営業秘密に関する訴訟の増加により、特許で守りたい発明の一部分を営業秘密として維持することで、知的財産ポートフォリオを多様化したいと考えるかもしれません。しかし、発明を実施するための「ベストモード」を営業秘密として維持しようと考えるなら少し考え直した方がいいかもしれません。
先週紹介した「公開されている特許製品であっても営業機密は保持できる」もこの話題に関連しているので、ぜひ参考にしてみてください。
ベストモードの記載要件
米国特許法では、出願人は特許明細書に「発明者が考えた最良の態様(Best mode)を記載する」ことが求められていますが、米国発明法(AIA)では、最良の態様を開示しなかった場合の特許無効と権利行使不能という2つのリスクがなくなりました。この法改正により、10年前にAIAが制定されて以来、法律学者も法律事務所も「ベストモード」を営業秘密として維持する戦略を提案してきました。 しかし、この戦略に落とし穴がないわけではありません。
パラメータ範囲の記載
多くの発明において、ベストモードは、クレームされたパラメータの好ましい範囲であることが多いです。多くの特許明細書では、1つまたは複数のクレームされたパラメータが、徐々に狭い(そしてより好ましい)範囲で開示されており、クレームされたパラメータを「XからYの範囲内」、「より好ましくは」X1からY1の範囲内、「さらに好ましくは」X2からY2の範囲内と書かれていることが多く、最後の範囲がベストモードを表しています。
「ベストモード」を営業秘密として維持する戦略の場合、(1)最も好ましいX2からY2の範囲を特許明細書から省略し、(2)代わりにこの範囲を企業秘密として保存・維持し、(3)発明をカバーするためにX1からY1の範囲のクレーム付きパラメータを記載した特許請求項を申請する、ということを考えるかもしれません。
しかし、この戦略は、X1からY1の範囲内でX2からY2の範囲外のクレームされたパラメータを教えている先行技術が、特許出願の審査中やIPRなどの再審査中に発見された場合、裏目に出てしまいます。より広い範囲のX1〜Y1のみを明細書に開示したため、より狭い範囲のX2〜Y2については、明細書によるサポートが不十分になってしまいます。そのため、出願人は特許クレームを修正して対象のパラメータを「ベストモード」の範囲に絞ることができず、その結果、特許クレームは先行技術の観点から非特許性であると判断されてしまいます。
このように、知的財産ポートフォリオを多様化して、特許可能な発明の一部を切り取って営業秘密保護を取り入れようとする戦略を取る場合、単にクレームされたパラメータの最も好ましい範囲を省略して営業秘密として維持しようとすることはよく考えた方がいいでしょう。
発明を特許と営業秘密の両方で保護で保護することは可能ですが、それぞれの保護範囲を慎重に検討することが必要です。このような戦略を取る場合は、両方のテーマに精通した外部の弁護士と密接に協力して戦略を練ることをおすすめします。
参考文献:Don’t Just Hide Your Best Mode and Call It a Trade Secret