Establishing new standards in patent litigation complaint requirements based on the AlexSam v. Aetna case. CAFC sets criteria for conclusive claims or fact-based claims, emphasizing detailed technical explanations, evidence support, and clarity on relationship with patent claims. Emphasizes strict interpretation of license agreements and cautious judgment in early dismissal of claims.

CAFCによる特許訴訟の訴状記載要件における新基準の確立 ~AlexSam v. Aetna事件判決の意義~

1. はじめに

米国の連邦巡回区控訴裁判所(United States Court of Appeals for the Federal Circuit、以下「CAFC」)は2024年10月8日、特許訴訟における訴状(complaint)の記載要件に関する重要な判決を示しました。AlexSam, Inc. v. Aetna, Inc.事件(以下、AlexSam事件)において、CAFCは訴状の記載が「結論的な主張」(conclusory allegation)か「十分な事実に基づく主張」(well-pled and factual allegation)かの判断について、上訴審での審査基準を明確に示しました。

特許訴訟において、訴状の記載内容の適切性は、訴訟の初期段階での却下の可否を左右する重要な要素となります。しかし、これまで訴状の記載内容を評価する際の審査基準については明確な指針が示されていませんでした。

本判決は、特に訴訟の早期段階における裁判所の判断基準を明確化し、上訴審における判断方法についても新たな指針を示しています。また、特許ライセンスの解釈や間接侵害の立証についても重要な判断を含んでおり、特許実務に大きな影響を与えることが予想されます。

連邦民事訴訟規則(Federal Rules of Civil Procedure)の規則12(b)(6)に基づく訴え却下の申立てにおいては、訴状に記載された事実を真実として扱う必要がありますが、「結論的な主張」については、そのような扱いは不要とされています。このような区別は実務上極めて重要である一方で、これまでその判断基準は必ずしも明確ではありませんでした。

本稿では、AlexSam事件におけるCAFCの判断内容を詳しく解説するとともに、この判決が特許実務にもたらす影響について分析していきます。

2. 事案の概要

2.1 事件の背景

本件は、マルチファンクションカードシステムに関する米国特許第6,000,608号(以下、’608特許)の特許権者であるAlexSam社が、Aetna社のMastercard製品およびVISA製品が同特許を侵害しているとして提訴した事件です。

‘608特許は、「マルチファンクションカードシステム」(Multifunction Card System)と題する発明に関するもので、中央処理ハブ(central processing hub)を通じて複数の機能を実行できるデビット/クレジットカードに関する技術を対象としています。1999年12月14日に発行された本特許は、2017年に存続期間が満了しています。

特に注目すべき点として、2005年にAlexSam社とMastercardの間で締結されたライセンス契約(License Agreement)があります。このライセンス契約では、Mastercardに対して「ライセンス取引」(Licensed Transaction)を処理する権利が付与されていました。ここで「ライセンス取引」とは、「アカウントまたはサブアカウントのアクティベーションまたは価値の追加に関する各プロセス」と定義されていました。

本件で問題となった特許クレームは、クレーム32および33です。クレーム32は、以下の要素を含むマルチファンクションカードシステムを規定しています:

  1. デビット/医療サービスカードで、アメリカ銀行協会が承認した銀行識別番号を含む固有の識別番号を持つもの(at least one debit/medical services card having a unique identification number encoded on it comprising a bank identification number approved by the American Banking Association for use in a banking network)
  2. 未修正の既存の標準的なPOS端末からカードデータを受信する取引処理装置(a transaction processor receiving card data from an unmodified existing standard point-of-sale device)
  3. 取引処理装置から直接または間接的にカードデータを受信する処理ハブ(a processing hub receiving directly or indirectly said card data from said transaction processor)
  4. カードがデビットカードとして機能する場合に第一のデータベースにアクセスし、医療カードとして機能する場合に第二のデータベースにアクセスする処理ハブ(said processing hub accessing a first database when the card functions as a debit card and said processing hub accessing a second database when the card functions as a medical card)

クレーム33は、クレーム32に依存し、固有の識別番号に医療識別番号が含まれることを追加要件としています。

2.2 地裁での判断

コネチカット州連邦地方裁判所は、AlexSam社の第二修正訴状(Second Amended Complaint)に対するAetna社の訴え却下の申立てを認容しました。地裁の判断は主に以下の2点に基づいています。

