今回は、前回のニュースレターと前々回のブログと似た情報発信ツールの1つであるウェビナーの知財プロフェッショナルとしての活用方法に注目します。ウェビナーはブログやニュースレターと同様、専門的な情報を発信するのに適しているので、弁理士のような専門性が必要な業種と相性がいいメディア媒体です。しかし、ブログやニュースレターなどと異なりリアルタイムで参加者と対話ができます。
OLCでも以前は定期的にウェビナーをおこなっていました。今回は、OLCでの経験も含め、ウェビナーの利点だけでなく、OLCのウェビナーにおける問題点も考慮してウェビナー活用方法を紹介していきます。
ウェビナーの特徴:
Who(誰がやる?): 事務所を経営している弁理士さん、そこで働いている弁理士さん、ある程度まとまった情報を配信したい知財関係者だれでも。
What(何をする?): 自分の業務に特化した専門情報をセミナー形式にして共有していきます。
Where(どこで?): ウェビナーです。ウェビナーについての説明は後ほど。
When(いつはじめるか?): ウェビナーは事前に参加者が申し込むシステムなので、申込期間を2週間ほどもうけた方がいいでしょう。
How(どうやって?): ウェビナー専用ツールを使うのがいいと思います。多少費用はかかりますが、実際に会議室を確保してセミナーをおこなうよりも安い費用で運用が可能です。
Why(そもそもなんでやるの?): 自分のブランドを高めるためです。例えば、「知財の分野で100人以上の登録者を集める人気オンラインセミナー講師」という肩書きができたらどうですか?
ウェビナーとは?
詳しい話をする前に、ウェビナーとは何か説明します。ウェビナーとは、簡単に言うとオンラインでおこなうセミナーのことです。セミナー講師は自宅や事務所などからパソコンの画面と自分の音声をネット経由で参加者に共有しながらプレゼンを進めます。参加者は事前に連絡があった専用リンクを定時に開いて、自分のパソコンやスマホ経由で講義を受講します。
ウェビナーはYoutube liveやGoogle hangoutなどの無料機能でもできなくはないですが、少しお金を払って専用ツールを使った方が大きな時間の節約にもなるので、専用ツールを導入することをおすすめします。OLCの場合、GoToWebinarというアメリカの会社と年間契約していましたが、日本でも似たようなウェビナーツール提供会社があるみたいなので、検討してみてください。
いろんなプランがあると思いますが、個人的には、参加人数定員が100名まで、時間制限なしまたは1回あたり2時間程度、一ヶ月定額(いくら使っても追加料金発生なし)、年間契約割引(だけど、解約したら日割りで返金あり)、一時的に参加定員を上げることができる、ウェビナー登録サイト(Landing page)が無料で作れる、受講者用のスマホ用のアプリを提供している、ウェビナー動画をダウンロードできる、年間12万円以下だといいと思います。ちなみにOLCで使っていたGoToWebinarはこの条件をすべてクリアーしていて、月額平均で大体$80ぐいらいでした。
ウェビナーの目標
ウェビナーをやる理由は「肩書き」を作ることです。たとえば、ウェビナーの登録者が100名いれば、「知財の分野で登録者100人越えの人気オンラインセミナー講師」という肩書きが成立すると思います。見た感じすごい人気講師に見えますね。ネットで調べると、知財の分野で無料セミナーをやっても定員が25名とか多くても50名というところが多いようです。そんな市場で100人超える人を集められるという集客力というか、「人気」をアピールできます。
しかし、実はここには1つオンラインとオフラインのギャップが隠されています。実は、ウェビナーの参加者は実際の登録者の約三分の一程度です。つまり、実際に登録しても、当日定時に参加する人は全体の33%程度、100人登録していても実際には33人程度が参加する計算になります。
これにはちゃんとした理由があります。これは皆さんもよくすることだと思いますが、オンライン上のイベントの登録はハードルが低いからです。ものにもよりますが、Facebookイベントページのようなものはワンクリックで登録が完了します。また、ウェビナー登録の場合も、氏名とメールアドレスだけ(本名を使う必要もなければ、会社のメールアドレスを使用する必要もない)で登録が完了するものもあるので、気軽に「とりあえず」登録できます。また、OLCのように当日参加できなくても後日サイト内で動画配信をすると告知しておけば、より登録へのハードルが低くなります。
