ライセンシーがマーキングを怠ったために350万ドルの訴訟前損害賠償請求が台無しに

特許表示をしておけば訴訟前の侵害に対しても賠償金を得られますが、ライセンシーを含めた特許を実施しているすべての製品において適切な表示が求められます。今回は表示が徹底されていなかったため、350万ドルを取り損ねたケースを紹介します。

Packet Intelligence, LLC v. NetScout Systems, Inc. [2019-2041](2020年7月14日)において、連邦巡回控訴裁は、訴訟前の損害賠償額350万ドルの連邦地裁の裁定を逆転させ、その裁定の増額を取り消したが、他のすべての点で連邦地裁の判決を肯定しました。

連邦巡回控訴裁は、被疑侵害者は、表示(marking)要件の対象となる無表示特許品(unmarked patented articles)であると考えられる製品を最初に示す責任を負っていると指摘しています。この初期負担は「低い水準」であり、被疑侵害者は、被疑侵害者が特許を実施していると考えている特定のライセンシーが特定の無印の製品を販売していることを特許権者に通知するだけで済みます。その後、特許権者は、特定された製品が特許を実施していないことを証明しなければなりません。

特許権者のPacket Intelligence はPacket Intelligence のライセンシーの特許表示のなかった製品である MeterFlow が特許を実施していないことを証明できなかったため、訴訟前の損害賠償を受ける資格がないと、被告のNetScoutが主張。連邦巡回控訴裁は、判例Arctic Cat (関連記事)で明確にされた基準に基づき、NetScout が識別した MeterFlow 製品が特許の少なくとも 1 つのクレームを実施していないことを証明する責任は Packet Intelligence が負うべきであることに同意しました。Packet Intelligenceは、Meter-Flow 製品の特徴と特許請求項の制限を一致させる実質的な証拠を陪審員に提示することができなかったため、NetScout は、特許侵害に基づく訴訟前の損害賠償責任を負わないという判決を受ける権利があります。

Packet Intelligence社はさらに、マーキング要件の対象とならない2つの方法特許は、訴訟前の損害賠償請求を代替的にサポートするものであると主張しました。しかし、連邦巡回控訴裁は、方法特許のクレームは、クレームされたプロセスを実行することができる装置を販売しただけでは直接侵害されることはないと指摘し、これに反対しました。したがって、Packet Intelligence社は、’789特許を侵害していると非難されたソフトウェアの販売を、単に’725特許および’751特許で主張された方法の販売として扱うことはできませんでした。その代わりに、Packet Intelligenceは、クレームされた方法が実際に使用され、それゆえに侵害されたという証拠を提出する必要がありました。連邦巡回控訴裁は、損害賠償額のベースがクレームされた方法の内部使用の疑惑に合わせて調整されていないことを指摘し、NetScoutの内部使用が損害賠償額全体を正当化することを示すためのPacket Intelligenceの主張を却下しました。

要点

特許所有者は、ライセンシーによるマーキングを監視し、被疑侵害者から異議を申し立てられた場合には、損害賠償を受ける権利を常に完全に証明することを忘れないようにしましょう。

解説

今回取り上げた判例は、特許表示を適切に行っていなかったため、訴訟以前の侵害に関する賠償金を取り損ねてしまったという事件です。

35 U.S. Code § 287によると、対象製品に特許表示を行うことで「告知」(notice)が行われたとみなさます。特許表示が適切に行われていて、侵害が立証されれば、被告側に直接の侵害通知を行う以前から賠償金を得ることができます。しかし、特許表示が適切に行われていない場合、訴訟前の侵害に対する賠償金は得られなくなります。

自社製品の場合、管理が簡単なので対象商品に対する特許表示は比較的簡単に実施できます。アメリカではバーチャル特許表示も可能になったので、対象特許や対象製品の変更があっても比較的柔軟に対応できるようになりました。

しかし、特許権者が特許表示による訴訟以前の賠償金も狙うのであれば、気をつけるのはライセンシーの製品です。対象特許がライセンスされている場合、ライセンシーの製品に対しても適切な特許表示が求められます。

当然、ライセンス契約をする際に、ライセンシーに特許表示の義務を課すことが必要(そうでないと訴訟前の賠償金が得られなくなる可能性も)ですが、それに加えて、実際に、ライセンシーが契約に沿って正しくマーキングしているかも定期的に監査をするなどして確認するべきでしょう。

指摘された特許表示のない製品に特許を実施していないという主張もできますが、特許ライセンスがある場合、対象の製品が特許を実施していないとは言えないですよね。

まとめると、特許表示をしていれば訴訟前の賠償金も得ることはできますが、ライセンシーも含めた特許が実施されているすべての製品で適切な表示が行われている必要がらいます。そうでないと訴訟前の賠償金が得られない可能性があるので、特許表示を行う際は対象製品の表示管理を徹底する必要があります。

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まとめ作成者:野口剛史

元記事著者:Bryan K. Wheelock. Harness, Dickey & Pierce, PLC(元記事を見る

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