AI lawsuit between Disney, Universal, and Midjourney illustrating the potential copyright infringement and legal challenges in the entertainment industry during the AI era

AI時代の著作権侵害リスク:Disney・Universal v. Midjourney訴訟から見るエンターテイメント業界の危機感

はじめに

2025年6月11日、Disney及びUniversalがAI画像生成サービスMidjourneyに対して著作権侵害訴訟を提起しました。このDisney Enterprises, Inc. v. Midjourney, Inc. 事件(Case No. 25-5275)は、ハリウッドの大手スタジオが生成AI企業に対して起こした初の本格的な法的挑戦として注目されています。

年間3億ドルの収益を上げるMidjourneyに対する訴訟が特に注目される理由は、Disney・Universalが事前に複数回の警告を行ったにもかかわらず、Midjourneyがこれを無視し続けたという経緯にあります。本稿では、Disney・Universalが訴状で提起した具体的な懸念と、この訴訟に踏み切った背景について分析します。

Disney・Universalの核心的懸念:「選択的対応」への批判

事前協議の決裂と選択的フィルタリング

Disney・Universalが最も問題視しているのは、Midjourneyの「選択的対応」 です。訴状によれば、原告側は事前にMidjourneyに対して知的財産の使用停止を求めましたが、同社は「自社の収益を優先し、原告らの要求を無視した」とされています。

特に批判されているのは、Midjourneyが暴力的・性的コンテンツには既にフィルタリング技術を実装しているにもかかわらず、著作権保護については同様の措置を講じていないという点です。技術的実現可能性が証明されているにもかかわらず、著作権保護にのみ適用しないという判断は、原告側には受け入れ難い経営方針として映っています。

巨額収益への懸念

Disney・Universalは、Midjourneyの年間3億ドルの収益が、彼らの知的財産を基盤として構築されている構造を強く批判しています。訴状では「Midjourneyは無数の無許可コピーを作成することで収益性の高い商業サービスを構築している」と指摘されており、創作者とAI企業の間の経済的バランスの崩壊に対する深刻な危機感が表れています。

訴訟タイミングの背景:業界標準からの逸脱

ライセンス市場の形成

Disney・Universalが2025年6月に訴訟に踏み切った重要な背景は、AI業界でライセンス契約が標準化しつつある中で、Midjourneyだけが取り残されている状況です。Associated PressやNew York Times等の大手メディア企業が既にAI企業とライセンス契約を締結しており、「AI訓練用ライセンス市場」が現実のものとなっています。

さらに、米国著作権局が2025年の報告書でライセンシングを積極的に推奨しているという政策的背景も、Disney・Universalの訴訟判断を後押しする要因となったと考えられます。

AI技術の急速な進歩への危機感

訴状では、Midjourneyのサービスが「原告らの著作権キャラクターの本質的特徴を完全に再現する能力を有している」と指摘されており、「ダース・ベイダー」や「ミニオンズ」といった象徴的キャラクターが容易に再現可能になっている現状への危機感が表れています。

共同訴訟の戦略的意義

本訴訟で注目すべきは、Disney・Universal・Marvel・Lucasfilm等の業界大手が結束して共同訴訟を選択した戦略的意義です。この結束は、AI技術がもたらす脅威の深刻さと、個別対応では限界があるという業界共通の認識を反映しています。

AI企業への新たな義務創設の可能性

本訴訟は、AI開発企業に対する予防的措置義務の法的確立を目指しています。具体的には:

  • 著作権保護データベースとの事前照合システム構築義務
  • プロンプトフィルタリング技術の実装義務
  • 継続的監視・除去システムの運用義務

これらの義務は、既に暴力的・性的コンテンツに対して同様のシステムが実装されている以上、技術的実現可能性は証明済みであり、著作権保護への適用は合理的な要求と判断される可能性があります。

損害算定における懲罰的要素

故意侵害が認定されれば、法定損害金(最大15万ドル/作品)の適用 により、AI企業にとって致命的な財務的影響をもたらす可能性があります。Disney・Universalが保有する膨大な数の著作権登録作品を考慮すれば、潜在的な損害額は数十億ドル規模に達する可能性があります。

まとめ

Disney Enterprises, Inc. v. Midjourney, Inc. 事件は、AI時代における著作権法の新たなパラダイムを確立する歴史的転換点となる可能性があります。

事前警告の無視、技術的実現可能性の立証、商業的成功と侵害の因果関係という証拠構造により、従来曖昧だった「故意的侵害」の認定基準が明確化される可能性があります。これにより、AI企業は「技術的限界」や「意図的でない侵害」という従来の抗弁を維持することが困難になるでしょう。

また、既存のライセンス市場の存在と政府の積極的推奨政策により、フェアユース抗弁の成立可能性は大幅に低下しています。この訴訟の結果は、AI開発企業の事業モデル再構築と、技術革新と創作者保護の新たなバランスを決定する重要な先例となります。

知的財産実務に従事する専門家は、この画期的な事件の進展を注視し、AI時代における著作権法の新たな解釈について深い理解を構築する必要があります。

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