公開データのスクレイピングが営業秘密の横領に?

公開情報であっても機械的に情報を集めた場合、その集合体が企業機密に値するかもしれないという見解を示した面白い判決です。今後データはより重要になってきますが、取得する情報自体の機密性に限らず、データ群を集める収集方法にも気をつけないといけなくなるかもしれません。

判例:Compulife Software v. Newman, No.18-12004 (11th Cir. May 20, 2020)

判例のポイント:第11巡回区は被告がウェブサイトからスクレイピングした情報を公開することは、フロリダ州の統一営業秘密法に基づく営業秘密の横領の請求を妨げるものではないという判事の結論を覆しました。

背景

2つの連結訴訟の一部として、Compulifeは、生命保険の見積書を作成するビジネスの直接の競争相手であった被告が以下のような行為をしたと主張しました。(1) 数十の見積書を比較する際に使用する「多くの生命保険会社の保険料率表に関する最新情報」を含むCompulife独自のデータベースへのアクセス権を得るためにライセンシーを装い、(2) データベースから生成された個々の見積書をスクレイピングするボットを使用してデータベースを不正利用し、公開されたウェブサイトで消費者が利用できるようにした。

公判の後、地裁の裁判官はCompulifeのデータベースは企業秘密であるが、被告はそれを悪用していないと結論付けました。裁判官は、被告は原告に対する法的義務に違反しておらず、個々の見積書が一般に公開されていることから、不正使用の認定は自動的に除外されると判断しました。

第11巡回控訴裁の判決

しかし、第11巡回控訴裁は、フロリダ州版の統一営業秘密法の下では、「使用」に基づく不正使用のすべての種類が既存の義務の証明(proof of a pre-existing duty under Florida’s version of the Uniform Trade Secrets Act)を必要とするわけではないと判断し、地裁における営業秘密の請求に関する判決を取り消しました。

第11巡回控訴裁は、例えば、被告が「不適切な手段」によって営業秘密の知識を取得した場合、営業秘密情報の使用は、既存の義務がないにもかかわらず、訴訟の対象となると判断しました。さらに、第11巡回控訴裁は、「Compulifeは、人間が可能な限り多くの引用符にアクセスすることを暗黙のうちに許可しているが、……ボットを使用して他の方法では不可能な量のデータを収集することは、営業秘密データを取得する不適切な手段を構成する可能性がある」とし、この問題は差し戻しの際に地裁で解決されるべきであるとしています。

第11巡回控訴裁はさらに、個々の引用文が保護可能な営業秘密ではなかったとしても、「十分な量の引用文を取得することは、ある時点で基本的な秘密の不正使用に相当するものでなければならない」と説明しています。そうでなければ、法律が明確に規定している『編集物』に対する営業秘密の保護は実質的に存在しないだろう」と説明しました。

ヒント:営業秘密の定義は、状況によっては準公共情報も含めて、かなり広範囲に解釈することができます。競争力のある情報を収集する企業は、収集しようとする情報が保護されていないこと、およびその情報の収集方法が「不適切」でないことを確認する必要があります。

解説

Webスクレイピング(Webデータ抽出、データスクレイピングとも呼ばれる)は、Webからデータを抽出し、Web上のデータをデータベースやスプレッドシートに格納・分析可能な構造化データへの変換するWeb技術です。簡単に言うと、ウェブ上のデータをコピペする作業ですが、プログラムを使うので、短時間で数千件のデータを集めることも簡単にできます。

今回の争点は、情報1つ1つを点として見たときには営業秘密にはならないが、関連する情報を膨大に集めたものは営業秘密に相当するのでは?という点です。つまり、データポイントの1つ1つには価値がないが、膨大な量のデータポイントを総合的に見ると営業秘密に相当する(かもしれない)という考え方ですね。

今回の判決は、よりデータが重要になっていく中で、今後重要な判決になる可能性があります。ただ、スクレイピングが違法というのではなく、ある程度の情報を集めた段階で「営業秘密」になる可能性があることを示唆しているだけなので、その境界線が明確でなく、スクレイピングなどの技術を活用、競合他社のデータ収集を行っている会社は、データの収集元だけでなく、その方法や得られる情報量などにも気をつける必要があるかもしれません。

TLCにおける議論

この話題は会員制コミュニティのTLCでまず最初に取り上げました。TLC内では現地プロフェッショナルのコメントなども見れてより多面的に内容が理解できます。また、TLCではOLCよりも多くの情報を取り上げています。

TLCはアメリカの知財最新情報やトレンドはもちろん、現地で日々実務に携わる弁護士やパテントエージェントの生の声が聞け、気軽にコミュニケーションが取れる今までにない新しい会員制コミュニティです。

現在第一期メンバーを募集中です。詳細は以下の特設サイトに書かれているので、よかったら一度見てみて下さい。

まとめ作成者:野口剛史

元記事著者: Linda A. Greene, Steven Grimes and Shannon T. Murphy. Winston & Strawn LLP(元記事を見る

ニュースレター、会員制コミュニティ

最新のアメリカ知財情報が詰まったニュースレターはこちら。

最新の判例からアメリカ知財のトレンドまで現役アメリカ特許弁護士が現地からお届け(無料)

日米を中心とした知財プロフェッショナルのためのオンラインコミュニティーを運営しています。アメリカの知財最新情報やトレンドはもちろん、現地で日々実務に携わる弁護士やパテントエージェントの生の声が聞け、気軽にコミュニケーションが取れる会員制コミュニティです。

会員制知財コミュニティの詳細はこちらから。

お問い合わせはメール(koji.noguchi@openlegalcommunity.com)でもうかがいます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

OLCとは?

OLCは、「アメリカ知財をもっと身近なものにしよう」という思いで作られた日本人のためのアメリカ知財情報提供サイトです。より詳しく>>

追加記事

Seiko Epson
特許出願
野口 剛史

特許審査履歴解説: 補正で完璧な差別化ができ1回のOAで権利化できた案件 (Seiko Epson)

今回はSeiko Epsonの特許審査履歴を解説しました。2023年2月7日に発行されたSeiko Epsonの特許(Pat. No: 11,567,511)の出願履歴から考察しました。1回目のOAでは独立クレームが異なる文献で102条の拒絶が2回、そして103条による拒絶が2回と、計4回拒絶されていたのですが、大幅な補正を独立クレームに加えることによって、先行技術との差別化に成功しました。どの点に注目して差別化を測るか、どこまでクレームを補正するか、は権利化の手続きにおいて非常に重要な点であり、特許弁護士としての技量が試されるものでもあります。今回は、従属クレームでも注目していなかった点を大胆にクレーム1の補正に加えたことによって、クレーム1の内容を引用された文献とは異なるようにうまく限定し、権利化につなげていました。

Read More »
著作権
野口 剛史

最高裁判決:著作物の二次的な使用はより難しくなる?フェアユースはどう判断されるべきか

最高裁判所は、アンディ・ウォーホル財団 v. ゴールドスミス事件において、ウォーホルがプリンスの著作権保護された写真を使用した場合の目的と性格がフェアユースには該当しないと判断しました。判決は、単に新たな表現やメッセージを追加するだけではフェアユースを支持しないことを明確にしました。最高裁は、オリジナルの作品と二次利用が同じ目的であり、二次利用が商業的な場合、フェアユースとみなされるためには説得力のある正当化が必要と強調しました。この判決は、フェアユースの要素を適用する方法や、著作権で保護されたさまざまな創作物に対する取り扱いについて多くの疑問を投げかけています。

Read More »