「このドメイン名の問い合わせメールは正規のものですか?」このような問い合わせが月に2~3回はクライアントからあります。今回は、商標出願情報を悪用した詐欺行為の手口と対策方法を紹介します。
手口
- 商標の所有者が米国または他国で商標を申請します
- 商標とその所有者に関する情報は公開情報なので、一般に公開されます
- 詐欺師はその情報を使い商標の所有者に潜在的なドメイン名スクワッターの悪質な行動を警告すると装った電子メールを送信します
- 以下は、ある企業が最近受け取った実際のメールの日本語訳です。メールの名前等は変更されていますが、それ以外は原本のままだそうです(元記事を参照)。
中国の[ドメイン名]サービス部門です。ここであなたに確認しておきたいことがあります。2013年5月13日に、「ACME PLANETARY DOMAINS」と名乗る会社が、弊社を通じて「御社のマーク」をネットブランドとして登録し、「御社のマーク」をアジア諸国のトップレベルドメイン名として登録したいとの申請を正式に受けました。
現在、この登録作業を行っておりますが、最初に確認したところ、御社と類似した名称であることが判明しましたので、御社が登録を許可しているかどうかを確認する必要があります。もし、御社が許可していたのであれば、すぐに登録を終了させていただきますが、許可していなかったのであれば、その旨をご連絡ください。もしお客様が許可していない場合は、7営業日以内にご連絡ください。期限が過ぎてしまった場合、”ACME PLANETARY DOMAINS “の登録を無条件で終了させていただきます。あなたの迅速な応答を楽しみにしています。
多くの場合、このような問い合わせには、例えば、<yourmark.com.hk.>、<yourmarksucks.co.jp>などのドメインのリストが添付されています。
メールを受け取った商標権利者の反応
当然のことながら、第三者が自分の商標を盗み、競合するドメイン名を登録しようとしていることに、商標権者は懸念を抱くでしょう。しかし、このメールはマーケティングのための策略でしかありません。例えば、商標権利者が偽のドメイン名登録を許可していないというメールを返信すると、サービスプロバイダーを通じてドメイン名を登録しない限り、偽のドメイン名登録は続行されると言われます。そのため、このメールを受けた商標権利者がパニックに陥り、最終的に言われるままにドメインを登録するように仕向けられます。
これらのドメインを登録する必要があるのか?
実際には、詐欺業者がメールで言及しているドメインを取得することに、それなりの理由があるかもしれません。特に、問題のドメインがビジネスにとって本当に価値のあるものである場合、例えば、参入しようとしている地域の顧客を引き付けることができるかもしれないのであれば、登録する価値があるかもしれません。しかし、そのような場合でも、弁護士や信頼できるレジストラに連絡して、メールを送ってきたサービスプロバイダとは別のところでドメインを取得することをお勧めします。大抵の場合、そのようなサービスプロバイダは、権利者に権利が危険にさらされていることを納得させることで手っ取り早く儲けようとしているだけであり、ドメインは他のサービスプロバイダから安価に取得できることが多いからです。
標準的なジェネリック(.com、.info、.netなど)以外のドメインを取得するかどうかは、マーケティング活動や販売チャネルの地理的範囲、商標登録の地理的範囲、製品の性質、使用する取引や広告のチャネル、予算など、多くの考慮事項が含まれます。
予算の問題は、非常に重要です。ドメイン名の登録にはそれほど費用はかかりませんが、企業が自社の商標のすべてをカバーするドメイン名を登録しようとすると、各トップレベルドメインの下にある各商標の反復やスペルミスも含むことになると思います。そうするとドメイン名の数が急激に増えてしまい、費用と管理上の負担はすぐに膨れ上がります。
さらに、不法でドメイン名を取得した者に異議を申し立てる方法に関するルールはレジストラによって異なり、商標権そのものとはほとんど関係がない場合もあります。そのため、世界の中で重要な地域がある場合、あるいは今後重要になる地域がある場合、あるいはその他の一般的なトップレベルドメインの中で、貴社のビジネスとより共鳴するものがある場合には、防御的かつ積極的に登録を検討し、不法占拠者を追い払うことが賢明でしょう。
まとめ
ドメイン名取得への戦略的アプローチは慎重に行い、貴社のビジネスや将来の目標に関連する様々な要因を考慮に入れることです。上記のような詐欺メールに記載されているようなドメイン名を取得することが最善の答えとなることは稀です。
解説
詐欺師はいろいろと考えますね。商標とドメイン名は密接な関わりがあり、会社のブランドに関わるので、そこで不安を煽るメールで搾取するという仕組みですね。
このような詐欺行為にもしっかり対応できるよう、社内で商標を取るときは、商標に関わるドメイン名とその種類をあらかじめ決めておいた方がいいと思います。一律にどのようなドメイン名を取ると決めてもいいのですが、商標によってその価値が異なると思うので、ケースバイケースで判断した方がいいかもしれません。特に、会社名などの場合、より広い地域でドメイン名を取得した方がいいし、また、誹謗中傷に使われるような<yourmarksucks.co.jp>なども含めるかも検討した方がいいかもしれません。
費用対効果が大事になってくるので、一概には言えませんが、この商標とドメイン名に関するトピックはDisneyやCoca-Colaの取り組みが紹介されている記事がたくさんあるので、そのようなブランド力が強い企業の取り組みから学ぶのが一番効率がいいと思います。
まとめ作成者:野口剛史
元記事著者:Deborah J. Peckham. Burns & Levinson LLP(元記事を見る)