USPTOが意匠特許審査支援にAIの活用を検討中

意匠特許出願の審査において、特許審査官は先行技術の検索を行っています。その取り組みの一環として、2022年11月からUSPTOはより効率的な画像検索をするために意匠特許審査官の検索に統合できる機能や業界の意見を求める短納期の情報提供依頼書(RFI)を掲載しました。

人手不足の意匠特許審査

意匠特許ダッシュボードによると、米国特許商標庁(USPTO)は現在299名の意匠特許審査官を雇用しており、出願から最初のアクションまでの係属期間は17ヶ月、未審査の意匠特許出願は76,671件で、意匠特許審査官の追加雇用を行っています。

AIによる画像検索を活用し効率的な審査を目指す

USPTOは、2022年11月に提出した「Artificial Intelligence for Design Patent Applications」(ACQ-22-1598)という情報提供要請書(RFI)を通じて、デザイン特許出願審査中の「画像検索」に特に関連する人工知能(AI)の能力を評価するための市場調査を行っています。

RFIにおいて、「意匠特許出願審査」とは、意匠特許を取得するための発明者、実務者、意匠特許審査官との一連のやりとりを指すとしています。出願人が製造物品の装飾デザインを提出すると、USPTOは意匠特許審査官を任命し、意匠特許を付与するかどうかを決定するために出願の開示とクレームを審査します。意匠審査官の最も重要な仕事の1つは、出願に開示された内容を実質的に審査し、先行技術と呼ばれる既存の文献と比較することです。

RFIによると、先行技術とは、デザイン特許出願の新規性・非自明性の主張に関連する可能性のある、ある日付以前に何らかの形で公開されたすべての情報を指すと定義されています。

意匠特許審査官は、限られた時間の中で、ますます複雑化し、膨大な情報を検索して、関連する先行技術を見つけ出さないといけません。それには、特許出願を読んで理解し、広範な先行技術調査を行い、文献を引用して新たな貢献を判断し、出願を拒絶する根拠を説明する必要があります。

以下のような状況から、画像検索は意匠特許の審査においてますます困難になってきています:

  • 発明者、芸術家、デザイナーは毎日新しいデザインを発表しているため、検索すべき情報が飛躍的に増加しています。開示されたデザインの先行技術検索は、増え続ける膨大な情報の中から関連する情報を特定する作業なため、大量の情報を処理することが求められます。
  • 意匠特許において外観は重要です。しかし、テキスト検索では先行技術となるようなデザインを効率よく探すことは難しいです。画像検索データベースは、インターネット上で類似の画像を探し出しますが、審査官は、大きなデザインの中から、容易に入手できない独自の視覚的特徴を見つけるスキルが必要であり、これには訓練と経験が必要です。
  • 意匠特許審査官の時間は限られているため、より多くの結果ではなく、より良い結果が必要です。より良い先行技術検索結果の構成要素には、米国特許分類(USPC)の意匠固有の指定、または非意匠の米国特許や出版物のCPC指定、結果のランキングや関連性、意匠特許審査官が新規性や非自明性の判断を行う際に役立つ関連する視覚的な特徴との組み合わせをする必要があります。

USPTOのManual of Patent Examining Procedure(M.P.E.P.)では、タイトルとクレームにおける製造物品の特定に対してより具体的な開示が求められるようになりました。画像ベースの検索によって、類似した外観のデザインの景観が明らかになるのは興味深いことですが、その結果が、タイトルとクレームの文言で特定された特定の製造品に限定されない場合、本当に審査に役立つのかはまだ未知数です。

現在、意匠特許出願は33の主題クラスに分類され、サブクラスにはより具体的な型や形状の特徴が列挙されています(USPTOのClassification of Design Patentsをご参照ください)。現在の実務によると、意匠特許は、主張する主題に最も関連する主題を含む最初のデザインクラスと、主張するデザインの特定の機能、意図する使用、または装飾的特徴を記述する最初の関連するサブクラスまたは字下げサブクラスに分類されています。

世界知的所有権機関(WIPO)は、知的財産庁におけるAIイニシアチブのインデックスを維持しています。特に、オーストラリア、中国、EUIPO、日本、シンガポール、WIPO、その他が、意匠審査をサポートする画像ベースのAI分類・検索ツールを開発しています。

関連記事:USPTOの特許分類・検索システムのAI活用

AIの進化が審査期間の短縮に貢献することを期待

今回のAIによる画像検索の導入の検討は、審査期間を大幅に短縮する可能性を秘めています。特に、ここ数ヶ月のAIの進歩は目まぐるしいので、特許庁における審査のサポートにもすでに活用できるレベルにまで到達しているのかもしれません。

参考記事:AI Searching Designs

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