米国著作権局の審査委員会は、人工知能(AI)によって作成された芸術作品の登録を拒否し、AIが作成した著作物には著作権が発生しないという著作権局の方針を改めて示しました。著作権法の下では、「作品は人間によって作成されなければならない」ため、人間の著作者による創造的な入力または介入なしに「動作する」機械または単なる機械的プロセスによって作成された作品は登録しないというのが、著作権局による長年の方針です。
コンピュータアルゴリズムによって自律的に作成された作品
今回問題になった作品は、「A Recent Entrance to Paradise」と題された平面作品で、以下のように描かれています。
著作権登録を請求したSteven Thaler氏は、この作品を「Creativity Machine」と呼ばれるものによって創作されたと主張し、著作権保護を申請しました。Thaler氏は、この作品が「機械上で動作するコンピュータアルゴリズムによって自律的に作成された」ものであり、「このコンピュータで作成された作品をCreativity Machineの所有者に依頼されて作られた作品(work-for-hire)として登録しようとしている」というメモを官庁に残しています。しかし、この申請を受けた著作権局は、「著作権の主張を裏付けるのに必要な人間の作為を欠いている」と判断し、登録を拒否します。
Thaler氏は、「人による著作物という要件は違憲であり、法令や判例法のいずれにも裏付けられていない」として再考を求めました。しかし、著作権局は、Thaler氏が 「作品における人間の作者による十分な創造的な入力や介入に関する証拠を提供していない」ことから、この作品は 「著作権の主張を維持するために必要な人間の作者性を欠いている」と再び結論付けました。また、著作権局は、「著作物が人間の著作者によって創作された場合にのみ、著作権保護の法的・形式的要件を満たすという、著作権法、最高裁、下級裁判所の判例の長年の解釈を放棄しない」と述べました。
Thaler氏は再び再考を求め、著作権局の人間による著作物という要件は違憲であり、判例法にも裏付けられていないという主張を新たに行いました。特に、Thaler氏は、「(コンピュータで作成された作品)に対する著作権を禁止する拘束力のある権威は存在しない」、著作権法はすでに、work made for hire doctrineの下で人間以外の存在を著作者として認めている、そして著作権局は、「現在、(コンピュータで作成した作品を)保護できるかという問題に答えるために古い時代の非拘束的司法意見に頼っている」と主張しました。
人間の著作者からの創造的な入力や介入が必須
しかし、審査委員会はThaler氏に同意せず、COMPENDIUM OF U.S. COPYRIGHT OFFICE PRACTICES §602.4(C) (3d ed.) を引用し、著作権法が保護するのは「知的労働の成果」であって、「(人間の)心の創造的な力に基礎を置くもの」であるという命題と、「人間の著作者からの創造的な入力や介入なしに」作動する「機械や単なる機械的プロセスによって生産された」作品を登録しないという副題のため、法の下では、「作品は人間によって創造されなければならない」ということを示しました。しかし、この事件において、Thaler氏は、本作品が人間の著作物の産物であるという証拠を提供せず、また、著作権局が「1世紀にわたる著作権法学から逸脱する」ことを納得させることもしなかったと結論付けました。
審査委員会は、登録を得るための人間の著作者の要件について、最高裁判所の判例を含む関連する判例法を長々と議論しました。審査委員会はまた、著作権局の立場は、米国特許商標庁が最近発表した、AIが提起する知的財産の問題、例えば、「自然人の関与なしにAIアルゴリズムまたはプロセスによって生み出された作品…著作権法上の著作物として適格かどうか」についての報告書が支持していると指摘。この問題に対するパブリックコメントの「大多数」は、「現行法は人間以外が著作者になることを認めておらず、このような法律を維持するべき」だという意見です。
work-for-hireと認識されるには契約が必要
審査委員会はまた、Thaler氏の再考に関する2つ目の議論、すなわち、work-for-hireの原則が「企業などの人間以外の人工的な人物」を著作者とすることを認めているため、人工知能は著作権法上の著作者となりうるという議論を退けました。
審査委員会は、本件著作物が雇用契約(employment agreement)を行った「従業員」によって作成されたものではなく、また、著作物がwork-for-hireとして作られたものであることを「書面により明示的に合意」した1人以上の「当事者」によって作成されたものでもないので、「著作権法に定義される依頼されて作られた著作物(work made for hire )でないことは明らかである」と指摘。17 U.S.C. § 101。
さらに、雇用契約書(employment agreement )、または、work-for-hireに関する契約(work-for-hire agreement)、どちらであれ拘束力のある法的契約の結果として依頼されて作られた著作物(work made for hire )というのは作成されるという点を審査委員会は強調し、今回のAI、Creativity Machineは拘束力のある法的契約を結ぶことができないため、この要件を満たすことはできないと結論づけました。
また、審査委員会は、work-for-hire doctrineは、著作物の所有者の身元について述べているに過ぎず、著作権によって保護されているかどうかについては述べていないと説明。著作権法は、著作物が人間の著作物を含むことを要求しているので、本件著作物は、「著作物」でも 「雇われて」作成されたものでもないため、「雇われて作成された」著作物(work made for hire)とは言えないのであると結論づけました。
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