PTAB における IPR で特許を無効にするには、35 U.S.C. 311(b)に基づいた進歩性か自明性に関する先行例文献を提出する必要があります。しかし、申立人はどのような先行例文献を選んで IPR を申請するかに最新の注意を払わなければいけません。 Estoppel を回避するために関連する先行例文献をすべて提出するのはもちろんですが、提出文献の内容にも注意を払わなければいけません。
今回は、出願中に考慮された先行例文献と重複する内容の先行例文献を提出した際に、 IPR の開始が却下されてしまったNu Mark LLC v. Fontem Holdings 1, B.V. (Case IPR201601309; Decision Denying Institution entered December 15, 2016)を詳しく見ていきます。
この案件で対象になった特許Patent No. 8,863,752 B2 (“`752特許”)は電子タバコに関する特許です。申立人は、 `752特許の複数のクレームに対して IPR 手続きを申請しました。その際に、対象クレームは、Brooks I (US 4,947,874) と Whittemore (US 2,057,353)という先行例文献から無効だと主張しました。対象クレームで重要な要素をまとめると以下になります:
- ハウジング(a housing containing an atomizer in contact with a liquid storage;)
- ネジ(a screw thread electrode on one end of the housing;)
- 穴(a through-hole centered on the screw thread electrode;)
- 流動線(a flow passageway from the atomizer to an outlet)
35 U.S.C. 314(a)に基づいて IPR を開始するかを決める際、35 U.S.C. 325(d)により、 PTAB は特許庁ですでに同じ、またはほぼ同じ先行例文献や主張がなされた場合、 IPR を却下することができます。今回の件で、この35 U.S.C. 325(d)がどのように適用されたかを理解するには、`752特許の審査経過を知る必要があるので、重要な点をまとめます。
`752特許の審査経過
特許庁による`752特許の審査中、 IPR の際に引用されたWhittemore, Brooks II (U.S. Patent No. 4,947,875) とEP publication No. 0 358 002 A2 (the “EP publication”) がInformation Disclosure Statement (IDS)において引用されました。
Whittemore は審査官が審査中のクレームの進歩性を否定する文献として引用。しかし、審査官は、Whittemore は他の要素( “the screw thread electrode having a through hole substantially aligned with the atomizer” and that a liquid storage is inserted to an end of the atomizer assembly while the screw thread electrode is on another end)を開示していないので、その他のクレームは権利化できる内容だとしました。その後、出願人はWhittemore で開示されていない構成の特徴を加え、`752特許が権利化されました。
IPRで提出された先行例文献
IPR の申立書で提出された先行例文献は、Brooks I と Whittemoreです。申立人は、 Brooks Iがチャレンジされたクレームのthreaded connectionを除いたすべての要素を教えている、または、示唆しているとし、残されたthreaded connection要素はWhittemoreが 教えている、または、示唆していると主張。つまり、Brooks I と Whittemoreによってクレームは無効になるべきと出願しました。
しかし、特許権者は、Brooks I はすでに審査中に考慮されたBrooks II とthe EP publicationの重複であり、すでに審査官によって考慮されているものだと主張しました。その反論として、申立人は、1)Brooks I は審査中に考慮されていなかった、また、2)Brooks IIは`752特許に引用されたものの、拒絶の際に使われなかった、という2点を指摘し、反論しました。
問題の争点
Whittemoreは審査中に引用され、拒絶理由にもなっているので、争う点はないのですが、Brooks Iが審査中に考慮されたBrooks II と the EP publicationと重複する先行例文献なのかが大きな争点になりました。
PTAB の分析
PTAB の行政判事( ALJ )は、1)Brooks II とBrooks Iには同じ図が使われていること、2)Brooks IIはBrooks Iにおいて申立人が指摘している構造要件のすべてを開示していることを理由に、Brooks I はすでに審査中に考慮されたBrooks II とthe EP publicationと同じ、またはほぼ同じ内容を開示しているとしました。
続きまして、PTABは、EP publicationとBrooks IIが審査官によって考慮されたかについて分析をします。審査中、審査官はIDSにEP publicationとBrooks IIを考慮したことを示すチェックマークを記入。また、EP publicationとBrooks IIは拒絶通知にレコードとして記載されていました。また、審査官はEP publicationとBrooks IIに対してもチャレンジされたクレームに関わる要素に対してコメントをしていました。(the Examiner indicated that the EP publication and Brooks II do not disclose the features of “a screw thread electrode on one end of the atomizer assembly housing, with a screw thread electrode having a through hole on the screw thread electrode.”) い以上のような事実から、PTABはEP publication と Brooks II はチャレンジされたクレームに関して審査官によって考慮されていたと判断しました。
以上のような2つの分析により、PTABは、35 U.S.C. 325(d)により、今回の IPR において、特許庁ですでに同じ、またはほぼ同じ先行例文献がすでに提出されていたと判定。この決定により、 IPR の開始は拒否されました。
教訓
この判例は、 IPR の際に選ぶ先行例文献の重要さを物語っています。申立人は、審査中に引用された文献やその文献に重複するような文献の IPR での引用は、審査官が考慮していなかった全く新しい文献と合わせることで進歩性を指摘できないのであれば、避けるべきです。
また、特許権者としては、申立人が主張している文献はすでに審査官が考慮したもの、または、考慮された文献に重複するものかを確認することが重要です。これは、たとえ審査官が拒絶通知で文献を直接引用していなくても、IDS等で引用されている文献すべてにおいて確認することが大切です。
残された手段
今回のような重複する文献ではIPRはできませんが、特許を無効にする手段がなくなったわけではありません。今回のような IPR の institution decision は CAFC に上訴できるものではありません。Cuozzo Speed Technologies, LLC v. Lee, 136 S.Ct. 2131 (2016)。しかし、地裁で争うことは可能かもしれません。例えば、地裁における特許訴訟や declaratory judgment action (DJ action)では、たとえ同じ先行例文献であったとしても、特許の無効性を主張できます。これは、今回のケースのように、IPRが失敗していてもできます。その理由は、35 U.S.C. 315(e)におけるEstoppelはIPRが開始されなかった場合には適用されないからです。Shaw Industries Group, Inc. v. Automated Creel Systems, Inc., 817 F.3d 1293, 1300 (Fed. Cir. 2016)。特許の審査中に、審査官が先行例文献の扱いを誤ったなどのミスが主張できるのであれば、地裁で特許の無効を争うことは十分メリットの有ることだと思われます。
まとめ作成者:野口剛史
元記事著者: King L. Wong. Seyfarth Shaw LLP (元記事を見る)