COVID-19救済法律で商標改正がなされていた

COVID-19救済パッケージを含む2021年のConsolidated Appropriations Act for 2021の一環として、議会はTrademark Modernization Actを可決し、2020年12月27日に法律になりました。今回はこのTrademark Modernization Actによる商標の変更点を解説します。


商標権侵害訴訟に関して、同法は、商標権侵害の立証に基づく差止命令による救済を支持するために、回復不能な損害(irreparable harm)の反論可能な推定を復活させました。eBay, Inc.対MercExchangeの特許侵害訴訟における米国最高裁判決は、いくつかの高裁で商標訴訟における損害の推定を排除するために適用され、代わりに損害の証拠を必要としていました。同法は、高裁間の意見の相違を解消し、侵害者の差止めを求める商標権者に貴重なツールを提供するものです。

また、同法は、標本が虚偽であることが証明された出願に対して登録を拒否し、実際に商業上使用されたことがないことが証明された商標の登録を取り消すための迅速な一方的な手続を創設しました。

具体的には、審査中の出願については、第三者が米国特許商標庁長官に対し、登録の拒絶を裏付ける簡潔な説明とともに証拠を提出することができるようになりました。長官は、証拠品が虚偽であることが示された場合、その証拠品を審査官に送付して、さらに調査を行い、登録を拒否することができます。

既に登録されている商標については、同法では、登録に異議を唱えるための2つの一方的な(ex parte)手続が新たに設けられました。第一は、第三者による登録抹消手続であり、「誰でも、登録に記載されている商品やサービスの一部または全部について、またはそれに関連して、商標が商業上使用されたことがないという理由で、登録抹消の申立てを行うことができる」というものです。第二の手続は、「いかなる者も、当該日以前に登録に記載されている商品やサービスの一部または全部に関連して、商業上、商標が使用されていなかったことを理由に、登録の再審査を申請することができる」という手続です。

いずれの場合も、法律では、長官がその手続きを正当化する情報を発見した場合には、長官が除名手続きまたは再審査手続きを開始することも認められています。

除名手続は、登録が有効になってから3年が経過した後に開始することができます。再調査手続は、登録後5年以内に開始することができます。

解説

去年末に施行されたCOVID-19救済パッケージには商標に関する大きな法改正も含まれています。特に、商標権侵害のエリアにおいては差し止めが得られやすくなり、商標権者には嬉しい変更です。その反面、問題となっている商標の標本の模倣などには厳しくなっており、今後の商標出願や更新の際には最新の注意を払う必要があるでしょう。

しかし、Trademark Modernization Actの全体を見ると、より質の高い商標を商標を得られるような制度改正とともに、商標権者がより早く・安価に商標侵害を取り締まれるようになったので、今後はアメリカにおける商標活動が活発になってくるかもしれません。

このタイミングで一度、現地の代理人にレクチャーをお願いして、商標に関する情報をアップデートしておくのもいいかもしれませんね。

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まとめ作成者:野口剛史

元記事著者:Deborah A. Wilcox.Baker & Hostetler LLP(元記事を見る

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