予期しない”On-Sale”イベントの危険性

過去にウェビナー講師を務めてくれたBrad Czerwonky 氏による記事です。

これは前回紹介した最高裁判決Helsinn Healthcare S.A. v. Teva Pharmaceuticals USA, Inc.に関するものです。案件の概要は以前の記事を参考にしてほしいのですが、今回はBrad弁護士による考察を中心にまとめました。

すでに特許として発行されていても無効になる可能性はあるのか?

はい。今回のHelsinn 判決では、Helsinn の重要な特許の1つが無効になりました。Helsinn の特許の優先権日より2年前の契約がOn-Saleイベントになってしまいました。実際の契約には発明の詳細は書かれていないものの、契約の存在自体がOn-Saleイベントになってしまい、特許が無効化されました。

“On Sale”とは?

ではどのような行為が“On Sale”イベントになり得るのでしょうか?定義には2つの要素があります。

For an invention to be “on sale,” it must be “the subject of a commercial offer for sale” and be “ready for patenting.”

ここで気をつけたいのが、 “the subject of a commercial offer for sale” と見なされる行為は一般的な考えよりも広いことです。例えば、上記のオファーは受け入れられる必要はありませんし、契約が成立している必要もありません。同様に、“ready for patenting”も、すべての詳細に関して完璧な状態である必要もありません。つまり、場合によっては、1つの試作品、スケッチ、概要の説明などでも上記のOn Saleの条件を満たす可能性があります。

このHelsinn 判決では問題になりませんでしたが、上記のOn Saleの例外である“experimental use” というものもありますが、この例外は事実によって大きく左右されるので、On Saleイベントが発生した際の対策方法として用いるのは難しい面があります。

予期しない”On-Sale”イベントの危険性

秘密の販売や発明の販売オファーのようなものであってもOn-Saleイベントが発生為た場合、アメリカにおける出願猶予であるone-year “grace period” が発動する可能性があります。最初のOn-Saleイベントから1年以内にアメリカで特許出願しないと、特許権を失うことになります。

“On-Sale”イベントの対策方法

Non-disclosure agreement (NDA)のもとで開示された内容は通常アメリカにおける出願猶予であるone-year “grace period” を発動させませんが、今回のような”On-Sale”イベントに対する有効策ではありません。実際に、今回のHelsinn 事件ではNDAのもとで起こったOn-Saleイベントでした。

今回のような”On-Sale”イベントの対策方法は、”On-Sale”イベントが起こる前に出願をすることです。実際に”On-Sale”イベントではないような行動も、後に訴訟を引き起こすきっかけになるかもしてません。また、出願作業を早期におこなうのことで通常よりも費用やリソースがかかるかもしれませんが、そのような追加コストは、訴訟の際のコストとは比較にならないほど安価に済みます。

また、On-Saleイベントは予期しない形で起きる可能性もあるので、何かが起こる前に、事前に専門家であるアメリカの特許弁護士に相談することをおすすめします。

また、今回のような意図しないOn-Saleイベントを避けるため、saleとして扱われないよう、契約をservice agreementのような形にすることも場合によっては可能だと思われます。

まとめ作成者:野口剛史

元記事著者: Jeff Kuester and Brad Czerwonky. Taylor English Duma LLP(元記事を見る



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