並行して提出されているIPRの申立ての大多数は容易に排除できる

IPRをする上で問題になってくるのが申立書の文字制限です。その問題を回避するために、並行して複数の申立書(parallel petitions)を提出することもありますが、その行為の一部が問題視されています。今回は、この問題に関する現状を深堀りし、解決策として提案されている方法について解説していきます。

USPTOは連続または並行して行われるPTABへの申し立ての取り扱いを含む314(a)の下での裁量的な実務と、PTABがアプローチを改善するために何をすべきかについての意見をRequest for Comments (RFC)を通して募集していました。

並行して行われる申請(parallel petitions)に関しては、PTABは簡単な手続きの調整で80~90%以上の申請を簡単に排除することができるだろうと思われます。

まず明確にしておきたいのは、いわゆる「並行申請」(parallel petitions)には3つの種類があるということです。1つ目は私が「パイル・オン・ペティション」と呼んでいるものがあり、複数のペティションにまたがって全く同じ主張を繰り返し攻撃するものです。次に、クレーム数やペティションの語数の関係で、複数のペティションに分割しなければならないものです。そして最後に、私が考える真のパラレル・ペティションとは、(優先権争いのように)同じ請求項のセットに対して代替的な主張を提示するものです。

最初のカテゴリーは明らかな乱用であり、そもそも「並行申請」(parallel petitions)を対象とした規則がある理由がこのような乱用を防ぐためです。一つの主張を攻撃するために8~9件の申立書を提出することは全くの無意味です。審査会は、このような複数の出願を審査するためにランキングシステムを導入していて、1位にランクされた申立書以外に目を向けることはほとんどありません。この解決策はうまく機能しているように見えます。しかし、このランキングシステムを他の2つのカテゴリーに適用するのはあまり意味がありません。

私が真の並列出願と呼んでいるもの(3番目)については、必要に応じて代替的な議論が認められるべきです。この文脈では、ある申立書を他の申立書と比較して順位付けすることは、実質的には何の役にも立ちません。現在、PTABの裁判実務ガイドでは、特許の優先権に異議を唱える場合など、このような代替出願は「まれ」であるべきであるという立場をとっています。私の経験では、一般的ではありませんが、「まれ」というのは少し言い過ぎです。私の考えでは、どちらかと言えば、審査会は現在よりももっと自由にこのような申し立てに対応し、ランク付けの要件を取り下げるべきだと考えています。

残りのカテゴリー(2番目)のもの、つまり「並列申請、すなわち、申立書のページ数などの制限により特許の異なる請求項に対して提出される申立書」がこの「並行申請」(parallel petitions)の大部分を占めています。これらを「並列申請」の枠から取り除けば、公共性が向上し、PTABはまだ並列申請を認めていると主張する批評家の意見を阻止することができるでしょう。順位付けの要件については、当然ながら、申立人は審査会に特許のすべての請求項について出願することを望んでいるので、ここでは意味がありません。

文字制限のため仕方なく複数の申立書を提出している場合において、そのような行為を終わらせる簡単な方法は、申立人がそのような出願を出願手数料を掛けて1つの出願にまとめることを認めることです。例えば、1つの特許に対して3つの申立をするのではなく(例えば、申立書1で請求項1-20、申立書2で請求項21-40、申立書3で請求項41-60)、3倍の申立料を請求して、1つの出願にまとめるというものです。おそらく審査会の懸念は、1つの巨大な出願で同じ請求項を繰り返し攻撃するために追加料金を支払うことで、申立人がこのプロセスを悪用することではないかと思われますが、このような悪用の可能性は、個別の出願に比べて取り締まるのは難しくありません。さらに重要なことは、連結出願を認めることで、いわゆる「並列申請」の数が劇的に減少するということです。

解説

PTAB手続きで最も頻繁に活用されているIPRの申立書(Petition)には、14,000 wordsという制限がかけられています。その他のPGRやCBM手続きやMotionsについてもページや文字数の制限があります。

そのため例えばクレームが60個もあるような特許の無効化をするためにIPRをやろうとすると、文字制限から1つの申立書ではすべてのクレームに対する主張が十分行えない場合があります。十分な無効理由を示した主張が申立書で行えないと、IPRが開始されない(institutionされない)可能性があり、institutionに関するPTABの決定はCAFCに上訴できないので、申立書で十分な無効理由を主張することは申立人にとってとても重要なことです。

そのため、各クレームに対して十分な主張を行うために今回指摘されているようなクレーム別に複数の申立書を提出する並列申請(parallel petitions)という手法が取られうことがあります。

しかし、PTABは並列申請(parallel petitions)を嫌う傾向にあるので、上記のような場合であっても、複数提出された申立書を十分考慮しないような問題もあります。

そこで、今回の提案はクレームごとに主張を別々に行っている複数の申立書を1つの申立書として扱うことを提案しています。PTABの作業量は増えますが、その分費用を得られるようにすれば、作業量の問題は簡単に解決しそうです。

このアイデアがPTABの手続きで採用されるかはわかりませんが、少なくともUSPTOはRFCを通してコメントを求めていたので、近々何らかの手続きの改正があるかもしれません。

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まとめ作成者:野口剛史

元記事著者:Scott A. McKeown. Ropes & Gray LLP(元記事を見る

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