PTABの統計データはアメリカ特許の状況を理解する上でとても重要な情報です。2020年度の総数には特に変動はありませんでしたが、Insititution率の低下が今後IPRにどのような影響を与えるかが注目です。アメリカの特許訴訟においてIPRは重要なツールの1つで、このInstitution率の変化は、IPRの申し立て数を左右する大きな要因の1つです。
2020年度のPTABへの申し立て総数は横ばいの1513件でした。内訳は、IPR(1429件)、PGR(64件)、CBM(20件)です。2019年度の1464件、2018年度の1613件に比べ、2017年度の1901件から減少しました。9月のIPR申請件数は133件で年間4番目に多かったです(8月155件、7月152件、3月150件)。
2020年度(2019年10月1日~2020年9月30日)のポストグラントチャレンジのInstitution率は、前年度の63%に対し、56%(Instituted 648件、否認508件)でした。このように前年に比べて低いInstitution率と、それが申し立て提出に与える影響は、引き続き注視していくべき項目です。9月にInsititutionされた案件は67件で、否認された案件は41件でした(Institution率 62.0%)でした。
申立書の61%が電気・コンピュータ技術(Institution率58%)、7%が化学特許(Institution率59%)、5%がバイオ・医薬特許(Institution率48%)でした。
過去10ヶ月間(PTABが最終決定書に関する毎月の統計を提供し始めてから)、434件の最終決定書によると、247件(57%)の全てのクレームが特許性なしと判断され、94件(22%)の一部のクレームが特許性なしと判断され、93件(21%)のすべてのクレームに特許性ありと判断されました。
2020年度までのPTABの統計、月ごとの統計データも特許庁は公開しているので、興味がある方は参考にしてみてください。
解説
米国特許庁の年度は9月末に終わり10月から始まるという少し特殊な年度設定になっています。なので、いつも10月から前年度のデータが出てくるのですが、今回はPTABにおける2020年度のデータを振り返ってみたいと思います。
総数はほぼ横ばいで、そのうちIPRがほとんどです。IPRは2017年頃に一度ピークを迎えてその後は徐々に減少傾向です。今回もそのトレンドは変わらず、現状ではIPRの数を劇的に変動させる要因はないので、この傾向は来年度も続くことが見込まれます。そして、PTAB手続きにはPGRやCBMもありますが、件数が少なすぎるので、PTAB手続き=IPRとして考えてもらえればいいと思います。
注目したいのがInstitution率。これはIPR(やその他のPTAB手続き)の申請があった案件を、実際にPTABで審議するか否かを決めるInstitutionという手続きを通過できるかいう統計データから割り出された確率です。今までは60%代でしたが、去年度は50%になってしまいました。Institution率はIPR申し立て件数に関連している部分もあるので、今後のInstitution率は注目していきたいところです。
IPRの技術面での内訳は、電気系が大半を締めています。IPRは特許訴訟のカウンターとして行われることが多いので、NPEに狙われやすい電気系の技術に関する特許がIPRで争われることが多いのは納得です。医薬系のIPRが少ないのは医薬業界が特殊な業界でIPRを必要とする状況が起きづらい環境に起因するのだと考察しています。
最後に、最終決定書におけるクレームの生存率ですが、これはInsititution率を考慮して考察するべきです。Insititutionの壁を突破できれば、挑戦者の方が有利になり、そうでなければ、特許権者の方が有利になるという構図はいままでと変わりはありません。
TLCにおける議論
この話題は会員制コミュニティのTLCでまず最初に取り上げました。TLC内では現地プロフェッショナルのコメントなども見れてより多面的に内容が理解できます。また、TLCではOLCよりも多くの情報を取り上げています。
TLCはアメリカの知財最新情報やトレンドはもちろん、現地で日々実務に携わる弁護士やパテントエージェントの生の声が聞け、気軽にコミュニケーションが取れる今までにない新しい会員制コミュニティです。
現在第二期メンバー募集中です。詳細は以下の特設サイトに書かれているので、よかったら一度見てみて下さい。
まとめ作成者:野口剛史
元記事著者:Matthew W. Johnson. Jones Day(元記事を見る)