はじめに
2024年7月31日、米国著作権局(U.S. Copyright Office)が長く待ち望まれていた報告書の第1部を発表しました。この報告書は、人工知能(AI)と著作権に関する法的・政策的問題を扱っています。特に注目すべきは、「デジタルレプリカ」と呼ばれる、AIを使用して個人の声や外見を模倣した未承認の画像や録音に関する提言です。
著作権局は、この問題に対処するための新たな連邦法が「緊急に必要」だと結論づけています。なぜでしょうか?それはAIによって作成されるデジタルレプリカの精度、スピード、規模が急速に向上しているためです。ディープフェイクとも呼ばれるこれらのコンテンツは、エンターテインメント業界や政治の場だけでなく、一般の人々にも大きな脅威をもたらす可能性があります。
今回の著作権局による報告書では、既存の州法や連邦法では不十分だと指摘しています。特に、AIによって生成された非商業的な画像や録音によって引き起こされる被害に対して、適切な保護が提供されていないというのです。
この記事では、著作権局の報告書の主な内容を詳しく見ていきます。デジタルレプリカとは何か、どのような問題があるのか、そしてなぜ著作権局は新しい法律が必要と考え、どのような法的枠組みが理想的だと考えているのか。これらの点について、分かりやすく解説していきます。
2. デジタルレプリカとAIの背景
2.1. デジタルレプリカの定義
デジタルレプリカ(digital replica)とは何でしょうか?米国著作権局の報告書によると、「デジタルで作成または操作された、個人を現実的かつ偽造的に描写する動画、画像、または音声録音」(a video, image, or audio recording that has been digitally created or manipulated to realistically but falsely depict an individual)と定義されています。これは、AIで生成されたものだけでなく、他のデジタル技術で作られたものも含みます。一般的に「ディープフェイク」(deep fake)とも呼ばれるこれらの技術は、驚くほど本物そっくりな偽造コンテンツを生み出すことができるのです。
2.2. デジタルレプリカの潜在的利点
デジタルレプリカは、悪用されるばかりではありません。むしろ、様々な分野で有益な使用方法があるのです。例えば、障がいのある人々のためのアクセシビリティツールとして活用できます。また、故人やツアーを行っていないアーティストの「パフォーマンス」を可能にし、新たな創作活動を支援することもできるでしょう。
さらに、個人が自分の声、イメージ、そして肖像権をライセンス供与し、それによって収入を得る機会を提供することも可能です。実際、脳卒中の後に発話機能が制限されたランディ・トラヴィスという音楽家は、AIを使って10年以上ぶりに新曲をリリースしたという事例もあります。このように、デジタルレプリカは障壁を取り除き、新たな可能性を開く力を持っているのです。
2.3. デジタルレプリカの潜在的リスク
しかし、デジタルレプリカには深刻なリスクも存在します。報告書では、主に4つの大きな懸念が指摘されています。
2.3.1. クリエイティブ産業への脅威
AIによる音声クローンや画像生成の急増は、パフォーマーやアーティストたちに大きな不安を引き起こしています。既に、エキストラの代わりにデジタルレプリカを使用する映画プロジェクトや、声優をAIレプリカに置き換える事例が報告されています。音楽業界でも、AIの使用が「真正性と創造性の喪失」(Loss of authenticity and creativity)や人間の労働力の置き換えにつながる可能性が懸念されています。
2.3.2. 性的に露骨なディープフェイク
デジタルレプリカの最も懸念される使用の一つが、性的に露骨なディープフェイク画像の作成です。2023年の調査によると、オンライン上のディープフェイク動画の98%が露骨な画像で、その99%が女性を対象としているという衝撃的な結果が出ています。さらに悪いことに、クラスメートのディープフェイク露骨画像を作成・投稿する学生の事例も増加しているのです。
2.3.3. 詐欺行為
デジタルレプリカは、詐欺行為の新たな強力なツールとなっています。例えば、多国籍金融企業のCEOと従業員の画像と音声を複製して2560万ドルを盗む事件や、愛する人の声を複製して身代金を要求する事例、さらには弁護士の息子の声を複製して9000ドルの送金を要求する事件なども報告されています。有名人のデジタルレプリカを使って、偽の製品推奨を作り出す詐欺も発生しています。
2.3.4. 政治的偽情報
