最高裁、州は著作権侵害で訴えられないと判断

Allen v. Cooper, No. 18-877, 589 U.S. ____ (2020)において、米国最高裁判所は、CRCAとして知られる1990年の著作権救済明確化法(Copyright Remedy Clarification Act of 1990)は、議会には主権免責(sovereign immunity)を侵害する権限がないため、州の主権免責を侵害していないとの見解を肯定しました。

ミニ解説

ここで言う主権免除(sovereign immunity)とは、アメリカの州に関するもので、Wikipediaに書かれている国際慣習法ではなく、簡単に言うと連邦裁判所(アメリカの連邦レベルの機関)が州政府(州レベルの機関)に対して判決を下せるか(もっと簡単に言うと、州を連邦裁判所で訴えられるか)という問題です。

これはアメリカのロースクールの憲法のクラスで学ぶようなアメリカ合衆国憲法修正第十一条に関わる問題なので、細かく説明すると小難しくなるので、このくらいざっくりな感じで説明しました。内容は詳しく読んでいませんが、このWikipediaに今回の州の主権免責に関する情報が載っています。

事実背景

申立人フレデリック・アレンは、1996年にノースカロライナ州沖で発見されたクイーン・アンズ・リベンジ号の回収を記録するために雇われました。アレンは多数のビデオや写真を撮影し、すべての作品に著作権を登録していました。しかし、ノースカロライナ州は2013年、アレンの許可なく彼の写真や動画の一部をウェブサイトにアップロードしたことが今回の訴訟のきっかけです。

アレンは著作権侵害を訴え、ノースカロライナ州は州の主権免責を理由に訴えを却下するように訴えました。アレンは、CRCAが州の主権免責を削除したため、ノースカロライナ州が著作権侵害の責任を負うことになると主張しました。

最高裁の判決

最高裁は、CRCAは州の主権免責を放棄していないとする第4巡回区の判決を支持した。最高裁は、一般的に、連邦裁判所は、個人が非同意の州に対して提起した訴訟を審理することはできないとしました。連邦裁判所は、(1)議会が州の主権免責を無効にする「明確な法定文言」を使用しており、(2)議会に州の主権免責を無効にする権限を与える憲法上の規定がある場合には、非同意の州に対する訴訟を認めていると主権免除(sovereign immunity)に関する法律を解釈しました。その解釈の上で、CRCAには、州の免責を無効にすることを意図した明確な文言があるため(条件の(1)を満たしている)、議会に主権免責を無効にする権限があるかどうか(条件(2)に関することがら)が問題となった。

アレンは、議会に著作権保護を提供する権限を与えている第一条がその権限を与えていると主張しました。しかし、最高裁は、Florida Prepaid Postsecondary Education Expense Board v. College Savings Bank, 527 U.S. 627 (1999)の判例から「第1条の知的財産権条項が主権者免責の侵害の根拠となり得ないことを明らかにした」と判断し、第1条は議会に必要な権限を与えていないと判断しました。

アレンはまた、修正第14条第5項(Section 5 of the Fourteenth Amendment)は議会にデュープロセス条項の命令を執行する権限を与えているが、議会には州の主権免責を無効にする権限も与えていると主張しましたが、最高裁は再びこれに反対します。第5条の下で「適切」とされるためには、侵害行為が修正第14条の実質的な禁止事項を侵害していることを「救済または防止」するように調整されていなければならないとしました。このテストは、「防止または救済されるべき損害と、その目的のために採用された手段との間に整合性と比例性があるかどうか」という点に焦点を当てています。連邦議会は、特許権侵害に関してFlorida Prepaid判例で行ったように、州による違憲な著作権侵害のパターンは存在しないと判断したため、このテストは満たされませんでした。修正第14条第5項は、州の主権免責を無効にする権限を議会に与えるには十分ではありませんでした。

解説

今回の判決は、著作権侵害に関わるものですが、憲法に関わる州の主権免責(sovereign immunity)の問題なので、州の主権免責に関する事前知識がないと意味がわかりづらい判決になってしまいました。しかし、最高裁が下した知財判決なので、OLCでも一応伝えておきたいと思い今回取り上げる形になりました。

今回の主権免責(sovereign immunity)の問題、一見日本企業には関係なさそうな話題ですが、そうとも言い切れません。例えば、特許関連で言うと、州立大学から特許を買う、または、ライセンスする場合、主権免責(sovereign immunity)に注意する必要があります

州や連邦政府に関わる案件には主権免責(sovereign immunity)の問題が出てくるので、そのような案件があった場合は、気をつけた方がいいかもしれません。

まとめ作成者:野口剛史

元記事著者: Reema Pangarkar. Cowan Liebowitz & Latman PC  (元記事を見る

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