PTABがCAFCに上訴中のケースに関わるIPRを却下

PTAB は、Comtech Mobile Datacom Corp v. Vehicle IP, LLC, Case IPR2018-00531, Paper 9 (PTAB July 20, 2018)において、 CAFC に上訴中ケースにおけるクレーム解釈によって特許の有効性が大きく変わるとして、 PTAB に与えられている裁量権を使い IPR 手続きを却下しました。

U.S. Patent No. 5,987,377 (“‘377特許”)は、自動車のナビゲーションシステムに関わるもので、自動車の到着時間を予測するという特許でした。この特許を使い、特許権者の Vehicle IPは2009年にAT&Tなどの会社を訴えました。

訴訟の流れ

地裁ではクレーム解釈が行われて、非侵害の略式裁判(summary judgment of non-infringement)が下されました。その後、上訴され、 CAFC は、地裁におけるクレーム解釈に問題があったとして、略式裁判を却下し、ケースを地裁に差し戻しました。差し戻しされたケースは、地裁で争われ、クレームに書かれていた “dispatch”という用語に関しての解釈が行われました。しかし、そのクレーム解釈を不服に思った特許権者のVehicle IPが CAFC に再度上訴、現在、 CAFC で審議が行われている状況です。

IPRの申し立て

2回目の上訴と同じタイミングで、訴訟には関わりのないComtech Mobile Datacom Corporation (“Comtech”)が、訴訟に関わる‘377特許に対する IPR 手続きの申し立てを行います。 IPR2018-00531。この申立書で、Comtech は PTAB に問題になっている“dispatch” という用語の解釈に関して、地裁の解釈ではなく、特許権者の Vehicle IPが主張する解釈を用いることを要請します。

裁量権による却下

しかし、 PTAB は IPR を正式に開始するか否かを判断するinstitution decisionにおいて、‘377特許に対する IPR 手続き開始を却下。その理由が、“dispatch”という用語の解釈次第では、特許が無効になること、また、その解釈に関して現在CAFCで争われいることを上げ、 PTAB による IPR を今始めることは、 PTAB のリソースを有効的に使うものではないと判断しました。さらに、 PTAB は、AIAにおいて IPR が作られたのは不必要な訴訟コストを減らすためであり、Comtechは現在進行している訴訟の当事者ではないが、今 IPR を始めるとこは、 IPR の目的に反すると指摘しました。また、Comtechが訴訟の当事者でないという理由から、 IPR を今始めないことで、Comtechに大きな被害を与えることはない(would not be significantly prejudiced )と判断しました。

しかし、Comtechは訴訟の当事者でも実質的な当事者でもないので、35 U.S.C. § 315(b)による IPR 申し立て期限は適用されず、 CAFC がクレーム解釈の問題を解決した後、また‘377特許に対しての IPR 手続きを申し立てを行うことができます。

教訓

IPR の申し立てを行う申立人も、それに受けて答える特許権者も、平行して進んでいる訴訟等をどう PTAB に説明するかは大切なポイントになります。申立人の場合、他の訴訟があっても、 IPR 手続きの方がより効率的で費用対効果がいいということを強調する必要があります。また、訴訟の当事者である場合、35 U.S.C. § 315(b)によるIPR申し立て期限があることを指摘し、 IPR が始まらない場合、申立人が大きな被害を被ることを指摘することが重要です。反対に、特許権者の場合、すでに進行している他の手続きに比べ、 IPR を今始めることは非効率で意味のないものだということを主張することが大切です。

コメント

PTABの裁量権によって、IPRを却下することができるという点は、最近判決が下ったSaint Regis Mohawk Tribe判決(先住民に特許を譲渡してIPRを回避しようとした)におけるCAFCの理由にも現れています。

まとめ作成者:野口剛史

元記事著者:Marc S. Blackman. Jones Day(元記事を見る

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