ドメイン名に関する紛争を未然に防ぐ手段としての共存協定

eコマースの発展により商売の幅が格段に広がると同時に、類似または同一の商標を所有する事業者の確率も増え、それによりドメイン名や商標に関する紛争も増えてきています。このような紛争を解決する手段の1つとして、共存契約が注目されています。「勝ち負け」を決めるのではなく、「共存する」ことでお互いの利益を守る、そのようなアプローチが現在注目を集めています。

共存契約とは?

商標法において、共存契約(coexistence agreement)とは、類似または同一の商標の所有者である当事者が、特定の要件を満たすことを条件に、その共存を組織することを決定する契約です。共存契約で示される条件は、当事者が直面している状況に応じて様々ですが、例えば、商標、特にその形態や、その対象(提供される製品および/またはサービス)、またはその地域的範囲を制限するのが一般的です。この共存契約で当事者が求めることは、それぞれのブランドを平和的に使用することです。したがって、共存契約は、紛争の終結(その後、和解契約の形をとる)または紛争の防止を目的としています。

Apple CorpsとApple Computerの商標共存契約

Apple CorpsとApple Computerとの間で締結された商標共存契約は、Apple Corpsは音楽、Apple Computerは情報技術というように、それぞれの活動分野を明確にした上で締結されました。このように活用分野を分けることで平和的な活用ができていましたが、Apple ComputerによるiTunesの活用で活用分野が重なることによって摩擦が生じ、訴訟へと発展しました(Apple Corps Ltd v Apple Computer Inc)。

その後のApple Corps Ltd と Apple Computer Incの関係はこの記事をチェック。

共存契約の需要が高まっている

電子商取引が一般的になりつつある中、商標とドメイン名の共存契約の使用が不可欠となってきています。優先権の検索やドメイン名の監視により、他の事業ですでに商標出願予定の名称や類似した名称、または、ドメイン名が使用されていることがわかることがあります。このような状況は、当事者に共存契約の締結を促すきっかけになります。

紛争解決手段としての共存契約

最近の事件D2021-2756(WIPO, D2021-2756, Nordic Nest AB v. Anette Grostad, October 14, 2021)では、当事者は共存契約に頼ることができました。スウェーデンの会社Nordic Nest ABは、2016年に登録されたドメイン名<shopnordicnest.com>をめぐって、Bさん(カリフォルニア州)を訴えました。原告は、欧州連合では2015年から、米国では2019年から登録された「Nordic Nest」の商標を所有しており、特にホームアイテムの販売をしています。被告はショップを経営しており、北欧スタイルという同様の特徴を持つアイテムを販売していますが、被告によれば、ドメイン名作成以前に実施された先行商標の調査では、米国において家庭用品の販売を目的とした「Nordic Nest」の商標は見つからなかったとのことです。また、原告の商標は有名(well-known)ではありませんでした。また、この事件におけるパネリストは、家庭用品の「Nordic Nest」商標は、記述的(descriptive)とまでは言わないが、示唆的(suggestive)であると指摘。このような状況から、パネリストは、ドメイン名の移転要求を却下しました。

このような状況下で紛争を解決する手段はいくつか考えられます:

  • 司法手続きを行う(今回のようなUDRP(Uniform Domain-Name Dispute-Resolution Policy)下における手続きとは異なる審議)
  • ドメイン名の譲渡、または
  • ドメイン名のライセンス

また、このような一般的な手段の他に、今回のように原告が米国外での商業活動を主張していないような場合は、共存契約も考慮することができます。さらに、共存契約により物理的な世界とデジタルな世界の両方における領土の区切りや住み分けも考慮することができるので、上記のような一般的な解決方法よりも、今の時代にあった紛争解決の提案ができるかもしれません。

参考文献:The coexistence agreement as a mean for preventing disputes relating to domain names

ニュースレター、公式Lineアカウント、会員制コミュニティ

最新のアメリカ知財情報が詰まったニュースレターはこちら。

最新の判例からアメリカ知財のトレンドまで現役アメリカ特許弁護士が現地からお届け(無料)

公式Lineアカウントでも知財の情報配信を行っています。

Open Legal Community(OLC)公式アカウントはこちらから

日米を中心とした知財プロフェッショナルのためのオンラインコミュニティーを運営しています。アメリカの知財最新情報やトレンドはもちろん、現地で日々実務に携わる弁護士やパテントエージェントの生の声が聞け、気軽にコミュニケーションが取れる会員制コミュニティです。

会員制知財コミュニティの詳細はこちらから。

お問い合わせはメール(koji.noguchi@openlegalcommunity.com)でもうかがいます。

OLCとは?

OLCは、「アメリカ知財をもっと身近なものにしよう」という思いで作られた日本人のためのアメリカ知財情報提供サイトです。より詳しく>>

追加記事

再審査
野口 剛史

PTABが地方裁判所の不明瞭の基準を採用

今回の変更でPTABにおけるAIA訴訟と裁判所における特許訴訟の歪がまた1つ解消されました。今回の変更は予測可能性と統一性を高めることに成功しましたが、実務レベルで大きな影響は無いと思われます。変更の有無に関わらず、クレーム文言が発明の範囲を明確に示すことは重要で、権利化において重要な要素の1つであることは変わりません。

Read More »
laptop-working
特許出願
野口 剛史

ソフトウェア特許のクレームがmeans-plus-functionと解釈されて無効になる

特許のクレームがmeans-plus-functionと解釈されると、明細書内の関連する記述に十分な構造的なサポートがないと、クレームが無効になる可能性があります。特に、ソフトウェア特許のクレームの明細書内に十分な構造に関する記述がない場合があるので、クレームはmeans-plus-functionと解釈さらないように書く必要があります。

Read More »
marketing research
訴訟
野口 剛史

$140Mの賠償金が “Entire Market Value” ルールの不適用で覆される

特許訴訟において、適切なロイアルティ(reasonable royalty)による損害賠償を計算することは難しいです。特に、適切なロイアルティレートの算定は大きな争点になり、また近年の CAFC の判例では、特許権者にとって有利な“entire market value”ルールの適用に制限をかける傾向があります。今回のPower Integrations, Inc. v. Fairchild Semiconductor International, Inc.もCAFCが“entire market value”ルールの適用に制限をかけた一例です。

Read More »