商標登録取消申請における少数株主の原告適格について解説

少数株主は商標登録取消申請を行うことができない

本記事では、連邦巡回区控訴裁判所(Court of Appeals for the Federal Circuit、以下CAFC)が下した、Luca McDermott Catena Gift Trust v. Fructuoso-Hobbs SL事件の判決について解説します。本件は、商標法(ランハム法)に基づく商標登録取消申請(Trademark cancellation petitions)における少数株主の原告適格が争点となった事例です。

本件の概要は以下の通りです。Paul Hobbs Winery, L.P.(以下、Hobbs Winery)は、PAUL HOBBS商標を所有しています。Luca McDermott氏らの家族信託は、Hobbs Wineryの21.6%を共同で所有する少数株主です。一方、Fructuoso-Hobbs SLはALVAREDOS-HOBBS商標を、Hillick & Hobbs EstateはHILLICK AND HOBBS商標を、それぞれ所有しています。McDermott氏らの家族信託は、ALVAREDOS-HOBBSおよびHILLICK AND HOBBS商標について、混同のおそれと詐欺を理由に登録取消を求める申請を行いました。これに対し、商標審判部(Trademark Trial and Appeal Board、以下TTAB)は、McDermott氏らがHobbs Wineryの少数株主に過ぎず、PAUL HOBBS商標に関する独自の権利を有していないことを理由に、原告適格(standing)を欠くとして申請を却下しました。McDermott氏らはこれを不服としてCAFCに控訴しました。

本件の争点は、商標法(ランハム法)に基づく商標登録取消申請において、少数株主が原告適格を有するか否かです。具体的には、McDermott氏らのような少数株主が、商標登録取消申請の原告となるために必要な法律上の利益を有しているか否かが問題となりました。

事件の背景

本件は、複数の関連当事者間の複雑な関係を背景としています。

まず、Hobbs Wineryは、ワイン製品に関してPAUL HOBBS商標を所有しています。Paul Hobbs氏は、Hobbs Wineryのワインメーカーであり、同社の一部を所有しています。

次に、Luca McDermott氏と、その他2つの家族信託は、Hobbs Wineryの限定パートナーであり、合わせて同社の21.6%以上を所有する少数株主です。

一方、Fructuoso-Hobbs SLは、ALVAREDOS-HOBBS商標を所有するスペインのワイナリーであり、Hillick & Hobbs Estateは、HILLICK AND HOBBS商標を所有するニューヨークのワイナリーです。これらの商標は、いずれもワインに関連する商品・サービスを対象としています。両社は、その名称が示すように、Paul Hobbs氏と何らかの関係を有しています。

McDermott氏らの家族信託は、ALVAREDOS-HOBBSおよびHILLICK AND HOBBS商標について、Hobbs WineryのPAUL HOBBS商標との間で混同のおそれがあるとして、商標登録の取消を求める申請を提起しました。また、Fructuoso-Hobbs社が、PAUL HOBBS商標の登録出願を担当した弁護士に、混同のおそれがない旨の宣言書を提出させたことが詐欺に当たると主張しました。

これに対し、商標審判部(TTAB)は、McDermott氏らの家族信託がHobbs Wineryの少数株主に過ぎず、PAUL HOBBS商標の所有者ではないことから、商標法(ランハム法)上の登録取消申請を行う原告適格を欠くと判断しました。また、混同のおそれと詐欺の主張については、信託がPAUL HOBBS商標について独自の権利を有していないことから、これらの主張に必要な要件を満たしていないとして、申請を却下しました。

CAFCの分析

CAFCは、本件の控訴審において、McDermott氏らの信託が商標登録取消申請の原告適格を有するか否かについて、以下のように分析しました。

Article III standing(憲法上の当事者適格)

まず、CAFCは、信託がTTABの決定を不服申立する憲法上の当事者適格(Article III standing)を有するか否かを検討しました。Article III standingの要件は、以下の3つです。

  1. injury-in-fact(事実上の損害):具体的かつ特定の、実際の又は差し迫った損害を受けたこと
  2. causation(因果関係):損害が被告の行為に起因すること
  3. redressability(救済可能性):裁判所の判断により損害が回復可能であること

CAFCは、信託が主張する損害(Hobbs Wineryへの投資価値の減少)は、少数株主であっても事実上の損害に該当し、因果関係と救済可能性の要件も満たすとして、信託はArticle III standingを有すると判断しました。

