AIが作成した作品は芸術の理解や定義を変えるものなのか?

長年芸術作品は、技術や道具を使うことがあっても、人間が創造的想像力を意識的に用いることで、主に絵画や彫刻のような視覚形態で、その美しさや感情力を表し、評価されてきました。 しかし、その創造における重要な役割を人工知能(AI)が担うようになったら、芸術に対する理解や定義を変えるものになるのでしょうか?

AI生成画像がコンクールで優勝

2022年、ジェイソン・アレンは「Théâtre D’opéra Spatial」と題した作品で、コロラド州フェアの「デジタル加工写真」部門において、他の21人の新進アーティストの中から1位を獲得しました。しかし、この作品は、テキストtoイメージAIツールであるMidjourneyで作成されていました。

DALL-Eなどと同様に、Midjourneyは「ユーザーが作成したクエリーをA.I.アルゴリズムに通し、アルゴリズムにソース画像を引き出させて、その画像に様々な芸術的テクニックを適用します。 しかし、よりフォトリアリスティックな画像に適しているとされる前身のDALL-Eとは異なり、Midjourneyはより芸術的な作品に適したツールとして使われています。

アートとテクノロジーの融合は昔から行われてきた

なお、アートとテクノロジーの融合は必ずしも新しいものではなく、意外な組み合わせから生まれるクリエーションは以前から存在していた。例えば、1960年代、ジャン・ティンゲリーなどのアーティストは、1950年代のサイバネティックな作品に触発され、ロンドンのInstitute of Contemporary Artで、色、ペンの位置、時間の長さを選んで抽象作品を作ることができるペイントマシンを展示しました。 また1973年には、アーティストのハロルド・コーエンは、自身の芸術的スタイルをコード化した独自のアルゴリズムに基づいて特定のオブジェクトを描くようにプログラムされたコンピュータ「アーロン」を世に送り出し、そのオブジェクトの想像を絶するバリエーションを生成することで彼の期待を上回りました 。さらに今日では、画像をサンプルセットとして使用し、新しい画像を作るのに役立つパターンを推測する生成逆境ネットワーク(generative adversarial networks、通称GAN)は、テクノロジーを芸術に取り入れようとするアーティストにとってありふれたツールとなっています 。

現代のAI生成ツールによる作品は「偶然の産物」?

コンクールで優勝したアレン氏の作品は、このような芸術的なAI作品に分類されますが、この作品が人間によって作られたという前提のもと、人間によって作られた作品の中でコンクールで1位を獲得したことは、何を芸術とみなすべきか、間接的に芸術を作るということはどういうことかという議論を呼び起こすことになりました。

それは、アレン氏とAIを創作ツールとして活用するアーティストとの顕著な違いのひとつが、そのプロセスにあったからでしょう。コンピュータに画像のデータベースから計算させるのではなく、他のアーティストは、機械が使用するコードを自らプログラムしたり、自分の作品のデータセットでアルゴリズムを訓練したり、Flickrなどのサイトから選択した画像(おそらくライセンス付き)をコンピュータに与えて、作品を作成していました。これらのアーティストは、より積極的にコントロール要素を示し、彼らの意図がより明白であるかのように感じるようなプロセスになっていますが、アレン氏のように既存のAI画像生成ツールであるMidjourneyを使って作品を創造の場合、作品は「単なる偶然」による産物なのでしょうか。

AIアートに関する法的な取り組み

法律の世界でも、AIアートの問題への取り組みがおこなわれています。

ちょうど昨年の2022年2月、Steven Thaler氏の「A Recent Entrance to Paradise」と題された画像の著作権申請において、その画像は「Creativity Machine」によって作成されたという内容が起因となり、著作物性が認められないという判断が下りました。米国著作権局(United States Copyright Office、USCO)は、その裁定において、「人間の著作権は著作権保護の前提条件である」とし、したがって、Thaler氏の作品は、Thaler氏がそのプロセスに人間が貢献したと主張していないため、登録に不適格であると判断しました。また、Thaler氏のCreativity Machineが作品をwork-for-hireとして作成したというThaler氏の主張も、work-for-hire関係は法的拘束力のある契約から生じるものであり、AI machineは(少なくとも今のところ)そのよううな契約を締結できず、結局この主張は、作品が著作権を有するかどうかではなく、作品の所有者を決定するだけだという理由から、主張が受け要られませんでした。(OLC関連記事

現代のAI生成ツールにおけるアーティストの試行錯誤は創造への貢献?

では、最初に触れたコンクールで優勝したアレン氏の作品について、その著作権の有無を考察してみます。

アレン氏は作品を生成ためにコンピュータにプロンプトを提示しています。もしかしたら、そのような行為が著作権における「人間の貢献度」を示すのに十分な行為と考えることもできなくはないかもしれません。

しかし、たとえそうであったとしても、過去のテクノロジーを使った事例とは異なり、AIのアルゴリズムにはアレン氏は関与していません。そして、これらのAIジェネレーターが使用するオブジェクト、場所、人物、スタイルを引き出すデータベースが、他のアーティストの作品で成り立っています。

MidjourneyのようなAIジェネレーターがアートの世界に大きな影響を与えるにはまだ時間がかかるかもしれませんが、USCOは人間による創造への貢献を評価する判断を下しています。しかし、その判断の基準は、AI生成画像がより一般になってくる時代になるのであれば、徐々に変わってくるかもしれません。

芸術とは、経験、研究、観察によって獲得された技術です。アレン氏はあるインタビューで、作品を制作するために900回も繰り返し自分の言葉で画像を作成し、キュレーションするのに80時間を費やしたと語っています。、彼が使用したAIジェネレーターは、2022年11月の時点で4バージョン目で、たった1回のプロンプトで、特徴あるオブジェクトに関する知識、その詳細、優れた構図を調整できるように利便性が上がっています。

芸術とは、特に美的なものの制作において、技術と創造的な想像力を意識的に使用するものです。アレン氏は、900回繰り返しの作業を行いました。おそらく彼自身の想像力から生まれた彼自身の言葉で試行錯誤を繰り返し、そのプロセスを通して彼のプロンプトは研ぎ澄まされ、一方でAIジェネレーターは、彼のビジョンに合うイメージができるまで、画像を生成しつづけました。このような作業プロセスは、過去に自分のイメージする作品ができるようアルゴリズムを調整し続けたデジタルアーティストの制作プロセスに相当するものとして考えることはできるのではないでしょうか?

芸術とは、人間の創造的な技術や想像力を、絵画や彫刻などの視覚的な形で表現したり応用したりすることです。主にその美しさや感情的な力によって大きく評価される作品を生み出すことがあります。アレン氏が1位を獲得した理由は、彼の作品が審査員に何らかの感動を与えたからではないのでしょうか?

また、「Portrait de Edmond de Belamy」と題された、「アルゴリズムが(創造的に)なり得るか」という実験であるAI生成作品は、2018年にクリスティーズで432,000ドルで売却され、AI生成アートの大きなマイルストーンになりました。 また、「missing datasets」を中心としたシリーズでアートにおけるAIの役割をさらに問うMimi Onuoha氏のようなアーティストもおり、アルゴリズムの偏りを強調し、事実上、かつて存在しなかったこれらのデータセットのライブラリーを生成しています。

アートであることとは?アートでないこととは?何なのでしょう。それはあなたが決めることなのかもしれません。

参考記事:To Be, or Not to Be? Considerations for A.I.- Generated Art

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