Pre-Appeal Brief Review Requestをする価値はあるのか?

アメリカの特許出願において、最終拒絶通知が来た場合、以下の3つのオプションがあります。1)審査を継続するためRCEを出願する、2)上訴する(Appeal)、3)放棄する。オプション1のRCEは、同じ審査官が審議を継続します。上訴した場合、パネルによる再審議が行われ、費用も時間もかかってしまいます。また、上訴しても、出願人がブリーフを提出した後、審査官が拒絶を取り下げるため、PTABまで行かないケースが多数あります。

PABRとは?

2005年7月12日、特許庁はPre-Appeal Brief Review (PABR)というパイロットプログラムをはじめました。この制度により、最終拒絶通知が来た際、4つ目のオプションができました。この PABRは現在の RCE と上訴の間を補うものとして作られました。PABRでは、出願は審査官の元を離れ、上訴で行われるようなベテラン審査官のパネルにより再審議され、通常の上訴よりもかなり早い45日以内という時間で判決が下されます。パネルの構成は、担当審査官、その上司(supervisory patent examiner (SPE))、また、別のSPEで構成されることがほとんどです。出願人はレビューに参加できず、パネルの判決が下されるまでインタビューは行なえません。上訴の提示( Notice of Appeal)はPABRと共に行う必要はありますが、それ以外で、費用はかかりません

以下の4つの内1つの判断が理由が述べられずにパネルによって行われます:

(1) 少なくともクレームの1つに関して上訴される問題があるため、上訴扱いになる。
(2) 継続して審査が行われる。その場合、特許庁から審査に関わる連絡がある。また、場合によっては、パネルによる変更の提案が付属し、それに合意する場合、問題になっていたクレームが許可される場合がある。
(3) クレームが許可され、審査が終了。
(4) 提出書類が基準に満たしていないため、PABRが終了。

PABRは、2005年からある仕組みで継続中ですが、代理人からは人気がありません。というのも、多くの代理人が、PABRを行っても出願人にとって有利にはならないと思っているためです。

PABRをする価値はあるのか?

もし「(3) クレームが許可され、審査が終了。」という判断だけが「成功」と考えるなら、答えは「No」です。

しかし、「(2) 継続して審査が行われる。」も「成功」に含める場合、PABRを行う価値のあるケースはあると考えます。

次に統計データを見てみます。

LexisNexis PatentAdvisor などのツールを使うと、アートユニット別のPABR関連データが見れます。(詳しくは元記事に表示してある図を見てください。)

例えば、元記事の著者が担当するアートユニットで見てみると、「(3) クレームが許可され、審査が終了。」というケースが33%ほどですが、「(2) 継続して審査が行われる。」も含めると55から77%に「成功」の確立が上がります

「(2) 継続して審査が行われる。」の場合、RCEや上訴なしで審査が継続されるので、金銭的にも、時間的にも費用対効果はあると思います。

また、より多くのアートユニットの統計を考慮すると、「(1) 上訴扱いになる」が50%、「(2) 継続して審査が行われる」が40%、「(3) クレームが許可され、審査が終了」が5%とのことです。

PABR Best Practices

1)出願人が拒絶をクリアーするのに補正の必要がなく、2)明確な法律のエラーや事実の欠乏がある場合にPABRを行うべきです。クレーム解釈の問題や、先行例の解釈の問題でPABRを使用するのは好ましくありません。そのような解釈の問題は、上訴して争うべきです。また、LexisNexis PatentAdvisorJuristatなどのツールを使って、統計的に成功確率を把握して、その情報も考慮してPABRを行うか決めたほうがいいでしょう。

また、PABRのブリーフは5ページまでとなっているので、その制限を有効活用するために以下のことをおすすめします:

  • 一番強い主張を一番最初に持ってきて、すべてを主張しない
  • 審査官が拒絶するために必要な重要な要素を考慮していないことを主張法律的な問題(例えば “teaching away”や審査官が出願人のすべての反論に対して対応していないなど)を指摘する
  • 必要に応じて、クレームチャートなどを作成して問題点を明確にする
  • シンプルにまとめて、問題点を明らかにする

まとめ

PABRはうまく仕えば、費用対効果もよく、判決までの時間も短かくて済みます。PABRは人気はありませんが、最終拒絶通知が来た場合の4つ目のオプションとして考える価値は十分あると思います。

 

コメント

OLCでもウェビナーでPABRを含めた最終拒絶通知対応に関するウェビナーを行いました。興味のある方は、以下のリンクをクリックしてください。

知っておきたい米国IDS手続きと最終拒絶理由通知対応のまとめ

まとめ作成者:野口剛史

元記事著者:Natalie D. Kadievitch. Fredrikson & Byron PA(元記事を見る

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