審査官は生産性と質の面で評価され、その評価は担当する特許案件の権利化にも影響を与えています。今回は、前編として、審査官の評価システムを理解した上で、審査官評価システムを実務に応用する際の仮定と、審査官の審査基準やバイアスに依存しない、有効な特許を作る方法を考えていきます。後半は、ここにおける仮定と有効な特許の作成方法を踏まえた上での実務応用編になります。
仮定
以下の分析では、審査官を説得し、出願人が望むクレームを最小限の補正とコストで得ることを目的としています。「出願人が望むクレーム」は、戦略や案件によってクレームの範囲が異なると仮定しています。また、戦略として、次の通知で特許許可通知(Notice of allowance)を受け取ることを目的としています。
審査官の奨励システムは特許を許可する方に傾いている
審査官は基本的に特許を許可すると高評価が得られます。つまり、普段の審査は特許を許可する方向にバイアスがかかっているということになります。しかし、例外があり、 Signatory Review Programという昇進の審査が行われている期間は、特許許可率が下がる傾向にあります。つまり、逆に言うと、Signatory Review Programの間は真剣に審査をしていて、それ以外の時は、人工的に特許許可率が高くなっていると見ることができます。審査官の奨励システムが特許を許可する方に傾いているという前提で考えると、実務上、以下の点について気をつけることがあります。
許可された特許の有効性は?
特許は権利行使できるからこそ価値があります。しかし、審査官が中立でなく、特許を許可する方向にバイアスがかかっているとすると、審査後に受け取る特許の有効性に疑問が残ります。実に、権利化された特許が後日IPRなどで無効になるということは頻繁に起こっているので、審査官の審査結果に依存しない、出願戦略を用いて「有効な」特許を作り出していく必要があります。
有効な特許を作る方法
実務上、特許庁における審査に左右されないで、有効な特許を作成するのに有効な方法を3つ提案します。
1.従属クレームに力を入れる
クレーム1が無効と判断された場合、残りのクレームを独立した形で権利行使することはできるでしょうか?このようなことを前提にクレームを出願前に書けば、対策に対するコストはほぼかかりません。事前に生き残れる従属クレームを考えておけば、その内容に関する詳細を明細書に加えることもできます。具体的には、特定の具体例に関することがらや、組み合わせてシステムを作る場合の必須要素などを従属クレームとして加えると効果的なことが多いです。
2.継続出願をする
権利行使の際、どのような要素が重要かは出願時にはわかりません。継続出願をしておけば、権利行使の際に、その状況に合わせてクレームを変更できる場合があります。特に、重要な出願の場合、継続出願をして、柔軟性を保つのもいいアイデアです。
3.自社で有効性を判断する
コストはかかりますが、自社で綿密な先行例調査をして、事前にクレームの有効性をある程度判断することができます。すべての案件に対してではなく、重要な出願の場合、このように事前に綿密な先行例調査をし、特許の有効性を判断するのもありです。
後編へ続く
ここにおける仮定と有効な特許の作成方法を踏まえた上での実務応用編になります。
まとめ作成者:野口剛史
元記事著者: Eric D. Blatt. Rothwell, Figg, Ernst & Manbeck, PC(元記事を見る)