故意侵害が成立すると3倍賠償や相手の弁護士費用を負担を迫られるリスクがあります。このようにリスクが高い故意侵害ですが、この「故意侵害」の定義はここ数年間変わり続けていてどのような行為が故意侵害になるのかが不透明になっています。
大きな判例だけ見ても、2007年のIn re Seagate Techにおいて、CAFCが以下の2つのステップによるテストを明記しました。
“a patentee must show by clear and convincing evidence that the infringer acted despite an objectively high likelihood that its actions constituted infringement of a valid patent.”
“[i]f this threshold objective standard is satisfied, the patentee must also demonstrate that this objectively defined risk (determined by the record developed in the infringement proceeding) was either known or so obvious that it should have been known to the accused infringer.”
しかし、その9年後、最高裁はHalo Electronicsにおいて、CAFCが提示したテストは必要以上に厳格で、法律で定められている地裁における裁量権を妨げるものであるとし、Seagateテストを否定。
このHalo判決の影響は大きく、故意侵害の判断は事実ベースで陪審員が判断すべきとした地方裁判所が多かったですが、最高裁がHaloで示したことが何であったのか裁判所の間でも意見が割れることが多々ありました。
混乱の修復?
2019年3月20日、CAFCはSRI Int’l, Inc. v. Cisco Systems, Inc.,において、ガイドラインを示します。この判決で、CAFCは陪審員が示した故意侵害は十分な証拠によってサポートされていないとして、地裁における故意侵害の判決を破棄し、再審議を要求しました。
この判決においてCAFCは、Ciscoが製品やサービスを特許を侵害する方法でデザインしたことと、顧客に侵害する方法で使用することを促したことは、特許の直接侵害と間接侵害を証明することであって、それだけでは、故意侵害に必要なwanton, malicious, and bad-faith behaviorのレベルに至らないとしました。
この判決を受け、差し戻された地裁では、SRI判決で示された事柄を故意侵害の基準とし、再度、故意侵害に対して再審議を行うことを示しました。
SRI判決の後、その他多くの地裁でも、SRIをガイドラインとして、陪審員に提示する故意侵害の基準を再調整するところが多くなりました。最近のケースでは、以下のような文言を裁判所が陪審員に提示しました。
“willful infringement is reserved for the most egregious behavior, such as where the infringement is malicious, deliberate, consciously wrongful, or done in bad faith.”
まとめ
今回のSRI判決が多くの地裁で採用されているところを見ると、Halo判決が下った直後の混乱が治まりや不透明さがクリアーになり、故意侵害のハードルが高くなった印象があります。特にSRIの判例から、特許の存在を知っていて鑑定などを通して特許を避ける行為が行われていれば、故意侵害が成立するリスクは最小限に抑えることができるでしょう。
今回のSRI判決で、特許の存在を知っていて、侵害のリスクを知っているだけでは、故意侵害とされないはずなので、故意侵害についてある程度明確なラインが敷かれたことはいい傾向だと思われます。
まとめ作成者:野口剛史
元記事著者:Francis DiGiovanni and Thatcher A. Rahmeier. Drinker Biddle & Reath LLP (元記事を見る)