それに比べて現地でやるリアルなセミナーは、場所や定員などもあり、参加できるかわからない場合、無料でも「とりあえず登録」とはなかなかなりませんね。それに申し込みが「Faxのみ」といういつの時代のものなのかよくわからないところもあり、申し込みへのハードルをむだに高くしているところもあります。実際にリアルなセミナーを日本で運営したことはありませんが、無料でも基本登録したら大体の人は来てくれると思うので、セミナーの参加率はウェビナーのものよりもかなり高いと思われます。
このように比較的簡単に登録してもらえるのがウェビナーの特徴なので、面白そうなトピックを選んで、宣伝するチャンネルを確保しておけば、比較的簡単に登録者100人を超えることができます。例えば、OLCでは淡路町知財研究会に協力してもらって、研究会のメンバーへの告知、FacebookなどのSNSでの告知に加え、IP forceやパテントサロン等でも専用ページに告知してもらっていたので、マーケティングにお金をかけることなくある程度のまとまった人が興味を示し、ウェビナーに登録してくれました。

ここでのポイントは、ウェビナーは現地でやるリアルなセミナーと比較にならないくらい簡単に登録者を集められるということです。つまり、この特徴をうまく使えば、比較的短時間で自分に「人気オンラインセミナー講師」という肩書きを与えることができます。
他に肩書きとしてよく使われるのは本の出版ですが、出版社はそもそも売れる本しか作りたくないので、知財分野でかなり有名な人でないと本の出版はありえないと思います。また、出版が決まっても膨大な量の文章を書き、校章し、製本し、出版に至るまでには長い月日と苦労があります。
それに比べれば、定期的に月一ぐらいのペースで100人ぐらいの人が興味のありそうな話題をウェビナーで提要することは苦ではないと思います。IP forceやパテントサロンで告知されているセミナーを見てみると、「事業戦略に即した知財業務」 や「英文秘密保持契約(NDA)の実務」、タイムスタンプ活用方法、戦略的なアイデア創出ノウハウ などがあるので、似たような話題を数ヶ月後に行えばある程度の数字が見込めると思います。
長くなりましたが、ウェビナーの目標は肩書きです。ウェビナーを通じて人気オンラインセミナー知財講師の肩書きを手に入れて、既存の業務を拡大するのがウェビナーの目的です。
ウェビナーの利点
現地でやるリアルセミナーよりもウェビナーをやる利点については、上のウェビナーの目標で話したので、ここではそれ以外の利点について話します。
ウェビナーには、以下の特徴があります:
- まとまった時間(1時間から90分程度)参加者の注目を得られる
- あるていど体系的なことがらを説明する時間がある
- 参加者からの質問にリアルタイムで回答できる
- 参加者のメールアドレスが得られる
- 参加者の興味がレポートでわかる
このような特徴は、リアルセミナーにおける利点とも重複します。このようなウェビナーの利点を活かせる最大の業務は、知財コンサルティングです。これは、実際にリアルセミナーのテーマなっている話題を見ても明らかだと思います。「事業戦略に即した知財業務」 や「英文秘密保持契約(NDA)の実務」、タイムスタンプ活用方法、戦略的なアイデア創出ノウハウ など、基本的な考え方や決まった形はあるものの、実際に学んだことがらを自社で適用するにはセミナーにおける内容だけでは抽象的すぎるので、外部のエキスパートと一緒になって社内での運用をしなければいけないものばかりです。つまり、無料セミナーの講師は、「無料で学べる」ことをアピールして集客し、セミナーの時間を使って問題定義し参加者の危機意識を煽ることによって、今後のコンサルティング契約等につなげていくことを狙っています。
ウェビナーでも同じことで、ウェビナーを実際に行う1時間から90分ほどの時間を使って、自分がコンサルティングできる分野を体系的に説明しつつ、よくある問題点を提示することによって、話されている話題における参加者の問題意識を高めます。
テーマになっているものが新しいコンセプトの場合、どのような事柄が問題になりそうかを重点的に説明します。例えば、海外への展開を考えている中小企業を対象にしているウェビナーの場合、英語の秘密保持契約の大切さを時間をかけて説明し、そのような契約がなかったために起こってしまった問題点などを指摘するといいでしょう。逆に、「事業戦略に即した知財業務」など常に課題として上がっているテーマに対しては、自分が実際に手がけた成功例を紹介できる範囲の内容で共有するといいと思います。
このようなテーマ設定は、セミナーと同じですが、ウェビナーにはセミナーにない利点があります。例えば、参加者から質問がある場合、システムの質問ボックスから行われるので、誰がどのタイミングでどのような質問をしたのかデータが残ります。リアルセミナーだと質問したのが誰か覚えておくには、メモしたり意識しないといけませんが、ウェビナーだとそれが自動で行われます。
