変更点

今回の規則改正では、PTABにおける代理人要件が大きく見直されました。以下、主要な変更点について詳しく解説していきます。

2.1 バックアップ代理人規定の柔軟化

最も注目すべき変更点は、バックアップ代理人の選任要件の緩和です。改正後は、「正当な理由」(good cause)がある場合、PTABはバックアップ代理人なしでの手続きを許可することができるようになります。

特に重要なのは、「正当な理由」の具体例として、両方の代理人を雇うための「財務的リソースの不足」が明確に認められたことです。ただし、単にリード代理人が一人での業務を好むといった代理人側の選好は、正当な理由とはみなされません。

また、同じ特許について他のフォーラム(例:連邦地裁)で訴訟を行っている当事者が、財務的リソースの不足を主張することは困難とされています。これは、複数の法的手続きを同時に進める余裕がある当事者には、バックアップ代理人を置く余裕もあるはずだという考えに基づいています。

2.2 プロハックバイス認定手続きの合理化

もう一つの重要な変更は、プロハックバイス(pro hac vice)認定手続きの合理化です。過去にPTABでプロハックバイス認定を受けた非登録代理人には、「暫定的に認定されたPTAB弁護士」(provisionally recognized PTAB attorney)という新しいステータスが与えられます。

この新しい制度の下では、以前プロハックバイス認定を受け、その後認定を拒否されたことがない代理人は、より簡素化された手続きで認定を受けることができます。具体的には:

  1. 認定申請に手数料は不要
  2. 5営業日以内に異議が出されなければ自動的に認定
  3. 異議が出された場合でも、10営業日以内にPTABから特段の指示がなければ認定

2.3 代理人用語の見直し

規則改正では、代理人に関する用語の定義も見直されました。特に注目すべきは、「PTAB認定実務家」(PTAB-recognized practitioner)という当初提案された用語が、「暫定的に認定されたPTAB弁護士」(provisionally recognized PTAB attorney)に変更された点です。

この変更は、非登録代理人と登録実務家との混同を避けるために行われました。プロハックバイス認定を受けた代理人であっても、USPTOの登録実務家とは明確に区別されることになります。しかし、このような代理人も「USPTOの職業行為規則」(USPTO Rules of Professional Conduct)の適用対象となることには変わりありません。

3. 新たな義務と要件

改正規則では、代理人の義務と要件についても重要な見直しが行われました。特に情報開示や専門性に関する要件が明確化され、より実効性のある監視体制が整備されています。

3.1 情報開示義務の明確化

プロハックバイス認定を受けた代理人には、新たな情報開示義務が課されることになりました。特に重要なのは、認定後に生じた重要な変更について5営業日以内にPTABに報告する義務です。具体的な報告対象には以下が含まれます:

  1. 制裁処分や法廷侮辱罪の認定
  2. 弁護士資格の停止・剥奪
  3. 少なくとも1つの州または連邦コロンビア特別区の法曹会員としての適格性の喪失
  4. プロハックバイス認定申請時の表明内容を重要な点で不正確または不完全なものとする事象の発生

なお、その後の別件でのプロハックバイス申請については、申請が拒否された場合を除いて報告義務の対象外とされています。

3.2 法的専門性要件の再定義

今回の改正では、プロハックバイス認定の要件として求められる「確立された専門性」(established familiarity)の解釈も見直されました。重要なのは、「法的な専門性」(legal familiarity)があれば十分とされ、技術的な専門性は明示的な要件とはされなかった点です。

この変更により、特定の技術分野に関する深い知識がなくても、特許訴訟の経験が豊富な弁護士であれば、より容易にPTAB での代理人資格を得られるようになります。ただし、USPTOは、代理人が技術的な理解も備えていることを期待しており、この点は実務上重要な考慮事項となるでしょう。

3.3 代理人資格の継続的な監視

新しい規則では、代理人資格の監視体制も強化されています。特筆すべきは以下の点です:

  • PTABの特許審判官(Patent Administrative Judge)が手続きに関与する際の制限の明確化
  • 管理担当審判官(Management Judge)の役割と権限の明確化
  • 代理人の違反行為に対する制裁権限の明文化

さらに、USPTOは「暫定的に認定されたPTAB弁護士」の活動状況を継続的にモニタリングし、必要に応じて認定の取り消しなども検討するとしています。これは、代理人の質を維持しつつ、より柔軟な制度運用を目指す今回の改正の基本方針を反映したものといえるでしょう。

なお、この監視体制の強化は、特に認定手続きが簡素化された代理人に対する品質管理の仕組みとして重要な意味を持ちます。監視体制の詳細な運用方針については、今後USPTOから追加的なガイダンスが発表される予定です。

4. 今後の展望

今回の規則改正は、PTABにおける代理人制度の大きな転換点となりますが、USPTOはさらなる改革も検討しています。ここでは、今後予定されている施策と将来的な展望について解説します。

4.1 非登録代理人のリード代理人化に関するパイロットプログラム

当初、USPTOは非登録代理人のリード代理人就任を許可する提案を検討していました。しかし、パブリックコメントでの懸念を考慮し、まずはパイロットプログラムとして試験的に実施する方針に転換しました。

このパイロットプログラムでは、以下のような点が重点的に検証される予定です:

  1. クレーム補正など準特許出願的な手続(quasi-prosecution matters)への対応能力
  2. 技術的な議論の適切な取り扱い
  3. PTAB手続きの効率性への影響
  4. 当事者の利益保護の実効性

USPTOのキャサリン・ビダル長官は、このアプローチについて「イノベーションエコシステムに利益をもたらしつつ、高品質な法的代理を確保するための慎重な取り組み」と説明しています。

4.2 代理人規則のさらなる見直しの可能性

今後の代理人規則の見直しについては、以下のような検討課題が挙げられています:

  • プロハックバイス認定の更新制度の導入可能性
  • 特定分野における技術的専門性要件の設定
  • 代理人の継続的な教育要件の導入
  • オンライン化の進展に対応した手続きの電子化促進

特に注目すべきは、USPTOが「知財代理人の多様性の促進」を重要な政策目標として掲げている点です。これは、中小企業や個人発明家の知財システムへのアクセス改善というより広範囲なポリシーの一環として位置づけられています。

ただし、USPTO は代理人の質の確保と利便性の向上という、時として相反する目標のバランスを慎重に取る姿勢を示しています。今回の改正でも見送られた非登録代理人のリード代理人化については、パイロットプログラムの結果を踏まえて、改めて検討される見込みです。

今後も、PTABにおける代理人制度は、イノベーションの促進と質の高い法的サービスの提供という二つの目標の間でバランスを取りながら、段階的に発展していくことが予想されます。日本の知財実務家も、これらの動向を注視する必要があるでしょう。

5. 結論

今回のPTAB代理人規則の改正は、代理人の質の確保とアクセス性の向上という二つの要請を慎重にバランスさせた内容となりました。バックアップ代理人要件の柔軟化やプロハックバイス認定手続きの合理化により、特に財務的な制約のある当事者の負担は軽減されます。一方で、当初提案されていた非登録代理人のリード代理人化は見送られ、代わりにパイロットプログラムとして慎重に検討されることになりました。このように段階的なアプローチを採用することで、PTABにおける代理人制度の信頼性を維持しながら、より包括的なイノベーションエコシステムの構築を目指す姿勢が示されたといえるでしょう。

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