Lord行政判事は、 ITC調査In re Certain LED Lighting Devices, LED Power Supplies, And Components Thereof, Inv. No. 337-TA-1081, Order No. 54において、ITC を開始するための条件の1つである経済要件は申立人の投資全体に対して比較されるものではないとしました。つまり、特許で守られている ITC 調査の対象となっている製品に対する投資額が全体の投資額よりも極端に低いという理由から、経済要件が満たされていないと主張することはできなくなりました。
ITC の国内産業要件
ITC 調査が開始されるには、申立人が対象特許関連製品の国内産業要件(Domestic industry requirement)を満たす必要があります。ITCは、アメリカ国内の産業を、海外の不正取引から守る役割を担っているので、ITC調査による特許侵害を起こすには、申立人がアメリカ国内に関連する製品を販売していたり、「大規模」な投資を行っている必要があるます。これを国内産業要件の経済用件(economic prong)といいます。(国内産業要件のもう1つの要件は、技術要件 technical prongです。)この国内産業要件の概要については、ITCに関するウェビナーを参照してください。
大規模とは?
さて、今回問題になったITC調査は、2017年11月8日に開始され、PhilipsがFeit やLowe’s、Satcoなどを相手に起こしたものです。手続きは進み、2018年6月15日、被告側は、申立人のPhilipsによる対象特許に関する製品のアメリカ国内の投資は非常に低く、法律で定められている「大規模」なものではないと主張しました。
法律では、以下のように、アメリカに知財で守られているものに対する産業があり(もしくは、産業が成長している段階)( “an industry in the United States, relating to the articles protected by the patent, copyright, trademark, mask work, or design concerned, exists or is in the process of being established.” 19 U.S.C. § 1337(a)(2))以下の(A)から(C)の事柄を示す必要があります。
(3) For purposes of paragraph (2), an industry in the United States shall be considered to exist if there is in the United States, with respect to the articles protected by the patent, copyright, trademark, mask work, or design concerned –
(A) significant investment in plant and equipment;
(B) significant employment of labor or capital; or
(C) substantial investment in its exploitation, including engineering, research and development, or licensing.
この条件を国内産業要件の経済要件(“economic prong”)と呼んでいて、申立人が申立書において、大規模な経済活動や投資などの証拠を提示して、上記の(A)から(C)のいずれかを証明する必要があります。
大規模かは場合によって異なる
今回の案件で、Lord行政判事は、投資が大規模か否かは 抽象的に、または、絶対的に決められるものではなく、対象となっている活動やその活動が対象になっている製品に対して他大して大規模かを評価して決めるべきとしました。(“whether an investment is significant or substantial is not measured in the abstract or in an absolute sense, but rather is assessed with respect to the nature of the activities and how they are ‘significant’ to the articles protected by the intellectual property right.”)Lord行政判事は、経済用件の適用は、柔軟であるべきとし、大企業による投資全体から見ると、対象特許で守られている製品に対する投資は「少ない」と感じる場合もあるが、そのような投資額でも、「大規模」なものだと判断される場合がある。
このような考え方から、Lord行政判事は、被告側の主張を退け、アメリカに対する投資額に占める対象製品への出資額が少なすぎる、また、投資金額全体に対してある一定の割合が対象商品に対する投資出なければ、「大規模」の投資を満たさないという投資全体と比較する2点の主張を認めませんでした。
上記を理由に、Lord行政判事は、申立人のPhilipsは、関連する製品の投資に関して十分な証拠を提示しており、口頭弁論で、関連する製品への投資が「大規模なもの」であるという事実と主張を行うことが許されるべきとしました。
教訓
この判決では、ITC調査における国内産業要件の1つである経済要件は柔軟なものであることが改めて示され、対象製品に関する投資が大規模か否かということを主張する場合、アメリカでの投資全体と比較することはできなくなりました。つまり、アメリカに対する投資額の一部に過ぎなくても、対象製品に関する投資が「大規模」であると認められる可能性があります。この判決により、ある一定の申立人にはITC調査を起こしやすくなりました。また、被告側が経済要件に対して反論する場合、投資割合の低さを指摘するのではなく、申立人のアメリカ国内における活動自体に注目し、その活動が「大規模」ではないという主張を行わなければなりません。
まとめ作成者:野口剛史
元記事著者: Yury Kalish and Vishal Khatri. Jones Day (元記事を見る)