ランハム法15 U.S.C. § 1064に基づく法律上の原告適格

次に、CAFCは、ランハム法15 U.S.C. § 1064に基づく商標登録取消申請について、信託が法律上の原告適格を有するか否かを検討しました。この点については、最高裁判所のLexmark判決の枠組みに従い、以下の2つの要件を分析しました。

  1. zone of interests(保護対象範囲):原告の利益が、法律が保護しようとしている利益の範囲内にあること
  2. proximate causation(近因):原告の損害が、被告の行為と密接な関係にあること

保護対象範囲の分析

CAFCは、信託がPAUL HOBBS商標について独自の商業的利益を有しておらず、信託の利益はHobbs Wineryの利益から派生したものに過ぎないと指摘しました。そのため、信託の利益は、商標法が保護しようとしている利益の範囲外にあり、保護対象範囲の要件を満たさないと判断しました。

近因の分析

また、CAFCは、信託の主張する損害は、Paul Hobbs Wineryが被る損害から派生したものに過ぎず、被告の行為との因果関係が希薄であると指摘しました。そのため、近因の要件も満たさないと判断しました。

以上の分析から、CAFCは、信託はランハム法15 U.S.C. § 1064に基づく商標登録取消申請の法律上の原告適格を有しないと結論付けました。

本判決の示唆と考察

本判決は、商標法(ランハム法)に基づく商標登録取消申請における少数株主の原告適格に関する重要な示唆を与えるものです。以下、本判決から得られる示唆と考察について述べます。

上訴通知の適切な作成の重要性

本件では、McDermott氏らの家族信託のうち、上訴通知において適切に上訴人として特定されたのは1つの信託のみでした。このことから、上訴通知を適切に作成することの重要性が浮き彫りになりました。上訴人を正確に特定することは、上訴審における手続の前提となる重要な事項です。

商標登録取消申請における少数株主の原告適格の欠如

本判決は、商標登録取消申請において、少数株主は原告適格を有しない可能性が高いことを示しました。商標権を有する会社の少数株主は、当該商標について独自の商業的利益を有しておらず、商標法が保護しようとしている利益の範囲外にあると考えられます。また、少数株主の被る損害は、商標権者である会社が被る損害から派生したものに過ぎず、商標登録者の行為との因果関係が希薄であると言えます。

著名人の氏名と商標

本件は、著名人の氏名を冠した会社に投資する際のリスクについても示唆を与えています。

  1. 著名人の氏名を冠した会社に投資することのリスク:著名人の氏名を冠した会社に投資する際は、当該著名人が関与する他の事業との関係に留意する必要があります。本件のように、著名人が自己の氏名を用いて複数の事業に関与している場合、これらの事業間で商標の使用に関する紛争が生じるリスクがあります。
  2. 商標登録が個人の商業活動をコントロールする上での限界:本件は、商標登録が個人の商業活動をコントロールする上で限界があることも示唆しています。たとえ会社が著名人の氏名を含む商標を登録していたとしても、当該著名人が自己の氏名を用いて他の商業活動を行うことを完全に制限することは困難です。

Article III standingとランハム法上の原告適格の相違

本判決は、Article III standing(憲法上の当事者適格)とランハム法上の原告適格の相違についても明らかにしました。本件において、CAFCは、McDermott氏らの信託がArticle III standingを有すると判断する一方で、ランハム法上の原告適格は有しないと判断しました。このことから、Article III standingを有することとランハム法上の原告適格を有することは別個の問題であり、前者を満たしたとしても後者を満たすとは限らないことが分かります。

おわりに

本稿では、Luca McDermott Catena Gift Trust v. Fructuoso-Hobbs SL事件を題材に、商標登録取消申請における少数株主の原告適格について考察しました。本判決は、商標法上の商標登録取消申請において、少数株主は原告適格を有しない可能性が高いことを示した重要な判例です。また、本判決は、著名人の氏名を冠した会社への投資リスクや、商標登録の限界についても示唆を与えるものです。本判決は、少数株主や商標権を有する会社への投資家に対し、商標法上の権利行使における留意点を提示するとともに、Article III standingとランハム法上の原告適格の相違についても明らかにした意義深い判決であると言えます。

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