A graphic showing a color swatch of a dark green medical glove and a legal gavel representing the CAFC's decision on color trademarks in the PT Medisafe Technologies case

色彩商標はどのような場合に一般名称性化するのか?:PT Medisafe Technologies事件

はじめに

米国における商標保護は、伝統的な言語商標やロゴのみならず、色彩や形状など非伝統的要素にも拡大してきました。特に色彩商標は、企業のブランド戦略において重要な役割を果たすことがあります。例えば、T-Mobile社のマゼンタ色やUPS社の茶色などは、単色が特定企業を想起させる代表例です。

しかし、色彩商標の保護には独自の課題があります。特に、業界内で一般的に使用されている色彩は、単一の企業が独占的に使用することが適切かという問題があります。このような背景のもと、米国連邦巡回控訴裁判所(United States Court of Appeals for the Federal Circuit、以下「CAFC」)が2025年4月29日に下したIn Re: PT Medisafe Technologies判決は、色彩商標の一般名称性(genericness)判断に関する重要な基準を確立しました。この判決は、色彩商標に関する実務に大きな影響を与える先例的価値を持つものです。

背景と概要

本事件は、医療用手袋製造・流通企業であるPT Medisafe Technologies(以下「Medisafe」)が、クロロプレン医療用検査手袋に使用する特定の濃緑色(Pantone 3285 c)を色彩商標として米国特許商標庁(USPTO)に出願したことに始まります。

審査の過程で、審査官はこの濃緑色が固有の識別力を持たないと判断し、識別力の獲得(acquired distinctiveness)の証明がなければ主登録簿および補助登録簿への登録は認められないと指摘しました。これに対しMedisafeは、同社の執行副社長による宣誓供述書や販促資料を提出して識別力の獲得を証明しようと試みました。

しかし審査官は、提出された証拠を検討した結果、当該色彩は業界内において一般名称的(generic)であり、識別力を獲得していないとして、商標登録を拒絶しました。Medisafeはこの決定を不服として商標審判部(Trademark Trial and Appeal Board、以下「TTAB」)に上訴しましたが、TTABは審査官の判断を支持しました。これを受けMedisafeがCAFCに上訴したのが本件です。

CAFCは、TTABの適用した色彩商標の一般名称性判断の法的基準が適切であり、Medisafeの濃緑色商標が一般名称的であるとのTTABの事実認定には十分な証拠があるとして、TTABの判断を支持しました。

色彩商標の一般名称性判断に関する法的基準

本判決の中核は、色彩商標の一般名称性を判断するための法的基準の確立にあります。CAFCは、TTABが2019年のMilwaukee Electric Tool Corp. v. Freud America, Inc.事件で初めて示した二段階テスト(以下Milwaukeeテスト)を採用しました。

Milwaukeeテストは、CAFCが1986年のH. Marvin Ginn Corp. v. International Association of Fire Chiefs, Inc.事件で確立した一般名称性判断のためのテスト(以下Marvin Ginnテスト」)を、色彩商標向けに修正したものです。

Marvin Ginnテストは、以下の二段階で構成されています:

  1. 問題となる商品・サービスの属(genus)は何か(What is the genus of goods or services at issue?)
  2. 登録を求められている「用語(term)」が、関連公衆によって主に当該属を指すものとして理解されているか(Is the term sought to be registered understood by the relevant public primarily to refer to that genus of goods or services?)

これに対し、Milwaukeeテストでは、第二段階が以下のように修正されています:
2. 登録を求められている「色彩(color)」が、関連公衆によって主に商品・サービスの属の種類として理解されているか(Is the color sought to be registered understood by the relevant public primarily to refer to that genus of goods or services?)

つまり、Milwaukeeテストは、色彩が業界内で一般的であり、単一の出所を識別するものとして機能しない場合、その色彩は一般名称的であり商標登録できないという考え方に基づいています。

CAFCは、このMilwaukeeテストがMarvin Ginnテストと一貫しており、色彩商標の一般名称性判断に適切であると判断し、正式に採用したのです。

ランハム法の解釈問題

Medisafeは、Milwaukeeテストの適用に対して重要な法的異議を唱えました。その主張は、商標法(ランハム法)の条文解釈に関するものです。

具体的には、ランハム法15 U.S.C. § 1064(3)は、「登録商標が商品やサービスの一般名称(generic name)になった場合」に商標登録の取消しが可能と規定しています。Medisafeは、「一般名称」という文言に着目し、色彩は「名称」ではないため一般名称性による拒絶理由や取消事由の対象にならないと主張したのです。

これに対しCAFCは、1999年のSunrise Jewelry Manufacturing Corp. v. Fred S.A.判決を引用し、「一般名称」の文言は拡張的に解釈すべきであり、出所表示機能を果たす可能性があるがそれに失敗するもの(色彩商標やトレードドレスを含む)も対象になると判断しました。

CAFCの解釈によれば、商標の種類に関わらず、出所表示機能を果たさない要素はすべて一般名称となりうるのです。この解釈は、ランハム法の目的を支持するものであり、色彩商標や他のトレードドレスを言語商標よりも優遇することを防止します。

