PTABが6年ぶりにガイドラインを更新、特許権者有利に

米国特許庁は、2018年8月13日にTrial Practice Guideを更新しました。このガイドラインは2012年にAIAに伴い作成され、6年たった今年、初めて更新されました。この更新による実務上の変更は大きく、変更は全体的に特許権者に有利なものになりました。

以前までは、申立人が最後のブリーフをpetitioner replyで提出することができました。しかし、これからは、特許権者が最後のブリーフを提出することができるようになります。この変更は、明らかに特許権者に有利な変更です。更に、口頭弁論の際に、特許権者の反論主張をする時間が与えられたことです。このような特許権者に有利な変更を含めた今回のガイドラインによる大きな変更は以下の通りです。

主な変更点

1.Patent owner observations on cross-examinationはなくなり、 patent owner sur-replyに変更:

新しい証拠の提出等はできませんが、特許権者によるsur-replyは自動的に許可され、スケジュールにも組み込まれることになりました。この変更により、特許権者は、申立人のcross-examinationの際に申立人が認めた内容を、sur-replyでハイライトできるだけでなく、今までできなかった、申立人の主張に反論することができるようになりました。この変更により、申立人ではなく、特許権者が最後のブリーフを提出することができるようになります。

2.特許権者は口頭弁論の際にもsur-rebuttal oral argumentができるようになった:

この変更により、口頭弁論でも特許権者が最後に主張できるようになりました。

3.口頭弁論の時間はデフォルトで各当事者ごとに1時間:

これはPTABにおける実務を文章化しただけなので、特に実務に大きな影響はありません。ケースにより、これよりも多く時間を与えられたり、逆に、時間が制限されることもあります。また、他のケースと連結された場合、時間制限が短くなることがあります。

4.口頭弁論の前にカンファレンスをリクエストできるようになった:

このカンファレンスの目的は、口頭弁論で議論されるべき問題の整理です。パネル行政判事が関心のある事柄を知ったり、手続きや証拠に対する問題を事前に解決する場です。このようなカンファレンスは口頭弁論の最大で3日前から行うことができます。このカンファレンスを活用することにより、口頭弁論でよりパネル判事の関心している事柄に集中した議論を可能にします。

5.口頭弁論の前に証拠の除外を申し出ることができる:

この申し出は、案件の中核に関わる証拠のみに適用されるルールなので、あまり実務では使用するルールではありません。しかし、鍵を握る重要な先行例文献の公開日などに問題があり、その文献が先行例となるかならないかで、事実上、判決が決まってしまうような場合は口頭弁論なしで、IPRを早期に解決できる強力な手段になりえます。

コメント

このような特許権者に有利な変更が今後どのようにIPR等の結果に影響してくるのか今後も継続してモニターする必要があります。また、最高裁SAS判決の影響で一部クレームのみに対するIPRはできなくなったので、今、アメリカでは IPR に関する環境が大きく変わりつつあります。

まとめ作成者:野口剛史

元記事著者: Scott A. McKeown, Filko Prugo and Charlotte Jacobsen. Ropes & Gray LLP (元記事を見る

ニュースレター、会員制コミュニティ

最新のアメリカ知財情報が詰まったニュースレターはこちら。

最新の判例からアメリカ知財のトレンドまで現役アメリカ特許弁護士が現地からお届け(無料)

日米を中心とした知財プロフェッショナルのためのオンラインコミュニティーを運営しています。アメリカの知財最新情報やトレンドはもちろん、現地で日々実務に携わる弁護士やパテントエージェントの生の声が聞け、気軽にコミュニケーションが取れる会員制コミュニティです。

会員制知財コミュニティの詳細はこちらから。

お問い合わせはメール(koji.noguchi@openlegalcommunity.com)でもうかがいます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

OLCとは?

OLCは、「アメリカ知財をもっと身近なものにしよう」という思いで作られた日本人のためのアメリカ知財情報提供サイトです。より詳しく>>

追加記事

analysis-data-statistics
企業機密
野口 剛史

データと知的財産の交差点: 共有したいデータをどのように保護するか?

多くの場合、ビジネスデータは知的財産として特徴づけられます。しかし、クライアントと共有したりそのようなデータを公開することは知的財産の保護の観点で問題があるかもしれません。ある知的財産の不適切な早すぎる開示はビジネスに損害を与え、不利益をもたらす可能性があります。そこで、知財価値のあるデータの分類と知財保護対象のデータを共有する際の契約ポイントについて話します。

Read More »
start-up
特許出願
野口 剛史

ハイテクベンチャー企業がやるべき知的財産権対策

ベンチャー企業の設立当初から、創業者は多くの決断を迫られ、気をつけていないと、法的・経済的に大きなリスクを負うことになりかねません。このリスクは、技術系企業の知的財産に及ぶものもあり、企業の存続に関わる問題に発展することもあります。しかし、そのようなリスクが表面化するのは資金調達や買収のデリジェンスのタイミングであったりすることから、知財で問題があってもそれを修正するには手遅れになることがよくあります。そこで、今回はそのようなリスクを回避するためにハイテクベンチャー企業がやるべき知的財産権対策をいくつか紹介します。

Read More »
Contract-signing
特許出願
野口 剛史

署名による特許権譲渡を伴わない米国特許の取得

特許権の譲渡はアメリカの特許法において大切なコンセプトの1つです。アメリカでは誰が特許の権利者なのかで揉めるケースも以外に多いです。特許権者の特定に関しては日本のシステムとは異なるので、人材の流動が激しいアメリカにおいて、発明や特許出願に対する会社(や組織)への譲渡が適切に行われているか、アメリカに拠点を持っている会社は一度確認してみてはいかがでしょうか?

Read More »