IPR/PGR情報:クレーム補正が認められやすくなってきた

通常、 PTAB における IPR や PGR の手続きにおいて、クレーム補正をするのは困難でした。しかし、最近の統計データから、今年の2月ごろから、 PTAB におけるクレーム補正が認められやすくなったことがわかりました。 まだ、明確な変化を断言できるだけの時間は経っていませんが、特許権者としては、IPR/PGRにおけるクレーム補正を戦略を立てる際に考慮するべきです。

全体の8%ほどしか認められていなかった

2017年9月の時点では、クレーム補正の申し立ての8%ほどしか認められず、認められたものでも、一部しか補正が認められないということもあり、実に92%の申し立てが却下されていました

このような確率なので、特許権者はクレーム補正の申し立てにかかる時間や費用を考慮し、そもそもクレーム補正を申し出ないことが多くありました。2017年9月の時点では、クレーム補正の申し立てが行われたのは、PTABにおける手続きすべてでわずか23%でした。

Aqua Products判決で流れは変わった?

しかし、時間はかかりましたが、 CAFC の判例でこの流れが変わってきたと思われます。去年の10月、CAFCは en banc でAqua Products Inc. v. Matalを扱い、その中で、特許権者は補正後のクレームに対する特許性を証明する義務を負わないという判決を下しました。その義務は、申立人や、場合によっては PTAB が負うというように変わりました。そのため、Aqua Products判決後、 PTAB がクレーム補正に対する基準を緩めるのではという予想がなされていました。

Aqua Products判決後、PTAB はガイドラインを発効し、補正クレームの特許性を証明する責任は特許権者にはないと明確に示したものの、手続き自体は何も変わらないとしていました。また、Aqua Products判決直後の PTAB におけるクレーム補正成功率には変化はありませんでした。

最近の統計

しかし、ここ最近、数字に変化があり、特許権者に有利な方向に進んできています。Aqua Products判決から PTAB は29のクレーム補正の申し立てに判決を下しました。29件中、5件について、クレーム補正を(一部)認めました。これは、割合でいうと17%に登り、Aqua Products判決以前の数字の2倍以上になります。また、却下された申し立てのうち7件は関連する手続き等で、申し立て自体が無意味なもの(Moot)になっていたので、そのような却下を取り除くと、実にクレーム補正が認められた割合が23%にもなります。

また、クレーム補正の成功確率を月ごとに見てみると、3月には66%、4月には50%にも上ります。これは、Aqua Products判決以前では考えられない数字で、流れが変わってきたことを表しているのかもしれません。

今後はどうなるのか?

しかし、長期的にどうなるかはまだわかりません。また、USPTOのIancu所長のリーダーシップにより、PTABにおける手続きが常識が変わる可能性があります。彼は、PTABのシステムに透明性と一貫性を求めており、今後PTABの改革があるかもしれません。

まとめ

このような最近の数字の変化は、 PTAB におけるクレーム補正への考え方が変わったことを示すのでしょうか?まだ明確なことはわかりませんが、特許権者としては、IPR/PGRにおけるクレーム補正を戦略を立てる際に考慮するべきです。

まとめ作成者:野口剛史

元記事著者: Kilpatrick Townsend & Stockton LLP – Justin L. Krieger and Christopher Thomas(元記事を見る

ニュースレター、公式Lineアカウント、会員制コミュニティ

最新のアメリカ知財情報が詰まったニュースレターはこちら。

最新の判例からアメリカ知財のトレンドまで現役アメリカ特許弁護士が現地からお届け(無料)

公式Lineアカウントでも知財の情報配信を行っています。

Open Legal Community(OLC)公式アカウントはこちらから

日米を中心とした知財プロフェッショナルのためのオンラインコミュニティーを運営しています。アメリカの知財最新情報やトレンドはもちろん、現地で日々実務に携わる弁護士やパテントエージェントの生の声が聞け、気軽にコミュニケーションが取れる会員制コミュニティです。

会員制知財コミュニティの詳細はこちらから。

お問い合わせはメール(koji.noguchi@openlegalcommunity.com)でもうかがいます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

OLCとは?

OLCは、「アメリカ知財をもっと身近なものにしよう」という思いで作られた日本人のためのアメリカ知財情報提供サイトです。より詳しく>>

追加記事

ビジネスアイデア
野口 剛史

士業の音声メディア活用方法

私は「アメリカ知財と法務」というClubhouse上のコミュニティーを立ち上げて、弁護士・弁理士のような専門的な知識や経験をもった人が今後音声メディアを活用する上で一番やりやすく・効果がある形を模索して試行錯誤しています。まだ挑戦している途中ですが、今回は今試してみたい具体的な音声メディア活用方法を紹介します。

Read More »
time-delay-clock
再審査
野口 剛史

IPR申し立てのタイミング

訴訟が行われている場合、訴状が送られてから1年以内にIPRの申し立てを行う必要があります。35 U.S.C. § 315(b)。しかし、訴訟の進み具合によっては、その1年の期限内に申し立てを行っても、IPRが却下されてしまうことがあります。

Read More »
graph-chart
訴訟
野口 剛史

合理的なロイヤルティ損害賠償を評価する際の売上予測と「訴訟リスク倍率」の活用は合法

アメリカにおける賠償金は高額になる傾向がありますが、今回、特許権者の損害賠償専門家が合理的なロイヤルティ損害賠償額を決定する際に、売上予測および「訴訟リスク倍率」を使用 することを支持する判決が下りました。これによりさらなる賠償金の増額が懸念されます。

Read More »