添付書類が欠けている訴状の送達はIPRのタイム・バーを誘発しない

Patent Trial and Appeal Board(特許審判委員会)は、特許侵害を主張する地方裁判所訴状が送達されてから1年以内に当事者間レビュー(IPR)の申立書を提出することを要求する35 U.S.C. § 315(b)に基づく1年のタイムバーを、証拠書類が付随していない訴状の送達は誘発しないとしました。申立人のIPR請求は、問題となった訴状の送達日から1年以上経過していましたが、審査委員会は時効は適用されないと判断しました。

ケース:Lightricks, Ltd. v. Plotagraph, Inc. et al., IPR2023-00153, Paper 9 (PTAB Sept. 5, 2023)

2回目の訴状送達日から1年以上経ってIPRが提出される

Plotagraph Inc.は米国特許第10,346,017号(’017特許)の権利者です。Plotagraph社は、その’017特許の発明者と共にLightricks Ltd.(以下「Lightricks社」)を、’017特許の侵害で訴えました。彼らは2021年12月23日と2022年1月4日に合せて2回、Lightricks社のイスラエルの各事務所に訴状を送達しました。

その後、最新の送達から1年と13日後(35 U.S.C. § 315(b)が適用されるのであれば、1年のタイムバーでIPRが不可になる)の2023年1月17日に、Lightricks社は’017特許のクレーム1~18に対する当事者間レビューの申立てを行いました。

どのイベントがタイムバーのトリガー日になるのかが争点に

Plotagraph社は、35 U.S.C. § 315(b)に規定されている「当事者間審査は、申立人が特許侵害を主張する訴状を送達された日から1年以上経過した後に手続を要求する申立書を提出した場合には、開始することができない。」という条文に基づき、今回のIPRの申し立ては不適切であると反論します。具体的に、Plotagraph社は、Lightricks社は訴状を送達されてから1年以上経過した後にIPRの申立書を提出したため、過去2回の送達のいずれの送達日を用いても、申立書は時効にかかると主張しました。

しかし、Lightricks社は、Plotagraph社の送達の試みは、訴状の写しのみを提供し、証拠書類の写しは提供しなかったため、連邦民事訴訟規則の規則4に準拠しておらず、したがって、欠陥のある送達は、315条(b)に基づく時効を誘発しなかったと反論しました。また、Lightricks社は、正しい送達日は、Lightricks社が連邦地裁に送達放棄(waiver of service )を提出した日であり、当事者が今後の訴訟日程の決定に依拠した日である2022年1月21日であるべきであると主張しました。

添付書類も訴状の一部なので不備がある訴状の送達はトリガー日にはならない

上記の主張をした結果、特許審判委員会は、Lightricks社の意見に同意し、連邦地裁への訴状送達に不備があった場合、315条(b)のタイムバーが発動されることはないとしました。同委員会は、連邦民事訴訟規則(Federal Rules of Civil Procedure)第10条を引用し、同規則によると、「答弁書の添付書類は、あらゆる目的のために答弁書の一部である」と述べているという見解を示しました。そのため、訴状日がトリガー日だと主張していたPlotagraph社の意見は受け入れられず、事前の送達の試みによりLightricks社は訴訟を知っており、これらの試みは第315条(b)に基づくタイムバーを引き起こすのに十分であったという主張には説得力がなかったと判断されました。

委員会は、今回のケースを先の先例判決であるGoPro, Inc. v. 360Heros, Inc., IPR2018-01754, Paper 38 (PTAB Aug. 23, 2019)と区別しました。委員会は、GoProでは、当事者の適格性が欠如していたため、弁論(pleading)が不十分であったと説明し、それにもかかわらず、弁論が315条(b)のタイムバーを発動するのに十分であったと判示しました。このように異なる不備が原因だったため、同委員会は、GoProのケースは送達に不備があった今回の事件とは明確に異なるという見解を示しました。

実務のヒント

送達の不備は第315条(b)のタイムバーを発動させないため、特許権者にとっては、必要な証拠書類の添付を含め、送達が適切であることを確認することが重要です。これにより、申立人となるべき者が申立書を提出するための追加時間を確保することができます。

送達に不備があった場合、特許権者はできるだけ早くその誤りを是正するか、または被告が送達を放棄した日など、第315条(b)に基づく1年の時計が後に始まる可能性があることに留意する必要があります。

また、申立人は、弁論の不備はタイムバーを引き起こす可能性がありますが、送達の不備はタイムバーを引き起こさないことに留意すべきです。送達に不備がある場合でも、最も早い送達から1年経過する前に申立書を提出することが望ましいですが、それが不可能な場合、申立人は、最も早い適切な送達または送達放棄のいずれか早い日から1年以内に、当事者間レビュー(IPR)の申立書を提出する必要があります。

参考記事:Service of Complaint Without Exhibits Does Not Trigger the One-Year Time Bar to File IPR | Akin Gump Strauss Hauer & Feld LLP

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