第一に、Mastercard製品に関する請求については、2005年のライセンス契約によりAetna社は明示的なライセンスを有しているとして、侵害の可能性を否定しました。地裁は、Mastercard製品に関連するすべての取引がライセンスの対象となると解釈したのです。

第二に、VISA製品に関する請求については、直接侵害の主張が不十分であると判断しました。具体的には、直接侵害行為を行っているのはAetna社自身ではなく、第三者である顧客であるとして、AlexSam社の主張を退けました。また、間接侵害の主張についても、具体的な顧客の特定がないことなどを理由に、訴状の記載が不十分であるとしました。

さらに地裁は、AlexSam社による訴状の再修正の申立ても認めませんでした。地裁は、裁判所が指摘した不備を修正するための新たな訴状の提出を認める可能性を示唆しましたが、結果的に、AlexSam社が提出した6つのバージョンの訴状はいずれも認められず、最終的に請求は却下されました。

このような地裁の判断に対して、AlexSam社は控訴を提起し、CAFCでの審理へと進むことになったのです。

3. CAFCによる新しい審査基準の確立

3.1 De Novo審査基準の採用

We have not explicitly set out the standard of review applicable to a trial court’s categorization of a complaint’s allegations…. We hold today that our review of trial court determinations on these matters is de novo.”(「我々はこれまで、訴状の主張内容を分類する地裁の判断に適用される審査基準を明示的に示してこなかった…。本日、我々は、これらの事項に関する地裁の判断についての審理はデノボ審査によって行うことを判示する。」)

CAFCは本判決において、訴状の記載内容が「十分な事実に基づく主張」か「結論的な主張」かの判断について、デノボ審査(de novo review)が採用されることを明確に示しました。このデノボ審査(de novo review)とは、控訴審において、第一審の判断に拘束されることなく、事実関係や法律判断を最初から改めて審理し直すことです。これは、CAFCが地裁の判断に拘束されることなく、独自の立場で判断を行うことを意味します。

このような基準の採用は、特許訴訟における訴状審査の実務に大きな影響を与えることが予想されます。特に、訴え却下の申立て(motion to dismiss)の段階で、どの主張を事実として受け入れるべきかの判断が、控訴審において改めて行われることになります。

3.2 De Novo審査基準採用の理由

CAFCは、デノボ審査基準の採用が適切である理由として、複数の重要な観点から検討を行いました。まず、司法行政の効率性の観点から、文書の審査と解釈は控訴裁判所が日常的に行っている作業であり、デノボ審査による判断が司法運営上効率的であると判断しました。また、訴状の審査は閉じられた記録(closed record)に基づいて行われるため、地裁でのみ得られる特別な情報や知見に依存する必要がないという記録の完結性も重要な理由となっています。

さらに、訴状の記載内容の評価は、証人の信頼性評価や裁量的判断を必要としない純粋な法的判断であることから、裁量判断の必要性が低いことも考慮されました。加えて、デノボ審査の採用により、控訴審の司法資源が不適切に使用されるリスクが小さいと判断されたことも、採用の重要な理由となっています。

3.3 従来の審査基準との違い

従来の実務では、訴状の記載内容の評価について、控訴審がどの程度の敬意を地裁の判断に払うべきかが明確ではありませんでした。実際には、控訴審は暗黙のうちにデノボ審査を行っていた場合が多かったものの、その基準は明示的には示されていませんでした。

今回の判決により、特許訴訟実務に重要な変更がもたらされることになります。まず、控訴審が独自の立場で訴状の記載内容を評価し、地裁判断への敬意を払う必要性を否定するとともに、明確な審査基準を提示するという統一的な判断基準が確立されました。これにより、当事者は控訴審での判断をより正確に予測することが可能となり、訴状作成時の指針としても機能することが期待されます。

実務面では、より詳細な事実の記載が必要となり、「結論的な主張」を避けるための慎重な訴状作成が求められることになります。また、訴え却下の申立てに対する新たな対応戦略の必要性も生じることでしょう。

