商標取消は不正行為に対する適切な制裁措置

TTABの裁量権は広く、商標登録の取消手続きで不正行為が多発した場合、一方的にデフォルト判決で商標が取り消されてしまうかもしれません。そのため、コロナ禍であっても、TTABに関わる手続きはなるべく滞らせるようなことがないようにすることが大切です。


米連邦巡回控訴裁判所(CAFC)は、食料品店チェーンの米国商標登録の取消を申請する権利を支持する中で、TTAB訴訟における制裁としてデフォルト判決による商標の取消を課す商標審判委員会(Trademark Trial and Appeal Board. TTAB)の明示的権限を肯定しました。Corcamore, LLC v. SFM, LLC, Case No. 19-1526 (Fed. Cir. October 27, 2020)(Reyna, J.)

混同する商標の取り消しを求める訴訟

SFMは、小売食料品店のサービスに関連して使用するためにSPROUTSという商標の米国連邦商標登録を所有しています。SFM は、自動販売機サービスに関連して使用される SPROUTという商標の Corcamore の米国商標登録の取消しを申請し、SFM の先行商標権(prior trademark rights)と消費者が混同する可能性があると主張していました。TTABは、SFMの訴訟原因を提起する権利(Standing)が無いとしたCorcamore社の反論を正当性の欠如を理由に却下しました。TTABは、Empresa Cubana del Tabaco v. General Cigar Co.を参考にして、SFMの登録取消申立に対する「実質的な利益」(“real interest”)とCorcamore社のSPROUT商標登録の継続による「損害の合理的な確信」(“reasonable belief of damage”)に基づいて、SFMの登録取消申立を行う権利を確認しました。

TTABによる棄却の申し立ての却下後、Corcamoreは一連の故意の悪意の手続き操作(willful, bad-faith procedural maneuvers)を行い、2つの別々の制裁(sanctions)を受けました。Corcamoreの更なる手続き上の不正行為(procedural misconduct)が2つの制裁命令に違反したため、TTABはCorcamoreのSPROUT商標登録を取り消すデフォルト判決(default judgment)を下しました。この判決を不服に、CorcamoreはCAFCに控訴しました。

取り消しの判決を不服にCAFCに控訴

控訴したCorcamoreは、TTABが(1)SFMの訴訟原因を提起する権利(Standing)を肯定する際に米国最高裁のLexmark v. Static Controlの枠組みではなくEmpresa Cubanaの枠組みを適用したのは誤りであり、(2)制裁としてデフォルト判決を出すことはその裁量権の乱用であると主張しました。訴訟原因を提起する権利(Standing)の問題について、連邦巡回控訴裁は、Lexmarkはランハム法第1125条(a)項に基づく虚偽広告(false advertising)の請求に関連しているのに対し、Empresa Cubanaは第1064条に基づく取消訴訟(cancellation proceeding)を提起する権利を扱っているため、最高裁のLexmarkの枠組みは適用できないとするTTABの「不当に狭い」(“unduly narrow”)結論を退けました。

SFMは、小売食料品店のサービスに関連して使用するためにSPROUTSという商標の米国連邦商標登録を所有しています。SFM は、自動販売機サービスに関連して使用される SPROUT という商標の Corcamore の米国商標登録の取消しを申請し、SFM の先行商標権(prior trademark rights)と消費者が混同する可能性があると主張していました。TTABは、SFMの訴訟原因を提起する権利(Standing)が無いとしたCorcamore社の反論を正当性の欠如を理由に却下しました。TTABは、Empresa Cubana del Tabaco v. General Cigar Co.を参考にして、SFMの登録取消申立に対する「実質的な利益」(“real interest”)とCorcamore社のSPROUT商標登録の継続による「損害の合理的な確信」(“reasonable belief of damage”)に基づいて、SFMの訴訟原因を提起する権利(Standing)を確認しました。

連邦巡回控訴裁は、Lexmarkは第1064条と第1125条(a)に適用されると結論付けました。それにもかかわらず、連邦巡回控訴裁は、LexmarkとEmpresa Cubanaで表現されている立証のための分析枠組みには意味のある実質的な違い(no meaningful substantive difference)はないと判断し、Lexmarkの「Zone-of-interests」近接原因分析(“zone-of-interests” proximate cause analysis)とEmpresa Cubanaの「real interest」および「reasonable belief of damage」要件は、同様に訴訟原因を提起する権利(standing)を提供するものであると判断しました。そのため、裁判所は最終的に、当事者のSPROUTS商標とSPROUT商標、およびそれぞれの商品とサービスの類似性に基づいて消費者が混乱する可能性があるというSFMの申し立ては、Empresa Cubanaの下で損害の合理的確信を実証するのに十分であり、したがって、取消を介してCorcamoreの登録商標に異議を申し立てる権利を支持するものであるとするTTABの結論に同意しました。

TTAB のデフォルト判決の付与に関して、Corcamore は、37 CFR § 2.120(h)および Fed.R. Civ. R. Civ. P. 37(b)(2)に基づく制裁としてデフォルト判決を与える明示的な権限には異議を唱えませんでした。Corcamore は、TTAB にはそもそもデフォルト判決を下す事実上または法的根拠がないと主張しました。連邦巡回控訴裁はこの主張を真っ向から否定し、Corcamoreのディスカバリーの不正行為、TTABの会議に出席しなかったこと、ディスカバリーの回答を適時に送達しなかったことに対する制裁としてTTABがデフォルト判決を下したことには裁量権の濫用はないと判断しました。

したがって、連邦巡回控訴裁は、SFMがCorcamoreの登録済み米国商標に異議を申し立てるための法的要件を満たしているというTTABの結論を支持し、TTABがデフォルト判決を下してSPROUT商標登録を抹消することで制裁を科すことは裁量権の濫用ではないと判断しました。

解説

このケースから学びたいことは、TTABにおける商標登録の取消に関する手続きで、故意に悪意のある遅延行為や迷惑行為を継続して続けてしまうと、公判が行われないで、TTABがデフォルト判決をし、その中で問題となっている商標登録の抹消してしまう可能性があることです。

CAFCでは、デフォルト判決で商標を失ったCorcamoreがTTABの裁量権ではそのようなことはできないと主張していましたが、CAFCはCorcamoreの主張を受け入れず、TTABの手続きにおけるCorcamoreの不正行為の制裁として商標登録の抹消を行ったデフォルト判決は、TTABの裁量権の範囲内だったという結論を下しました。

今回のケースでTTABの裁量権は非常に広く認められていることがわかりました。そのため、TTABにおける手続きで悪意のある不正行為や遅延行為、手続きを滞らせるようなことをすることはなるべく避けるべきです。そのような行為が続くのであれば、最悪自社が持っている商標が一方的に抹消させられてしまう可能性があるので、コロナ禍であっても、TTABに関わる手続きはなるべく滞らせるようなことがないようにすることが大切です。

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まとめ作成者:野口剛史

元記事著者:Sarah Bro. McDermott Will & Emery(元記事を見る

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