2020年4月20日、米国最高裁判所は、特許審判不服審査委員会(PTAB)がinter partes review(IPR)を実施する決定は、そのような機関の決定がIPR申請のための法定期間に違反する可能性があるとしても、上訴できないとの判決を下しました。
背景
Thryv, Inc. FKA Dex Media, Inc. v. Click-to-Call Techs. LP, et al.では、最高裁は、連邦巡回控訴裁判所(CAFC)の決定を取り消し、Click-to-Call Technologiesが所有する特許のIPRを実施するPTABの決定は上訴できないと判断しました。CAFCでは、Click-to-Call 社は、IPR が米国発明法 (America Invents Act、以下「AIA」) に規定されている IPR 申立のための法定 1 年の期限に違反して IPR が発動されたことを理由に、不利な IPR 決定に異議を唱えていました。具体的には、特許侵害の訴状が送達されてから 1 年以上経過した後に IPR 嘆願書が提出された場合は、IPR 審理を開始することができないとされているからです。ここでは、Click-to-Call社は、先の訴訟がprejudiceなしの任意却下に終わったため、今回のIPR請願は時期尚早ではないと主張していました。
CAFCの判断
2016 年、CAFCは、AIA は IPR実施決定に関する再審議を禁止するものであるとして、管轄権の欠如を理由に Click-to-Call の上訴を棄却しました。しかし、後日、CAFCで決定されたWiFi One, LLC v. Broadcom Corp. 878 F.3d 1364, 1367 (Fed. Cir. 2018)では、CAFCは、タイムバーの決定は上訴可能であるとしています。WiFi Oneを考慮して、CAFCは、Click-to-Callの件について再審理を認めました。CAFCは、PTABがIPRを実施したことに誤りがあったと判断し、異議のあるクレームの非特許性に関する審査委員会の決定を取り消しました。(OLCで紹介した関連記事はこちら。)
最高裁の判断
最高裁判所は、上訴可能性の問題を解決するために最高裁審議を許可しました。最高裁は、IPRの決定に関連する法令の適用と解釈に密接に関連する事項は司法審査の対象とはならないとした過去の判例に依拠しました。時間制限法はIPRの制度化を明示的に規定しているため、裁判所は、PTABの決定に対する司法審査は、その判例の下では不適切であると判断した。議会の意図とAIAの目的を考慮して、最高裁はさらに、タイムバーの決定に対する上訴を認めることは、「悪質な特許請求を救済する」ことになると述べました。このように、最高裁はCAFCの判決を取り消し、管轄権の欠如を理由に控訴を棄却するよう指示して再送還しました。
判例から学ぶこと
本判決からは、注目すべき点が2つあります。第一に、IPRの申立の適時性に関する問題は、IPR実施の判断が下された段階で提起され、対処されなければならず、上訴では再検討されないことが確認されました。このことは、IPRに直面している特許権者にとって、IPRの早期段階で時間的な問題を調査し、提起することが重要であることを意味しています。
第二に、最高裁は、1 年のタイムバーが、prejudiceなしの任意に却下された訴状によって発動されるかどうかという問題には触れず、この問題は未解決のままであることです。その結果、prejudiceなしの却下を得た被告は、そのような却下が将来的にIPRによる特許の無効化に影響を与える可能性があるかを認識しておく必要があります。
解説
これも知財に関する最高裁の判決で、日本の知財関係者であっても知っておくべきなので取り上げました。
IPRは特許訴訟が起きた際に、特許を無効化するために活用される場合が多いです。しかし、IPRの影響で裁判所での審議に顕著な遅れがでないよう、特許侵害の訴状が送達されてから 1 年以上経過した後に IPR 嘆願書が提出された場合は、IPR 審理を開始することができないというルールがあります。35 U.S. Code § 315(b)
このルールは、平行して起こっている訴訟だけでなく、過去の特許訴訟も関わる場合があるので、過去に特許訴訟の被告になった場合(その訴訟がたとえ取り下げられたものであったとしても)、その訴訟に35 U.S. Code § 315(b)が適用されたら、IPRの審理に影響をおよぼす可能性があります。
今回の最高裁ではこの部分に関して白黒がついていないので、引き続き、過去の特許訴訟とIPRの関連性を十分吟味してから、IPRを行うか否かを決める必要があります。
次に、35 U.S. Code § 315(b)の適用におけるPTABのIPR実施の判断は、今回の判決で上訴できないことが明確になったので、PTABで判断された時点で対処するしか方法はなくなりました。つまり、IPRの初期の段階でタイムバー問題があるならそれを明確にPTABに示さないといけません。ということは、特許権利者としては、IPRで特許がチャレンジされた時点(できれはそれ以前)でタイムバー問題を指摘してIPRの実施を食い止めることができるかを見極めることは、特許の権利行使を考えた上での重要な確認項目になってきます。
まとめ作成者:野口剛史
元記事著者: Victoria E. Ellis, Jeremy Anapol, Sheila Swaroop and Paul Stewart. Knobbe Martens(元記事を見る)