最後に、しかし決して軽視できないのが、デジタルレプリカが我々の政治システムやニュース報道を脅かす可能性です。例えば、シカゴ市長候補の音声を複製して警察の残虐行為を容認するように見せかけたり、バイデン大統領の声を模倣して有権者に予備選挙への参加を思いとどまらせようとしたりする事例が報告されています。さらに、トランプ前大統領がアンソニー・ファウチ元国立アレルギー感染症研究所所長と一緒に写っているようなAI生成画像を使用した選挙広告も存在しました。
これらの事例は、デジタルレプリカが持つ危険性を如実に示しています。技術の進歩により、真実と虚構の境界線がますます曖昧になっていく中で、我々はこの問題にどう対処していくべきかを真剣に議論していく必要があります。
3. 既存の法的枠組み
デジタルレプリカに関する法的問題は、複数の法的枠組みにまたがっています。既存の法律がこの新しい技術にどのように適用されるのか、そしてなぜ新しい法律が必要とされているのか、詳しく見ていきましょう。
3.1. 州法
3.1.1. プライバシー権とパブリシティ権
多くの州では、長年にわたって「プライバシー権(right of privacy)」と「パブリシティ権(right of publicity)」という二つの権利を認めてきました。
プライバシー権は、19世紀末に登場した比較的新しい概念です。この権利は、個人の私生活への不当な侵入から保護し、個人の自律性、尊厳、人格の統合性を守ることを目的としています。特に重要なのは、誤解を招くような情報を表現する際に使われる行為と氏名・肖像の盗用(appropriation of name and likeness)という二つの不法行為です。
一方、パブリシティ権は、個人の人格の商業的利用を規制するものです。この権利は、他者が無断で個人の人格を利用して利益を得ることを防ぐことを目的としています。パブリシティ権は、主にセレブリティや有名人を保護するために発展してきました。
しかし、これらの権利の適用範囲や解釈は州によって大きく異なります。例えば、一部の州では、パブリシティ権の保護を受けるには、その個人の身元に商業的価値があることを証明する必要があります。また、音声の保護に関しても、州によって扱いが異なります。
3.1.2. デジタルレプリカに関する最近の州法
AIによるデジタルレプリカの出現に対応して、いくつかの州が新しい法律を制定したり、既存の法律を改正したりしています。
例えば、テネシー州は最近、「パブリシティ権法(right of publicity statute)」を拡大し、音声シミュレーションを含めるようになりました。また、ルイジアナ州とニューヨーク州は、デジタルレプリカの使用を直接的に対象とする法律を可決しました。
しかし、これらの州法もそれぞれ異なるアプローチを取っています。例えば、ルイジアナ州の法律は生存中のプロのパフォーマーのみを対象としていますが、ニューヨーク州の法律は故人のプロのパフォーマーも対象としています。
3.2. 連邦法
3.2.1. 著作権法
「著作権法(Copyright Act)」は、オリジナルの著作物を保護しています。これには、デジタルレプリカの作成に使用される可能性のある写真や音声・映像記録も含まれます。しかし、著作権法は個人のアイデンティティそのものを保護するものではありません。つまり、個人の画像や音声のみのレプリカは、著作権侵害にはならない可能性が高いのです。
3.2.2. 連邦取引委員会法
「連邦取引委員会法(Federal Trade Commission Act)」は、「不公正または欺瞞的な行為や慣行」(unfair methods of competition in or affecting commerce, and unfair or deceptive acts or practices in or affecting commerce)を禁止しています。連邦取引委員会(FTC)は、AIによるデジタルレプリカが消費者を欺いたり、クリエイターの評判を悪用したりする場合、この法律に基づいて行動を起こす可能性があります。
3.2.3. ランハム法
「ランハム法(Lanham Act)」は、連邦の商標法であり、特定の不正競争行為も対象としています。デジタルレプリカの無断使用が「虚偽の推奨(false endorsement)」を構成する場合、この法律の下で訴えを起こすことができます。ただし、この法律は主に商業的な使用に限定されており、多くの有害なデジタルレプリカの使用には適用されない可能性があります。
3.2.4. 通信法