このように、CAFCによる新しい審査基準の採用は、特許訴訟における訴状の記載方法と、その評価方法に関する実務を大きく変える可能性を持っています。特に、訴訟の初期段階における戦略立案に重要な影響を与えることが予想されます。

4. 特許訴訟における訴状の記載要件

4.1 直接侵害の主張における要件

まずCAFCは、Bot M8 LLC v. Sony Corporation of America事件の判決を引用し、特許侵害の訴状における要件について言及しています。

まず、特許権者は訴訟の申立て段階で侵害の証明を完了する必要はありません。訴状の記載要件としては、クレーム要素と被疑侵害製品の対応関係を逐一示す必要はなく、被告に対して、どの活動が侵害として申し立てられているかを通知できれば十分です。また、必要な具体性のレベルは、技術の複雑さ、クレーム実施における各要素の重要性、被疑侵害製品の性質といった要因により変動するという柔軟な基準が示されています。

本件において、AlexSam社は訴状に写真やクレームチャートを添付し、さらに専門家の宣誓供述書を含めることで、Aetna社のVISA製品が特許を侵害している可能性を十分に示したとCAFCは判断しました。

4.2 間接侵害の主張における要件

間接侵害の主張について、CAFCは誘引侵害 (Inducement of infringement)と寄与侵害 (Contributory infringement)の両面から判断基準を示しました。誘引侵害に関しては、特定の顧客を具体的に特定する必要はなく、プロモーション資料や通知文書により、少なくとも1人の直接侵害者の存在が推定できれば十分であるとされました。ただし、特許の認識と侵害の意図を示す事実の記載は必要とされています。

寄与侵害については、特許の認識と侵害の認識が必要であるとともに、問題となる部品が「実質的な非侵害用途」(substantial noninfringing use)を持たないことの主張が求められます。さらに、侵害品が発明の「重要な部分」(material part)を構成することの説明も必要とされています。

4.3 十分な事実に基づく主張(Well-pled)と結論的な主張(Conclusory)の区別

CAFCは、訴状における主張の性質を評価する際の重要な指針を示しました。十分な事実に基づく主張として認められるためには、具体的な事実関係の提示、関連技術の文脈における詳細な説明、そしてクレームチャートや専門家の意見等による裏付けが必要とされます。

一方、単なる法的結論の記述や、具体的な事実による裏付けのない主張、さらにクレーム要素との対応関係が不明確な一般的な記述は、結論的な主張として扱われることになります。

本件では、十分な事実に基づく主張の例として、AlexSam社の訴状における処理ハブに関する記載が挙げられます。具体的には、処理ハブが「銀行ネットワークを通じてカードデータを受信し、デビットカード機能と医療カード機能の両方に対応して異なるデータベースにアクセスする」という具体的な動作の説明が、技術的な文脈の中で明確に示されていました。また、これらの説明は単なる機能の列挙にとどまらず、クレームチャートによって特許クレームの各要素との対応関係が明示され、さらに専門家の宣誓供述書によって技術的な裏付けが提供されていました。

一方、CAFCは結論的な主張の例として、「被告は特許を侵害している」といった単なる法的結論や、「被告の製品は特許の全ての要素を含んでいる」といった一般的な記述を挙げています。

5. ライセンス解釈に関する指針

5.1 ライセンス範囲の解釈アプローチ

本判決において、CAFCはライセンス契約の解釈に関する重要な指針を示しました。特に、2005年のAlexSam社とMastercardの間で締結されたライセンス契約の範囲について、地裁の解釈が広すぎると判断しています。

CAFCは、ライセンス取引の定義について厳格な解釈を採用しました。具体的には、「ライセンス取引」はアカウントの「アクティベーション」または「価値の追加」に関連する取引に限定されるとし、契約中に「バリューチェーン全体」への言及があったとしても、その前提としてアクティベーションまたは価値追加の要素が必要であるとしました。

また、クレーム範囲とライセンス範囲の関係について、本件のクレーム32および33は、アクティベーションや価値追加に限定されない広い範囲をカバーしているため、クレームの対象となる行為の全てがライセンスの対象となるわけではないとの判断を示しました。

CAFCは、特にIDT事件(Alexsam, Inc. v. IDT Corp.事件)との区別を明確にしています。IDT事件では、問題となった特許クレームそのものが「アクティベーション取引」に限定されていたため、ライセンス契約が完全な抗弁となりました。しかし、本件ではクレームの範囲がより広いため、同様の結論は適用できないとされました。

