最高裁は、ランハム法に基づき商標侵害者の利益を求めるためには、原告が故意の侵害を証明する必要はないとする判決を発表しました。この判決は、高裁間の分裂を解決し、商標権侵害事件が多く審理されているSecond and Ninth Circuitsを含む多くのCircuitsの法律を変更するものです。
判例と関連法律
Romag Fasteners, Inc. v. Fossil, Inc. et al., Case No. 18-1233は、ランハム法第35条(15 U.S.C.第1117条(a))の解釈を問題としたもので、関連する部分には以下のように書かれている:
When a violation of any right of the registrant of a mark registered in the Patent and Trademark Office, a violation under section 1125(a) [for trademark infringement] or (d) [for cybersquatting] of this title, or a willful violation under section 1125(c) [for dilution] of this title, shall have been established in any civil action arising under this chapter, the plaintiff shall be entitled, subject to the provisions of sections 1111 and 1114 of this title, and subject to the principles of equity, to recover (1) defendant’s profits, (2) any damages sustained by the plaintiff, and (3) the costs of the action.
15 U.S.C. § 1117(a)
高裁での意見の不一致
今回の判決以前、第一、第二、第九、第十を含むいくつかの巡回区では、原告は、商標権侵害に対する被告の利益の裁定を求める前に、まず故意の侵害を立証しなければならないという規則がありました。この規則は、衡平法の原則では、侵害の結果として原告が被った実際の損害の裁定とは対照的に、被告の利益の没収という厳しい救済措置を正当化するためには、故意の不正行為の立証が必要であるとする判例法に基づいています。
最高裁案件の背景
この訴訟では、Romag Fasteners, Inc. (以下「Romag」)は、ハンドバッグ用ファスナーを販売する被告Fossil, Inc. (以下、「Fossil」)は、Fossilの製品に偽造ファスナーを使用することで、Fossilが登録されたROMAG商標を侵害したとして、被告Fossilを提訴しました。陪審員は侵害を認めましたが、RomagはFossilの侵害が故意であることを証明していないと判断しました。しかし、陪審員は、将来の侵害を抑止するために必要であると判断したため、侵害の主張についても、被告の利益の差押えを認めました。連邦地裁はその後、陪審員が第2巡回区の法律で求められているように故意の侵害を認めなかったため、被告の利益の裁定を取り消しました。連邦巡回区は、第二巡回区の法律を適用してこれを支持し、事件は最高裁に上告されました。
最高裁の判決
最高裁は、故意侵害のしきい値の提示を要求する「範疇の規則」(categorical rule)は、「この法律の平易な文言と両立させることはできない」と判断しました。裁判所は、故意の有無は被告の利益を授与するための前提条件ではないとしながらも、被告の精神状態は商標権侵害に対する適切な救済策を策定する上で非常に重要であることを明らかにしました。要するに、本判決は、被告の精神状態は、利益が与えられるべきかどうかを判断する上で「非常に重要な考慮事項」であるが、故意があることは、第一審でそのような利益を与えることができる前提条件ではないと説いています。
今後の影響
故意性の前提条件が撤廃されることで、楽観的な原告が増え、高額な損害賠償が認められるようになるかもしれません。今回の判決は、被告が訴訟の見通しを評価する方法を確実に変え、裁判前に被告の利益の裁定が妨げられる可能性に影響を与えるかもしれません。しかし、特に、ほとんどの商標権侵害事件において弁護士費用の回収が困難であることを考えると、原告は、訴訟の潜在的なメリットが判決までの訴訟にかかる多額の費用を正当化するために慎重に検討するでしょう。さらに、最高裁の決定後も、裁判所は、利用可能な救済策と裁定額の両方を決定する際に、各特定のケースにおける被告の心の状態をどのように評価するかについて、幅広い裁量権を持つことになるでしょう。
解説
商標権に関する重要な判例が最高裁から下りました。最高裁はいわゆるCircuit splitと呼ばれ2つ以上の異なる控訴裁判所が同じ法律上の問題について矛盾した判決を出す場合に発生するねじれを解消するために、事件を審議することがよくあります。今回もそのケースです。
今回の判例を理解する上で重要なポイントが、故意の証明の重要度の降格です。今回のRomag判決までは、一部の控訴裁判所では商標事件における利益救済を得るには故意の証明が前提条件になっていました。つまり、被告側が意図的に侵害するような精神状態であったことを原告が示す必要があったのです。「意図的」ということを示すには被告側の意思(精神状態)を示す証拠なり証言なりが必要になってくるので、Discoveryがあるアメリカでもその証明はとても困難なものになります。
今回の判決では、利益救済を得るのに故意の証明が必要ではないという判決になりましたが、考えなくていいという訳ではなく、利益が与えられるべきかどうかを判断する上で「非常に重要な考慮事項」になりました。つまり、「故意」の証明は利益救済を得るための必要条件ではなくなったものの、利益救済を得るためには依然として重要な項目であることには変わりありません。証明しなければ得られなかったものから、裁判における裁量を考慮するための重要項目の1つという位置づけになりました。
この変化がもたらす影響がどのように現れるかはわかりませんが、少なくとも理論上は商標の権利者に有利な環境になっていくと思います。また、商標侵害訴訟における利益救済の申立が今後増えてくることが予想されます。
しかし、「故意」が前提条件から重要項目に代わったことに応じて、利益救済を判断する際に、裁判官の裁量権が大きく関わってくるでしょう。そうなってくると、訴訟を起こす場所(forum)で利益救済が得られるか得られないかが変わってくることが予想されるので、過去の判例データなどから、権利者はどの裁判官が利益救済を認めやすいかなどのデータを見て、より戦略的に商標侵害訴訟を起こす必要があります。
まとめ作成者:野口剛史
元記事著者: Andrea L. Calvaruso. Kelley Drye & Warren LLP(元記事を見る)