連邦通信委員会(FCC)は最近、「電話消費者保護法(Telephone Consumer Protection Act)」に基づいて、ロボコール詐欺で使用されるAI生成の音声クローンを違法とする宣言的裁定を採択しました。しかし、FCCの権限は通信サービスに限定されているため、ウェブサイトなどでのデジタルレプリカの使用には対処できません。
3.3. 民間契約
法律による保護に加えて、個人の名前や肖像の使用を管理する民間契約も存在します。例えば、パフォーマー契約には、パフォーマーのアイデンティティの使用方法を規定する条項が含まれることがあります。
最近では、AIによるデジタルレプリカの使用に関する特定の条項を含む契約も登場しています。例えば、全米映画俳優組合(Screen Actors Guild-American Federation of Television and Radio Artists、SAG-AFTRA)は、AIで生成されたレプリカの作成と使用に関する新しい規定を含む複数年契約を批准しました。
しかし、これらの民間契約は主にエンターテインメント業界に限定されており、他の産業や一般の人々を保護するものではありません。
このように、既存の法的枠組みはデジタルレプリカによってもたらされる新たな課題に十分に対応できていないのが現状です。そのため、米国著作権局は新たな連邦法の制定を提言しているのです。
4. 米国著作権局のデジタルレプリカに関する報告書
4.1. 報告書の概要
2024年7月31日、米国著作権局(U.S. Copyright Office)は「著作権と人工知能(Copyright and Artificial Intelligence)」と題した報告書の第1部を発表しました。この報告書は、AIと著作権に関する法的・政策的問題を包括的に検討したものです。
報告書の作成にあたっては、1万件以上のパブリックコメントが寄せられ、著者、作曲家、パフォーマー、アーティスト、出版社、プロデューサー、弁護士、学者、テクノロジー企業、図書館、スポーツリーグ、業界団体、公益団体など、幅広い関係者からの意見が反映されています。さらに、中学生のクラスからのコメントも含まれているそうです。
4.2. 主な調査結果と提言
4.2.1. 連邦法制定の必要性
報告書の最も重要な結論は、デジタルレプリカに対処するための新しい連邦法が「緊急に必要(urgently needed)」だというものです。著作権局は、AIによって作成されるデジタルレプリカの精度、スピード、規模が、迅速な連邦の行動を求めていると指摘しています。
既存の州法や連邦法では、未承認のデジタルレプリカの公開や配布によってもたらされる実質的な害から個人を十分に保護できないと著作権局は結論づけています。この問題は、エンターテインメントや政治の分野だけでなく、一般の人々にも影響を与える可能性があるのです。
4.2.2. 連邦デジタルレプリカ権の提案要素
著作権局は、新しい連邦法に含めるべき重要な要素をいくつか提案しています。
4.2.2.1. 保護対象と権利者
法律は、AIで生成されたものかどうかにかかわらず、本物と区別するのが難しいほど現実的なデジタルレプリカを対象とすべきだと提言しています。さらに、この権利は有名人やパブリックフィガーだけでなく、すべての個人に適用されるべきだとしています。
4.2.2.2. 保護期間
保護期間については、少なくとも個人の生存期間中は保護されるべきだとしています。死後の保護については、期間を限定し、場合によっては個人のペルソナが死後も商業的に利用され続ける場合に延長できるオプションを設けることを提案しています。
4.2.2.3. 禁止行為と責任
未承認のデジタルレプリカの配布や公開を行為として禁止すべきですが、単なる作成行為は対象外とすべきだと提言しています。また、商業的利用に限定せず、個人的な性質の害悪も対象とすべきだとしています。責任の発生には、デジタルレプリカが特定の個人のものであり、かつ未承認であることの実際の知識(actual knowledge)が必要だとしています。
4.2.2.4. ライセンスと譲渡
個人がデジタルレプリカ権をライセンス供与し、収益化することは可能とすべきですが、完全な権利譲渡は認めるべきではないと提言しています。また、未成年者の権利のライセンスには追加の保護措置が必要だとしています。
4.2.2.5. 修正第1条への配慮
法律には表現の自由に関する懸念を明示的に盛り込むべきだとしています。カテゴリー別の除外ではなく、バランスを取るフレームワークを使用することで、過度の広がりを避け、より大きな柔軟性を確保できるとしています。
4.2.2.6. 救済措置
