裁判官直伝の実務アドバイス(書類作成編)

アメリカでは数々の知財関連カンファレンスが開かれ、そこには現役の裁判官も参加し、意見することがあります。2018年7月26日、特許庁のSilicon Valley Regional Officeが PTAB によるJudicial Conferenceを開催。このカンファレンス期間中、行政判事( ALJ )が PTAB に関わる様々な手続きに関する実務アドバイスを語りました。今回は PTAB の手続きにおける書類作成のポイントを紹介します。(口頭弁論のポイントはここから。)

書類作成:説得力の高い主張をするためのアドバイス

1.事実上の問題を強調する(Emphasize Factual Issues):

PTAB の手続きにおいて事実を審議するのは重要で、行政判事は事実上の問題を提示することで、相手側の主張も事実に関する事柄になり、事実上の問題点が明確に浮き彫りになることがよいとしました。この理由は、 PTAB では事実に関する検証に重点が置かれて、 CAFC (上訴された場合)では法律に関する検証(法的な事柄は de novo review)に重点が置かれているアメリカ司法システムに関連していると思われます。

2.弱みと異議を明確に提示する(Address Weaknesses and Disputes Head-On):

自分のケースの弱みは隠すのではなく、明確に示すことを進めています。弱みは隠すと相手に指摘されてしまうので、指摘される前に、自分から弱みを提示し、その解決方法も提示することで印象を良くすることが大切だとしました。また、相手と異なる主張(異議)は、早い段階から開示し、問題点を整理することを進めています。特に、判事は訴訟後半の口頭の際に初めて異議の存在をしるというような状況を嫌うので、早めの開示がポイントになります。

3.証拠が不十分な立場はとらない(No Conclusory Positions):

証拠が共わない主張は有効ではありません。例えば、当業者は提示された先行例文献を合わせる動機があると単に主張するだけでは、何も説得力がありません。なぜそのような主張をするのか、証拠を用いて説明する必要があります。また、証言や証拠によってサポートされていない弁護士の主張も有効ではありません。

4.関連判例や証拠を引用する(Specific Cites To Relevant Case Law and Evidence):

PTAB における手続きの時間的制限や地裁と違い PTAB にはLaw clerk(判事を実務レベルでサポートする職員)がいないことから、引用をしっかりとおこない、判事に自身の主張に対して事実的・法律的なサポートがあることを明確に示すことが大切だとしました。書類に端的で簡単に関連判例や証拠がわかる引用がされていれば、その分、説得力の高い主張として受け入れられます。

5.判例として扱われない意見も参考になる(Non-Precedential Opinions Can Help):

PTAB の判事は、判例ではない意見に従う必要はありませんが、もしそのような意見が同じような事柄に関するものだったら、参考になるものだとしました。

6.引用形式やページの番号に注意を払う(Pay Attention to Citation Format and Page Numbering):

担当判事を特定し、その判事がどのような引用形式を使っているかを知り、その形式に合わせて書類を作成する。 また、判事は通常、提出証拠に記載されているページ数を引用するので、事前に書類にページ数を明記することが大切。

7.関連ケースには同じ提出番号表記を用いる(Use Consistent Exhibit Numbering Across Related Cases):

複数の関連 IPR が並行して進んでいる場合、同じ提出番号表記を使用することを進めます。また、提出書類は、名前ではなく、番号で特定するようにすることが大切です。また、証拠をサーバー上に提出する際は、提出番号と共に、短い書類のタイトルを併記すると、判事が後で証拠を特定しやすくなります。

8.一番強い主張に集中する(Focus On Your Strongest Arguments):

IPR における Estoppel の懸念から考えられるすべての主張を IPR でおこなう場合があります。しかし、そのようなアプローチではなく、一番強い2から3の主張に絞って主張した方が IPR では効果的だと行政判事は答えました。もし他の主張も示したい場合、最後の方に短く示すといいでしょう。

9.新しく提示された問題に対しての返答のチャンスを申し出る(Request Reply Briefing To Address New Issues):

特許権者による IPR 申立書に対する返答で、申立人が申立書を書いたときに予期していなかった新しく提示された問題があった場合、すぐに申立人が判事に連絡をとり、返答(Reply brief )がおこなえるかを尋ねることが大切です。判事はなるべく早く問題に対しての情報を得たいと思っているので、そのようなリクエストは認められることが多いです。

コメント:

日本の知財訴訟担当者が実際にアメリカの IPR で提出するBriefやMotionを書くことはありませんが、アメリカの弁護士が作成した書類をレビューすることは多々あると思います。そのようなときに自社に対して有利に進むよう、実際に PTAB において判決を下す行政判事の立場になって、上記の9つのポイントを考慮してレビューし、現地の担当弁護士にフィードバックをすることが大切になってきます。以上の9つの点は、アメリカの弁護士であれば誰でもLaw schoolの時代から学んできたことです。しかし、日本ではそのような学びの機会はないと思うので、このポイントを参考にしつつ、次回以降の PTAB (と裁判所)提出書類のレビューをしてみてください。

口頭弁論のアドバイスはこちら

まとめ作成者:野口剛史

元記事著者: S. Christian Platt. Jones Day (元記事を見る

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