[知財業界での大ピンチ] NFTアートがすべて著作権で保護されるわけじゃない?!AIやアルゴリズム的に生み出された作品の大きな落とし穴

ドクガクさんの弁理士の日記念ブログ企画2022に参加させていただきました。アメリカで特許弁護士をやっている野口剛史です。ツイッターではメタバース弁護士として知財、NFT、メタバース関連の情報を配信しています。あと、知財ブログメタバースブログもやってます。

近年、BeepleというNFTアートがおよそ75億円で落札されたり、Bored Ape Yacht Clubのようなプロファイル画像コレクションが数千万円の価値帯で取引されるなど、NFTの人気と成長が日本でもニュースで取り上げられています。しかし、NFTアートの中には著作権保護が受けられないと思われる作品もあることから、今後高値を付けたNFTアートの模倣品対策において知財保護が大きな課題になる可能性があります。今回はこの潜在的な問題についてNFTにあまりくわしくなくてもわかるようにまとめてみました。

著作権があればDMCA通知で権利を侵害しているコンテンツを取り締まれる

どのようなNFTアートが著作権保護の対象にならない可能性があるのかを考察する前に、なぜNFTアートの著作権保護が大切なのかを考えてみます。

NFTの売買の多くは取引所で行われており、そのような取引所を利用するには利用規約を守る必要があります。例えば、利用規約において、NFTの取引所として世界最大級のOpenSeaは、DMCAテイクダウン通知により著作権を含む知的財産を侵害する作品が通報された場合、対象の作品を取り下げるとしています。

このDMCA通知は、企業、ウェブ上の投稿、検索エンジン、インターネットサービスプロバイダに対して、著作権を侵害する素材をホストしている、またはリンクしていることを通知するものです。通知を受けた当事者は、できるだけ早く問題の素材を削除する必要があり、削除を怠ると侵害の責任を担う可能性があります。

この仕組みは、Digital Millennium Copyright Act(デジタルミレニアム著作権法)という1998年にできたアメリカの著作権に関わる法律によって提供されており、記事、書籍、動画、音楽やその他のオーディオファイル、写真やその他の画像を含む静止画作品などンターネット上で侵害される可能性がある幅広い著作物を対象にしています。

つまり、デジタルコンテンツであっても著作権で保護されているものであれば、DMCA通知を活用することで、著作権を侵害しているコンテンツを取り締まることができるのです。実際にNFTアートの世界でもDMCA通知は広く活用されており、通知を受けたことによりマーケットプレイスが取引を停止するということがよくニュースになっています。

NFTの売買はOpenSeaのような取引所で行われるのがほとんどなので、そのような取引所に作品を置けなくなると、NFTアートの売上や価値に大きな打撃を与えます。そのためNFTアートを作成する際は、1)著作権を含む第三者の知財を侵害していないこと、また、2)作成されたNFTアートが著作権で保護されていること、という2点が重要になってきます。

しかし、最近のアメリカ著作権局の見解を見ると、アルゴリズムで自動生成されたようなNFTアート(ジェネレーティブアート(generative art)とも呼ばれる)の場合、著作権保護が及ばない可能性があるので、このようなDMCA通知による模倣品や二次創作の取り締まりが大変難しくなることが予想されます。

AIが作成したアート作品に著作権保護が認められなかった

「A Recent Entrance to Paradise」と題された絵をアメリカの著作権局に登録しようとした際に、その作品が人工知能(AI)によって作成されたことから登録の許可が得られず、著作権保護が認められなかった事例がありました。

この事例における著作権審査委員会(Copyright Review Board)の見解は、AIが作成した画像は「著作権の主張を裏付けるのに必要な人間の作者性(human authorship)に欠いている」というものでした。つまり、著作権で保護されるためは「人間が著作者であること(human authorship)」が必須ということで、人間が行ったものではない創作物については一貫して著作物性を否定してきた著作権局の方針に習った見解でした。

NFTアートの多くが自動作成されたもの

この著作権局のAIアートに関する見解がなぜ問題かというと、高値を付けているNFTアートの多くがアルゴリズムで自動生成されているからです。

例えば、Wikipediaの情報になりますが、有名NFTコレクションの1つであるCryptoPunksの1万のキャラクターは、それぞれがコンピューターコードによってアルゴリズム的に生成されている、とのことです。さらに言うと、高額で取引されている複数体のキャラクターがいるNFTコレクションのほとんどがこのように自動生成されたものです。

というのも、このようなNFTコレクションの場合、特徴が複数設けられており、各部分のレア度と特徴の組み合わせで「ユニーク」な個体を作っています。例としてBored Ape #2978 を見てみると、5つの特徴があり、その組み合わせによって上記のサルの画像が作成されています。

このような特徴の組み合わせはランダムで機械的に行うのが一般的なので、生成された画像には「著作権の主張を裏付けるのに必要な人間の作者性(human authorship)に欠いている」可能性があります。もしそうであれば、そのような自動生成された画像に対して「人間が著作者である(human authorship)」とは言えないと考えられるため、画像が著作権で保護されない可能性があります。

アルゴリズムの利用は作品制作のための補助ツール?