効果的な救済措置として、差止命令による救済と金銭的損害賠償の両方を提供すべきだとしています。法定損害賠償や勝訴当事者への弁護士費用の規定を含めることで、経済的損害を示せない個人や訴訟費用を負担できない個人でも保護を受けられるようにすべきだとしています。
4.2.2.7. 州法との関係
著作権局は、確立された州のパブリシティ権とプライバシー権を考慮して、完全な連邦法の専占(preemption)は推奨していません。代わりに、連邦法が全国的に一貫した保護の基準を提供し、州がさらなる保護を提供できるようにすべきだとしています。
4.2.3. 著作権法第114条(b)項の明確化
報告書は、著作権法第114条(b)項(Section 114(b) of the Copyright Act)が、音声デジタルレプリカの無断使用から保護する州法と矛盾しないことを明確にすべきだと提言しています。この条項は、録音物における音の模倣や模倣を許可していますが、著作権局は、これが個人の固有の声に対する権利を奪うことを意図したものではないと指摘しています。
この包括的な報告書は、デジタルレプリカがもたらす課題に対処するための重要な一歩となっています。しかし、これらの提言が実際の法律としてどのように具体化されるかは、今後の議会での議論や立法プロセスに委ねられることになるでしょう。
5. 議会の動向と提案された法案
米国著作権局の報告書が発表される中、議会でもデジタルレプリカに関する法案の検討が進んでいます。ここでは、主要な法案とその特徴を見ていきましょう。
5.1. No AI FRAUD法案
2024年初頭に提出された「人工知能による偽のレプリカと無断複製の禁止法(No Artificial Intelligence Fake Replicas And Unauthorized Duplications Act、No AI FRAUD Act)」は、デジタルレプリカに関する包括的な法案の一つです。
この法案の主な特徴は以下の通りです:
- 音声と肖像に関する知的財産権を確立
- 個人を容易に識別できるデジタル音声レプリカやデジタル描写の無断使用から保護
- これらの権利は個人の生存中に譲渡可能で、相続も可能
- 保護期間は個人の死後少なくとも10年間継続し、一定の条件下でさらに延長可能
- デジタル描写やデジタル音声レプリカの使用許可は書面で行い、個人が弁護士の代理を受けている場合にのみ有効
- 未成年者の権利に関する契約は、州法に基づく裁判所の承認が必要
さらに、この法案は知りながらデジタル音声レプリカやデジタル描写を配布した者に直接責任を負わせ、「個人化されたクローニングサービス」(personalized cloning service)の取引も禁止しています。また、修正第1条に書かれている表現の自由(First Amendment Freedom of Expression)への配慮として、裁判所が公共の利益とプライベートなデジタルレプリカ権のバランスを取るための要素リストも提供しています。
5.2. NO FAKES法案
もう一つの注目すべき法案が、「オリジナルを育成し、芸術を促進し、エンターテインメントを安全に保つ法(Nurture Originals, Foster Art, and Keep Entertainment Safe Act、NO FAKES Act)」の討議草案です。
この法案の主な特徴は以下の通りです:
- 個人のイメージ、音声、または視覚的類似性をデジタルレプリカで使用する権利を確立
- この権利は相続可能でライセンス可能な財産権として設定
- 保護期間は個人の死後70年間継続(生前に利用されていなくても適用)
- ライセンスの有効性には、個人が弁護士の代理を受けていること、契約が書面であること、または集団交渉協定によって規定されていることが条件
NO FAKES法案は、同意なしにデジタルレプリカを制作・配布した場合の責任も規定しています。また、ニュース、公共の問題、スポーツ放送、ドキュメンタリー、歴史的または伝記的作品、コメント、批評、学術研究、風刺、パロディーなどでの使用を責任から除外しています。
5.3. その他の関連法案
デジタルレプリカに関連するその他の法案も提出されています。例えば:
- 「親密な画像のディープフェイク防止法(Preventing Deepfakes of Intimate Images Act)」:AIで生成された親密なデジタル描写を意図的に開示したり、開示すると脅したりすることを犯罪とする法案。
- 「実在の政治広告法(REAL Political Advertisements Act)」:政治広告でAIで生成された音声や画像を使用する場合、その旨を明示することを義務付ける法案。
