効果的に特許維持費の削減を実現できれば、スマートポートフォリオが作れるので、知財部の機能の大幅に向上することでしょう。それには定期的な見直しとデータによる客観的な評価システムを構築する必要があります。
ほとんどの国の特許は,特許発行後、特許を維持するために維持費や年金を払う必要があります。これらの手数料は、ほとんどの国で毎年請求され、一般的には低額から始まり、すぐに年間数千ドル以上にエスカレートします。アメリカは特殊で、単年ではなく、発行から3年半後,7年半後,11年半後にそれぞれ1600ドル,3600ドル,7400ドルの維持費がかかります。
維持費と貢献度が低い特許
初期の段階では、技術が新しく、費用が安いため、維持費を支払うことはそんなに難しいことではないように思われます。しかし、メンテナンス費用が増加し始めると、その技術が収益をもたらしていることがわからない限り、維持していくかという判断が難しくなってきます。
このような場合、ビジネスに付加価値を与えていない技術の特許を切ることができれば、大幅なコスト削減を実現することができます。しかし、一部の企業では、貢献度が低い特許の削減に抵抗があるかもしれません。また、どんな可能性があっても、何かがきっかけで突然価値が上がるかもしれない特許を切る責任を負いたくない人もいるでしょう。
ポートフォリオの定期的な見直し
賢い企業は、特許ポートフォリオを定期的に見直し、価値のない特許は切るようにプログラムを設定しています。特許所有者は、明確に定義された基準に従って、競合状況分析を実施することで、どの特許を維持するか、または削除するかを判断することができます。多くの場合、リソースは有望な新技術の保護に向けられます。このような理由から、米国では毎年15%から20%の特許が維持費のために放棄されています。
米国の特許では20年の全期間を維持している特許は約50%に過ぎません。米国の維持率が高いのは、最後の維持費が発行から11年半後に支払われるためで、楽観的な特許権者はその時点で特許の失効を認めるという難しい決断をしたくないからだと思われます。
維持管理費の累積コストを計算すると、特許を生涯にわたって維持することは、特許を取得するコストを上回ることが多いことがわかります。しかし、時間の経過とともにコストが加算されていくため、特許を生涯にわたって維持するのは、ビジネスに積極的に付加価値を与える特許に限定すべきです。
元記事では特許のライフサイクルの様々な段階で特許を維持するか廃棄するかを決定する際に、特許所有者が考慮すべきいくつかのポイントを示している表があるので、ぜひ参考にしてみてください。
解説
この特許維持費の削減を実現できれば、スマートポートフォリオが作れるので、知財部の機能の大幅に向上することでしょう。しかし、そもそもどの特許をどのタイミングで切るべきかを確実に知る方法はないので、知財部が特許を放棄する「切った責任」を取れる体制になっているかが決め手になってくるのだと思います。
とは言っても、一個人にもしかしたら「数億円」の価値がある特許を放棄する責任を押しつけるのも酷なので、今後はデーターを重視した客観的なデータの元に判断をしていくシステムになっていくと思います。アプローチはいろいろと考えられますが、知財は保有する企業の「主体的な」観点の価値も大事なので、社内でのデータ収集や独自の指標なども合わせて、総合的に判断するような評価システムを時間をかけて開発するべきではないかと思います。
TLCにおける議論
この話題は会員制コミュニティのTLCでまず最初に取り上げました。維持費削減の際の特許を「切った責任」問題をより深掘りして、データに基づいた判断をするための具体的な提案もしています。
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まとめ作成者:野口剛史
元記事著者: Bryan K. Wheelock. Harness, Dickey & Pierce, PLC(元記事を見る)