また、ウェビナーの登録時に登録者のEmailも得られ、ウェビナー終了後には、使用しているツールによっては、誰が参加し、どれくらいの時間ウェビナーを見くれたか、質問をしてくれたかなどのデータもレポートとして見れるので、参加者の中からテーマに興味のある人を厳選でき、その後に、データを元にカスタマイズしたフォローアップメールを送ることもできます。
このようにウェビナーを最大限活用できれば、自分が提供する知財コンサルティングの分野に関心のある見込み客が比較的簡単に特定でき、直接コミュニケーションを取ることができます。
課題
ウェビナーにおける最大の課題は、ウェビナーのテーマだと思います。
OLCで提供していたものは、最高裁判例の解説だったり、USPTO出願手続きであったり、訴訟の流れだったり、どちらかというとウェビナーで完結してしまうテーマが多すぎて、講師の次につながりそうなネタが提供できなかったことが反省点としてあります。例えば、OLCのウェビナーでITC手続きの流れを知ったところで、ITCで訴えられなければ、弁護人を雇う必要もありません。
OLCでは、講師は外部の弁護士に依頼していて、その弁護士は通常の知財系の業務をやっている人がほとんどでコンサルティング系ではなかったので、カンファレンスで見るような内容のものになってしまい、参加者に「次のステップ」を取ってもらうような流れに持ってこれなかったということがあります。
そもそもOLCの場合、講師が英語ではなし、私がリアルタイムで和訳していたので、時間の割には内容が薄いというのも課題ではありました。
次にOLCでウェビナーをする場合、コンサルティング系の業務をやっている人と組んでコンテンツの方向性を改めた上で、再出発したいと考えています。
コストやリソースについて
ウェビナーには専用ツールを使ってください。導入には多少費用は必要ですが、最低でも参加人数定員が100名まで、時間制限なしまたは1回あたり2時間程度、一ヶ月定額、ウェビナー登録サイト(Landing page)が無料で作れる、ウェビナー動画をダウンロードできるところで、年間12万円以下だといいと思います。
ウェビナーもコンテンツを提供するビジネスモデルなので、ウェビナーで話す内容をプレゼン形式にまとめておく必要があります。これは、知財コンサルティング系の業務をやっているのであれば、ある程度のものがすでにあると思うので、それをウェビナー用に再加工して、ウェビナーをやりながらじょじょに直していくのがベストだと思います。
ビジネスの展開方法やpivoting (事業変更)の可能性
最後にウェビナーの後どうするかについて話します。基本的にウェビナーは参加者に「次のアクション」を迫るものなので、ウェビナーの後に、フォローアップメールを出して相手の反応を伺いましょう。もし何らかの反応があれば、実際に会うアポイントメントを取って提供サービスを説明し、コンサルティング契約を結ぶというのが理想的な流れです。
また、今がそのタイミングでなくても、将来必要になったときに、自分の存在を覚えてもらえるように(許可を取って)ニュースレターを定期的に送るとか、そのような別チャンネルでのコンタクトを継続して行うといいと思います。
ウェビナーをやってもうまく継続していけない場合、ウェビナーでの肩書き(例えば、毎回ウェビナーで一定数の登録者を得ていたなど)を使って、別のメディアで情報発信していきましょう。例えば、動画系だったらYoutubeとか、文字系だったらブログやTwitterがいいですね。また、雇われ講師として現地でやるリアルセミナーをやってもいいと思います。しかし、ウェビナーをやめてしまったら肩書きを使える時間は限られているので、その限られた時間の間にスイッチする必要があります。
まとめ
来るかわからない人のためにお金を払って会議室を予約し、プレゼンの内容を考えて、当日印刷物も用意して現地でプレゼンをやらないといけないセミナーに比べて、気軽に低コストで始められるウェビナーは魅力的です。
特に、知財コンサルティングをやるならウェビナーほどいい広告メディアはありません。ウェビナーはセミナーに比べて登録数を数倍、数十倍稼げるので、「登録者○○○人の人気知財講師」という肩書きが簡単に得られ、その肩書きを使って仕事を取りに行くこともできます。
内容は、参加者に問題意識を植え付けるもので、すぐに「次のアクション」を取らせるようなものが最も効果的です。また、ウェビナーのデータを元に、参加者の中から最も関心を示した人がわかるので、その人へのピンポイントマーケティングが展開できます。
ウェビナーは比較的短時間の間に自然な流れで仕事を得ることができる仕組みになっているので、一度ウェビナーを試してみてください。