5.2 早期の訴え却下におけるライセンス解釈の取り扱い

CAFCは、訴訟の早期段階におけるライセンス解釈について慎重な姿勢を示しました。訴え却下の段階では、ライセンスの範囲を確定的に判断することは適切でなく、訴状の添付文書や申立て段階の書面のみでは、十分な判断材料とならない可能性があることを指摘しています。

また、ライセンス契約の終了時期、2007年の契約修正の影響、特許存続期間満了との関係といった未解決の問題についても、十分な検討が必要であるとしました。実務上の指針として、ライセンス抗弁に基づく早期の訴え却下は慎重に判断されるべきであり、ライセンスの範囲に関する事実関係の解明が必要な場合は、ディスカバリーを経て判断すべきとされています。

このような判断は、特許訴訟における抗弁としてのライセンスの取り扱いに大きな影響を与えることが予想されます。特に、複雑なライセンス条項の解釈や、ライセンスの範囲が問題となる事案では、早期の段階での訴え却下は難しくなる可能性があります。

6. 実務への影響

6.1 特許権者への影響

本判決は、特許権者の実務に重要な影響をもたらすことが予想されます。まず、訴状作成において、「結論的な主張」を避け、より具体的な事実の記載が必要となります。また、クレームチャートや専門家の意見書等による裏付けの重要性が増すとともに、写真等の視覚的な証拠の活用がより有効になると考えられます。

間接侵害の立証においては、特定の顧客を具体的に特定する必要がないことが明確化され、プロモーション資料等の状況証拠で十分な場合があることが認識されました。さらに、ライセンス関連の戦略として、ライセンス契約の範囲を超える侵害行為の特定と主張が重要となり、契約条項の解釈に関する詳細な主張の必要性が高まることが予想されます。

6.2 被告側への影響

被告側の実務にも大きな変化がもたらされることが予想されます。訴え却下の申立ての戦略において、「結論的な主張」の特定がより困難になり、デノボ審査を前提とした控訴戦略の必要性が生じるとともに、ライセンス抗弁の主張時期の検討が重要となります。

防御戦略においても、早期段階での完全な却下が困難になる可能性が高まることから、より実質的な防御準備の必要性が増加し、ディスカバリーでの証拠収集の重要性が一層高まることが予想されます。

6.3 裁判所の審理への影響

裁判所の審理実務にも大きな変化が予想されます。地裁での審理においては、訴え却下の判断基準がより明確になり、ライセンス解釈に関してより慎重な判断が必要となるとともに、事実審理の機会をより確保する傾向が強まるでしょう。

控訴審では、デノボ審査による独自の判断の実施が求められ、より詳細な訴状の記載内容の検討やライセンス範囲の解釈に関する詳細な分析が必要となります。また、訴訟の進行においては、早期段階での却下が減少し、より多くの事件が実質的な審理に進む傾向が強まると考えられ、これに伴い和解交渉のあり方にも影響が及ぶことが予想されます。

このように、本判決は特許訴訟の実務全般に広範な影響を与えることが予想されます。特に、訴訟の初期段階における戦略立案においては、より慎重な検討が必要となるでしょう。また、控訴審での判断可能性を常に考慮に入れた訴訟戦略の立案が重要となります。

7. 結論

本件判決は、特許訴訟における訴状の記載要件に関して、いくつかの重要な指針を示しました。特に、訴状における「十分な事実に基づく主張」と「結論的な主張」の区別について、控訴審がデノボ審査を行うという新たな基準を確立したことは、今後の実務に大きな影響を与えることになるでしょう。また、ライセンス契約の解釈についても、その範囲を厳格に解釈する必要性や、早期の訴え却下における慎重な判断の重要性が示されました。これらの判断基準の明確化により、特許権者側には より具体的な事実の記載と証拠による裏付けが求められる一方、被告側にはより実質的な防御準備が必要となり、結果として訴訟全体がより実質的な審理に向かう傾向が強まることが予想されます。本判決は、特許訴訟における訴状審査の実務を大きく変革する転換点となる可能性を秘めています。

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