審査官データと個別の判断

前回の関連記事で、総合的な権利化率は変わらないもののRCEのある・なしで権利化率が変わる事例(RCE allowance rate differential)を取り上げましたが、統計的なデータと個別の案件の判断はどのような関係にあるのでしょうか?

統計データと個別案件の違い

例えば、統計データではRCEを行い、審査を継続させた方がいいが、案件としては、審査官の拒絶理由には明らかな間違えがあり、求めているクレームが許可されるべきだと思うのであれば、PTABに上訴(appeal)するべきではないのか?という疑問です。

つまり、統計的なデータを見る限りRCEをする方が圧倒的に有利だが、知財プロフェッショナルとして個別の案件を見たとき上訴して戦うのがいいと思った場合、どう行動すればいいのか、どうクライアントに対応の提案をすればいいのかという問題です。

統計はプロフェッショナルの判断に代わるものではない

統計データはプロフェッショナルの判断に取って代わるものではなく、その判断をサポートするものです。また、特許の権利化のような仕事の場合、100%自分が正しい(または、相手が間違っている)とは言えないことがほとんどなので、プロフェッショナルの判断も(主観的かも知れませんが)確率の元に成り立っています。

つまり、ここで重要なポイントは、統計的に得られるデータも、プロフェッショナルの判断も確率の元に成り立っているものなのです。

拒絶が不適切だという自信が99%でPTABも同意してくれるという状況であれば、いかに審査官が統計的にRCEを好んでいてもPTABへ上訴するべきです。しかし、その自信が50%ならどうでしょう?RCEのオプションの方が権利化の確立が高くなるのではないでしょうか?

また、99%の自信があっても、上訴の際の統計データでは明らかに特許権者の方が分が悪い(元記事の統計データ参照)場合、自分の99%の自信を再度検証してみた方がいいかもしれません。

自分の判断を再度検討するきっかけに

統計データから乖離するような判断を検討している場合、自分の主張が本当に正しいのか振り返る機会を与えてくれます。先行例文献に対する勘違い、明細書に記載されていない発明やクライアントに対する知識から来るバイアス、個人的な思いなどで、自分の見方が偏っているのかもしれません。こんな時は、同僚にも検討してもらってsecond opinionをもらうのもいいかもしれません。

また、再度検討しても、自分の判断が正しいと思うのであれば、それは正しい答えなのかもしれません。

まとめ

Big dataやAIの進歩でいままで得られなかったデータが簡単に手に入るようになりましたが、そのようなデータや指標はプロの判断を助けるためのもので、プロフェッショナルの判断に取って代わるものではありません。

このようにデータをうまく活用することで、更にレベルの高いサービスを提供できるよう、日々の精進は必要不可欠です。

まとめ作成者:野口剛史

元記事著者:Chad Gilles. BigPatentData Inc.(元記事を見る

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