In Re Aqua Products 事件は、Court of Appeals for the Federal Circuit (略して CAFC、連邦巡 回区控訴裁判所)が大法廷(en banc) 審理するということで注目を集めていたが、2017 年に出た判決は、実務に影響するレベルではなかった。
大法廷 (en banc) — 通常 CAFC では判事3人で審議するが、判事全員で審議す ることを大法廷 (en banc) という。
In Re Aqua Products 事件では、IPR の際に、 特許権者が、補正されたクレームに対して 特許性があることを証明する義務を負うのか、それとも、IPR の申立人が特許性を満た さないことを証明する義務があるのか、が焦点になっていた。
Inter partes review (略して IPR) — アメリカ特許庁の審判部(Patent Trial and Appeal Board: PTAB)における特許無効手続の1つ。
大法廷の判事の意見は分かれたが、IPR の際に、補正されたクレームに対しても、申立人が特許性を満たさないことを証明する義務があるという結論になった。
しかし、実務上、IPR でクレームを補正すること自体、特許権者にとっては避けたい問題。というのも、クレームの補正が実質的な変更(substantive changes)とみなされた 場合、過去分の損害賠償を得ることができなくなる場合がある。Laitram Corp. v. NEC Corp., 163 F.3d 1342, 1346 (Fed. Cir. 1998) 。IPR 手続きの対象になっている特許は、ほと んどが訴訟で権利行使されている特許なので、過去分の損害賠償を失いかねないクレー ムの補正は特許権者としては避けたい問題。
また、IPR 手続きの際に、PTAB がクレームの補正を認めることはほとんどない。もし仮 に認められても、 PTAB では1対1の置換が行われるので、補正をするにも、新しいク レームを加えるにしても、既存のクレームと交換することしかできない。
また、権利化の段階における先行技術を回避する補正とは違い、PTAB では特許侵害を 維持するための補正が優先されるので、補正がされても、変更は最小限に留められる場合がほとんど。
つまり、 今回の判決通り、IPR 申立人に補正されたクレームに対する非特許性を証明する義務があったとしても、相手側の特許権者としては、補正自体避けたい問題なので、 In Re Aqua Products 事件が実務に影響することはないだろう。
まとめ作成者:野口剛史
元記事著者:Scott McKeown. Ropes & Gray LLP (元記事を見る)