- 「選挙を欺瞞的AIから保護する法(Protect Elections from Deceptive AI Act)」:連邦選挙に関連する欺瞞的なAI生成メディアを配布することを犯罪とする法案。
これらの法案は、デジタルレプリカがもたらす様々な問題に対処しようとしています。政治広告から個人のプライバシー保護まで、幅広い分野をカバーしているのが特徴です。
議会でのこれらの動きは、米国著作権局の報告書と相まって、デジタルレプリカに関する包括的な法的枠組みの構築に向けた重要な一歩となっています。今後、これらの法案がどのように議論され、最終的にどのような形で法制化されるかが注目されます。
6. 今後の影響と検討事項
米国著作権局による「デジタルレプリカ」に関する報告書の公表は、AI技術と知的財産権の交差点に立つ多くの関係者に大きな影響を与えそうです。この報告書が示唆する方向性は、個人の権利保護から産業界の発展まで、広範囲にわたる議論を巻き起こすことでしょう。
6.1. 個人と産業界への影響
個人の権利保護という観点から見ると、この報告書は朗報と言えるかもしれません。「すべての個人(all individuals)」を保護対象とすることを提言しているからです。これは、有名人だけでなく、一般市民も自分の姿や声が無断でAIによって複製されることから守られる可能性を示唢しています。
一方、エンターテインメント業界や技術産業にとっては、新たな課題が浮上したと言えるでしょう。デジタルレプリカの作成と利用に関する規制が強化されれば、クリエイティブな表現の自由が制限されるのではないかという懸念も出てくるかもしれません。
しかし、報告書が提言する「バランシング・フレームワーク(balancing framework)」は、表現の自由と個人の権利保護のバランスを取ろうとする試みだと解釈できます。この枠組みがどのように機能するかは、今後の法制化の過程で注目されるポイントになるでしょう。
6.2. AIと著作権に関するその他の問題との関係
デジタルレプリカの問題は、AIと著作権に関する議論の一部に過ぎません。著作権局は今回の報告書で、AIによる芸術的スタイルの模倣については既存の法的枠組みで対応可能だとの見解を示しました。
しかし、AIが生成したコンテンツの著作権や、著作物をAIの学習データとして使用することの是非など、他にも重要な問題が山積しています。OpenAIのようなAI開発企業は、これらの問題に特に注目しているはずです。
今回の報告書は、こうした広範な問題群の中で、デジタルレプリカという特定の領域に焦点を当てたものです。しかし、その内容は他の問題にも影響を与える可能性があります。たとえば、AIによる著作物の「公正使用(fair use)」の解釈に新たな視点を提供するかもしれません。
6.3. 今後の報告書とガイダンスの予測
著作権局は、今回の報告書を「パート1(Part 1)」と位置付けています。つまり、AIと著作権に関する一連の報告書の第一弾ということです。今後、AIが生成したコンテンツの著作権や、著作物のAI学習への利用など、他のトピックに関する報告書も発表されると予想されます。
これらの報告書は、単なる分析にとどまらず、具体的な政策提言を含む可能性が高いでしょう。「コンペンディウム(Compendium)」と呼ばれる著作権局の実務マニュアルの更新も予想されます。特に、AIが生成した作品の著作権登録に関するガイドラインが注目されるところです。
さらに、バイデン大統領の行政命令に基づき、米国特許庁(USPTO)も2025年1月27日までにAIと著作権に関する提言を行うことになっています。著作権局とUSPTOの提言がどのように整合性を取るか、また、それらがどのように立法や司法の場で反映されていくかは、今後の大きな注目点となるでしょう。
7. 結論
米国著作権局によるデジタルレプリカに関する報告書は、AIの急速な進歩がもたらす課題に対する重要な一歩と言えるでしょう。個人の権利保護と創造的表現の自由のバランスを取る新たな連邦法の必要性を強調し、具体的な提言を行っています。この報告書は、デジタル時代における個人のアイデンティティ保護の重要性を浮き彫りにすると同時に、AIとクリエイティブ産業の共存の道を模索する出発点となるでしょう。今後、議会での議論や法案の行方、さらには著作権局による追加の報告書や他の政府機関からの提言など、この分野の展開は目が離せません。デジタルレプリカに関する新たな法的枠組みの確立は、技術革新と個人の権利擁護を両立させる上で、避けては通れない重要な課題となるでしょう。この取り組みは、私たちのデジタル社会の未来を形作る上で欠かせない要素となることは疑いありません。