被告侵害者が当事者間審査(IPR)手続でクレームの無効化に成功した特許侵害訴訟において、弁護士費用が認められるかどうかについて、米国連邦巡回控訴裁判所は、被告侵害者は35 U.S.C. セクション285の目的上「勝訴当事者」(the prevailing party)とみなされるが、IPR手続で発生した費用が認められるかどうかについての再審理を地裁に命じました。
事実背景
ドラゴンは、DISH、シリウスなどを特許侵害で訴えます。それに対抗する形で、DISHは、特許の有効性を審議するためIPR請願書を提出しました。連邦地裁は、IPRを行ったDISHとシリウスについては訴訟手続きを一時停止しましたが、他の被告についてはクレーム解釈(claim construction)を進めました。クレーム解釈の後、連邦地裁はすべての被告について非侵害の判決を下し、その後、IPRを行っていたPatent Trial and Appeals Board (PTAB) は、最終的な書面による判決(final written decision)を下し、主張されていたすべてのクレームを取り消すことを決定しました。この判決を受け、DISHとシリウスは、第285条に基づく弁護士費用を求めてました。
弁護士費用の問題が解決される前に、ドラゴンは連邦地裁の非侵害の判決とPTABの最終決定書を不服として連邦巡回控訴裁に上訴しました。しかし、連邦巡回控訴裁はPTABの判決を支持し、(PTABの判決により連邦地裁の判決が無意味になったので)連邦地裁の判決を無効として棄却しました。差し戻し(remand)で、連邦地裁は、(連邦巡回控訴裁の判決通り)権利不侵害の判決を無効としましたが、弁護士費用の申し立てを解決するための管轄権(jurisdiction)を保持しました。しかし、弁護士費用の肩代わりについて、連邦地裁は、DISHとシリウスは連邦地裁における訴訟について救済が認められなかった(連邦巡回控訴裁が連邦地裁の判決を無効にした)ため、どちらも第285条の目的上「勝訴当事者」(the prevailing party)とはみなされないと判断し、これらの申し立てを却下しました。これを不服にDISHとシリウスは控訴しました。
弁護士費用に関する連邦巡回控訴裁の見解
連邦巡回控訴裁は、連邦地裁の最近の判例であるB.E. Technology v. Facebookの下では、「被告は、訴訟がメリットではなく手続き上の理由で却下された場合でも、勝訴当事者(the prevailing party)とみなされる可能性がある」と説明し、連邦地裁の判断に誤りがあるという見解を示しました。連邦巡回控訴裁は、B.E.TechnologyはFed.R. Civ. R. Civ. P. 54(d)(1)の下での勝訴当事者の解釈に関わるものであるが、(今回の弁護士費用に関する法律)§285 の下での異なる解釈を正当化するような意味のある区別は存在しないとしました。したがって、DISH とシリウスが権利行使されたクレームを無効にすることに成功すれば、彼らは勝訴当事者(the prevailing party)となるとしました。
DISH とシリウスは、第 285 条に基づき授与される費用には、PTAB 手続などの関連手続で発生した費用も含まれる可能性があり、そのような費用は、当事者と連帯して責任を負う弁護士に対しても授与される可能性があると主張しました。連邦巡回控訴裁は、この問題を取り扱うことはありませんでしたが、DISH とシリウスが自発的に行ったIPRで発生した費用については、第 285 条に基づく費用とする根拠はないと指摘しました。連邦巡回控訴裁判所は、例外的なケースが存在するかどうか、また存在する場合には、どのような費用が費用シフト(fee-shifting)の目的で適切であるかという問題について検討するため、連邦地裁に差し戻ししました。
解説
今回の案件は、勝った当事者の弁護士費用を負けた当事者に支払ってもらういわゆる費用シフト(fee-shifting)の問題に関する判例です。
アメリカの訴訟の場合、訴訟費用は裁判で勝っても負けても自己負担が原則です。(逆にイギリスでは,訴訟で敗訴すると,敗訴者が勝訴者に対して,勝訴者の訴訟費用(弁護士費用を含む)の多くの部分を支払わなければいけません。)
しかし、35 U.S.C. セクション285において例外が認められています。
The court in exceptional cases may award reasonable attorney fees to the prevailing party.
35 U.S. Code § 285. Attorney fees
ここで書かれているように、例外(exceptional case)として認められるには、まず主張者が「勝訴当事者」(the prevailing party)である必要があります。
今回の判例では、弁護士費用を求めたDISHとシリウスは、IPR手続でクレームの無効化に成功したので、直接関連している特許訴訟において、35 U.S.C. セクション285の目的上の「勝訴当事者」(the prevailing party)であるとみなされました。
しかし、実際にIPR手続で発生した費用が認められるかどうかについては、DISH とシリウスが自発的に行ったので弁護士費用に含める根拠はないという意向は示したものの明確な判断は避け、地裁による再審理を命じました。
正直、今回の判決はDISH とシリウスにとって有利な判決となりましたが、IPRの費用が35 U.S.C. セクション285における弁護士費用に含めるかで、金額が大きく変わってくる可能性がります。というのも、連邦地裁は、IPRを行ったDISHとシリウスについては訴訟手続きを一時停止していたので、DISHとシリウスに関しては連邦地裁レベルでの弁護士費用はそれほど大きくないと思われます。逆に、IPRが完了しているので、そこに費やした費用の方が遙かに高額である可能性があります。
つまり、再審議において地裁がIPRの費用を35 U.S.C. セクション285における弁護士費用に含めなかった場合、DISHとシリウスの主張は認められたものの、実際に使った弁護士費用の大部分の回収が困難になります。
今回のように、弱い特許で無理やり権利行使をするという裁判所のリソースを無駄に使うやり方を抑制するためにも、35 U.S.C. セクション285における弁護士費用の肩代わりは大切な法律です。しかし、特許訴訟の対応の鉄板となりつつあるIPRにおける手続きが35 U.S.C. セクション285における弁護士費用に含まれないとなると、無謀な特許訴訟を抑制する働きが弱まるので地裁がどう判断するかが見物です。バランスの取り方が難しいので、もしかしたら再度連邦巡回控訴裁に控訴されるかもしれません。
まとめ作成者:野口剛史
元記事著者:Jodi Benassi. McDermott Will & Emery (元記事を見る)