もし最低価格が1千万円以上もするBored ApeコレクションのNFTアートがすべて著作権フリーの画像ということになれば、その価値にも大きな影響を与えることでしょう。そのため、アルゴリズムによって作られた作品であっても、著作権が認められるような主張も考えてみたいと思います。

コンピューターを使用して作られた作品であっても、人間が表現するためにコンピュータの助けを借りて作成したものであれば、著作権が認められる可能性があります。わかりやすい例で言うと、小説を書くためにパソコンのワードプレセッサーを使うというような場合です。この場合、パソコンを使って物語を書いたり、編集したり、文章のコピーや貼り付けをしたりしますが、このようなコンピューターの利用は人間が表現するためにコンピュータを補助的なツールとして使っているので、人間の作者性(human authorship)が担保できます。この考えは、AdobeのPhotoshopなどのグラフィックツールを使って作成されたデジタルアートにも適用されるものです。

この人間が表現するためのコンピュータの補助的な利用の延長線上にアルゴリズムの利用あると考えると、ジェネレーティブアートにもその背後にいる人間のアーティストによる作者性が認められ、ジェネレーティブアートに著作権が認められる可能性があります。

しかし、作品がコンピュータ単独の表現である場合や、ランダムまたは一定のプロセスで自動的に現れる表現の結果である場合は、著作権保護が認められないという見解が出ているので、アルゴリズムの利用をどう捉えるかは難しいと思われます。

重要な問題は、「作品」が基本的に人間の著作物であり、コンピュータ(またはその他の装置)は単に補助的な道具であるかどうか(この場合は著作権あり)、あるいは作品における著作者の伝統的要素(文学、芸術、音楽の表現または選択、配置等の要素) が実際には人間ではなく機械によって考え出され実行されたのか(この場合は著作権なし)?になるでしょう。

しかし、この判断は一概にできるものではないので、事実に照らし合わせてどう著作権性を判断するかは、今後のジェネレーティブアートNFT関連の訴訟で明らかになってくるのかと思われます。

知財保護を過信したNFTアート製作者は大ピンチ?

今のところDMCA通知をおこなえば、著作権保護が怪しいジェネレーティブアートNFTの模倣作品や許可されていない二次創作を取り締まることは可能です。これはよくDMCA通知を受け取るOpenSeaなどのマーケットプレイスには、通知元が有効な著作権を持っているか、また、通知された作品が実際に著作権侵害を行っているかを調べる時間がなく、そのような義務も特にない(通知を受け取ったにも関わらず、迅速に侵害物を取り下げないと責任を負わされる)ため、通知者は有効な著作権を保有しているとみなされて対応されることがほとんどです。

しかし、著作権があるとみなされているからといって、実際に著作権を持っているとは限りません。今回の分析で説明したように、ジェネレーティブアートなどの特定のNFTアートには著作権保護が及ぶかは不透明です。

事実、NFTコレクション1万点がすべて模倣・販売された際に、オリジナルNFTコレクションの発行元が、模倣・販売した相手に対してDMCA通知を送りましたが、反論され、その後、DMCA通知を撤回するということがありました。その後、発行元は訴訟を起こしますが、著作権の権利侵害に関しては言及せず、商標権侵害を中心とした主張になっています。この件におけるDMCA通知を撤回した理由は明確ではなく、詳細はわかりません。しかし、私が考察した記事があるので、興味がある方は読んでみてください。

NFTアートであれば何でも著作権で保護されると思い込んでジェネレーティブアート系のNFTを発行してしまったプロジェクトは、今後頻繁に起こるであろう模倣品や二次創作の取締に苦労するかもしれません。

NFTの価値を決める要因の1つに「希少性」があります。Bored Apeも1つのNFTの最低価格が1千万円以上である理由の1つに、限定1万体しかなく、そのすべてがユニークであるということが挙げられます。しかし、(ブロックチェーン上の履歴が異なるものの)見た目がそっくりな模倣品が増えたらどうなるでしょう?「希少性」がなくなり、その価値も大きく下がってしまうかもしれません。

そのような模倣活動を止めるには著作権などの知財権が有効ですが、もしそもそものオリジナルのNFTに著作権がなかったら、模倣活動は権利侵害にはあたらないということになるので、取り締まりができなくなってしまいます。

著作権を含む知的財産は目に見えないものなので、イメージするのが難しいと思いますが、Web 2 から Web3に移行しつつある今、さまざなものがトークン化・NFT化されてきています。そうなると「権利」という概念がより重要になり、特に「〜させない」という排他的な権利である知的財産権の正しい理解とその活用はますます重要度を増していくことでしょう。

今回指摘したような知財がらみのNFT業界の大ピンチは、知財関係者のビジネスチャンスだと思っています。知的財産に関する正しい理解の元でNFTプロジェクトを立ち上げないと失敗するという認識が強まれば、近い将来プロジェクトチームに知財の専門家が加わることも珍しくなくなるでしょう。そのような将来の需要に備えて、私達知財プロフェッショナルもNFTやブロックチェーン、メタバースなどの次世代技術と業界の流れについての理解を深め、勉強していく必要があるでしょう。

メタバース弁護士 野口剛史

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