ここ数年でAIの出願は急速に増加していますが、これらの出願の審査経過はどうなっているのでしょうか?より広い権利・そして再審査や訴訟に耐えられるAI特許を得るためには、リアルタイムでAI関連の出願がどのように審査されているのかを理解し、未然に「地雷」を回避することが賢い行動です。
AI特許の権利化率は以外に高いが、波も大きい
今回はJuristatというツールから得られたデータを使用し、AI出願を最も多く扱っているUSPTOのアートユニット(2122、2129、2121、2124、2123、2128、2127)に焦点を当て、「データ処理-人工知能」に関連するUSPC706でフィルタリングした結果を記事にしていたものを紹介します。
データによると、少なくとも2001年以降、AI出願の平均権利化率は80%で、USPTO全体の権利化率である75%よりも若干高い数値となっています。しかし、時系列で見てみると、AI出願の権利化率は年ごとにばらつきがあり、重要な判決が下された年から数年経つと審査に影響することが見てわかります。
例えば、2018年の権利化率が最も低くなり、わずか62%です。これには最高裁が2014年に下したAlice Corp. Pty. Ltd. v. CLS Bank Int’l, 573 U.S. 208 (2014) の判決が大きな影響を及ぼしています。
その後、権利化率が大きく回復しますが、これはUSPTOが2019年1月に発行した「Patent Subject Matter Eligibility Guidance」と、それに伴うUSPTOの審査プロセスに変化があり、特許適格性(Patent eligibility)の審査性が向上したました。その結果、特許出願の権利化率を高めることなったことは間違いありません。
AI出願における§101拒絶は減少傾向、自明性がトップに
§101とAliceに基づく拒絶は2018年にピークを迎えますが、これはUSPTOのAI権利化率が62%と最も低かった年と重なります。
これらの§101の拒絶は、2014年の最高裁のAlice判決後に急速に増加しましたが、AI関連のクレームは、その性質上、最高裁がAlice判決で懸念していた「抽象的アイデア」の分類に当てはまることが多いので、この拒絶数の増加は特に驚くことではありません。
しかし、データを見ると、USPTOが2019年に特許適格性ガイダンスを発行した直後、§101拒絶のが急激に減少しているので、このガイダンスが与えた影響は特に大きいことがわかります。
また、自明性(§103)の拒絶件数の推移も注目に値します。KSR Int’l Co. v. Teleflex Inc.の最高裁判決(550 U.S. 398 (2007))以降、時系列で見ても自明性の件数は全体的に増加傾向でしたが、USPTOのガイドラインが発行されてまもなくその数も大きく減少しました。
しかし、他の拒絶理由よりも圧倒的に多い拒絶件数なので、AI特許を出願する場合、特有の特許適格性の問題をクリアーするのも大事ですが、十分な自明性対策を盛り込んだ明細書を書くことが重要になってきます。
今後の変化にも柔軟に対応していくことが求められる
AI出願の増加に伴い、AI出願を取り扱うUSPTOの方針や手続きも変わってくるでしょう。そのような変化をいち早く察知し、柔軟に対応していくことが、アメリカで有効なAI特許ポートフォリオを作るのに非常に大きなアドバンテージとなります。
今回のデータを見る限り、特許適格性に関する拒絶はUSPTOのガイドラインを熟知し、ガイドラインに合わせたクレームと明細書を作成することである程度対策ができることがわかったので、今後の出願では、十分な特許適格性の対策とともに、自明性の拒絶を想定したクレームや明細書の内容を考えていく必要があります。
参考文献:”Tracking AI Prosecution Trends at the U.S. Patent Office” by Alec Royka. Oblon