本件での証拠評価

CAFCは、Medisafeの濃緑色商標が一般名称的であるというTTABの認定には十分な証拠があると判断しました。

まず、関連する商品の属(genus)については、TTABが「クロロプレン医療用検査手袋」全般と定義したのに対し、Medisafeは「認定販売店にのみ販売されるクロロプレン医療用検査手袋」という狭い定義を主張しました。しかし、CAFCはTTABの広範な定義を支持し、出願人が提案する定義を常に受け入れる必要はなく、「クロロプレン医療用検査手袋」全体を考慮することが適切であると判断しました。

関連公衆については、TTABは「クロロプレン医療用検査手袋を購入する可能性のあるすべての人・企業」と定義し、これもCAFCによって支持されました。

証拠評価に関して特に重要だったのは、第三者が同様の濃緑色手袋を販売していることを示すウェブサイトのスクリーンショットです。25例のうち15例については、Medisafeが製造元であると主張していましたが、残り10例については、そのような主張はありませんでした。TTABは、これらすべてのスクリーンショットが一般名称性の証明に関連すると判断しました。その理由は、関連消費者が多数の第三者商標の下で類似の緑色手袋に接する可能性があり、それらの緑色手袋がMedisafeを出所として識別しない可能性があるためです。

また、Medisafeが提出した顧客宣誓供述書と消費者調査については、TTABはこれらに低い証明力しか認めませんでした。宣誓供述書は「数が少なく、形式が同一で、比較的結論的」であり、関連公衆の一般的な認識を示すには不十分でした。消費者調査についても、Medisafeの弁護士(調査専門家ではない)によって実施され、誘導的な質問を含み、Medisafeの既存顧客のみを対象にした点などから、「証明力がないほど欠陥がある」と判断されました。CAFCはこのTTABの評価を支持しました。

判決の実務的影響

本判決は、色彩商標の保護を求める企業やその代理人に重要な指針を提供するものです。

まず、Milwaukeeテストが色彩商標の一般名称性判断の適切な基準としてCAFCにより正式に採用されたことで、色彩商標の一般名称性判断がより予測可能になりました。このテストにより、ある色彩が業界内で一般的に使用されており、単一の出所を識別できない場合、その色彩は一般名称的で登録不可能であることが明確になりました。

また、本判決は、業界内で一般的に使用されている色彩の商標登録がきわめて困難であることを示しています。特に、特定の業界や製品カテゴリーにおいて機能的な理由や慣習的な理由で特定の色彩が広く使用されている場合、その色彩の独占的使用の主張は困難になるでしょう。

このことから、色彩商標の保護を目指す企業は、以下のような戦略を検討する必要があります:

  1. 業界内で独自性のある、差別化された色彩を選択すること
  2. 消費者が当該色彩を特定の出所と関連付けるよう、一貫して使用し、マーケティングに投資すること
  3. 商標登録出願の際には、識別力の獲得を証明するための堅固な証拠(専門家による適切な消費者調査など)を準備すること

今後の展望

色彩商標は、適切に保護されれば強力なブランド資産となる可能性があります。しかし、本判決は色彩商標の保護には明確な限界があることを示しています。

特に、本判決の重要な点は、色彩商標が一般名称的となりうることを明確に認めたことです。これまで、色彩商標が固有の識別力を持たず、二次的意味の獲得が必要であることは認識されていましたが、一般名称性という観点から分析されることは少なかったと言えます。

このアプローチは、他の非伝統的商標(音、匂い、触感など)の一般名称性判断にも適用される可能性があります。特に、Milwaukeeテストの原理(業界内で一般的に使用されているものは単一の出所を識別できない)は、他の非伝統的商標にも当てはまる可能性があります。

実務家としては、色彩商標に限らず、非伝統的商標の保護を検討する際には、当該要素が業界内でどの程度一般的に使用されているかを慎重に調査・分析し、一般名称性の問題に対処する準備が必要です。また、識別力の獲得を示す証拠を収集・準備する際には、専門家の関与や適切な調査設計など、証拠の質と信頼性を高める工夫が重要になるでしょう。

まとめ

PT Medisafe Technologies事件は、色彩商標の一般名称性判断に関する明確な基準を確立した重要な判例です。CAFCは、Milwaukeeテストを色彩商標の一般名称性判断の適切な基準として採用し、色彩が業界内で一般的であり単一の出所を識別できない場合、その色彩は一般名称的であり登録不可能であることを明確にしました。

この判決は、米国商標法における一般名称性の概念を広く解釈し、「一般名称」が言語商標だけでなく色彩商標などの非伝統的商標にも適用されることを確認しました。また、業界内で一般的に使用されている色彩の商標登録が困難であることを示し、色彩商標の保護を求める企業は、独自性のある色彩の選択や識別力の獲得のための戦略的な使用が必要であることを示唆しています。

商標実務においては、色彩商標の出願前に、当該色彩が業界内でどの程度一般的に使用されているかを慎重に調査し、一般名称性の問題に対処する準備が必要です。また、識別力の獲得を証明するための証拠を収集・準備する際には、証拠の質と信頼性を高める工夫が重要です。

この判決は、色彩商標だけでなく、他の非伝統的商標の一般名称性判断にも影響を与える可能性があり、商標実務の今後の発展において重要な指針となるでしょう。

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