プロダクト・バイ・プロセス クレーム の有効性

プロダクト・バイ・プロセス クレームでモノをクレームする際は、その工程を経て得られるモノを明確に示す必要があります。今回は、プロダクト・バイ・プロセス クレームを使うべき状況に加え、明確性を上げるクレームの書き方も提案しているので、ぜひ参考にしてみてください。

プロダクト・バイ・プロセスクレームは、クレームされた製品を、それが製造される工程の観点から定義する製品クレームです。プロダクト・バイ・プロセス・クレームは適切であり、クレームが製品に向けられたものであることが明らかである限り、35 U.S.C. § 112(b) または pre-AIA 35 U.S.C. § 112の下で、不定であるとして拒絶されるべきではありません。

2020年7月20日、特許審判不服審査会(以下「審査会」)は、製品ごとのクレームを精査し、Ex parte Castellana(控訴番号2019-006605)における審査官の不定性拒絶(indefiniteness rejection)を覆しました。クレームの内容は以下の通りであった。

104.   A product for treating the skin and mucous membranes selected from a cream, an ointment, a liquid, a gel, and an aerosol, wherein the product is prepared by:

mixing a suitable quantity of trichloroacetic acid with a composition of hydrogen peroxide (H2O2) to form a first mixture, wherein the trichloroacetic acid in the first mixture is in a concentration of 30% to 35% w/w and the composition of hydrogen peroxide in the first mixture is present in a concentration of about 50% to about 85%[;]

providing a determinate quantity of basic compound to buffer the first mixture to obtain a pH value of between 2.3 and 2.6 of the first mixture; and

adding the basic compound to the first mixture in order to buffer the first mixture,

wherein the buffered first mixture is a product.

審査官は、クレームは最終製品に組み込まれる中間体のプロダクト・バイ・プロセスの制限によって定義された製品を対象としており、クレームは製品に含まれる成分やその重量割合を定義していないと判断。審査官は、「当業者であれば、発明の範囲を合理的に知ることはできないだろう」( “one of ordinary skill in the art would not be reasonably apprised of the scope of the invention” )と判断し、第112条第2項の請求項が不定として却下しました。

控訴人は、「[クレーム]は、そこに記載されているプロセスが、[保護される]対象物の境界を技術に熟練した者に明確かつ正確に知らせるものであるため、確定的である」と主張。控訴人はさらに、問題となっている製品は “緩衝化された最初の混合物 “であると主張ました。

審査会は、請求項が第112条第2項の下で明確であるためには、2つの要件を満たさなければならないと指摘しています。第一に、「出願人が発明とみなすもの」を記載しなければならず、第二に、「十分な特定性と明確性をもって」記載しなければならず、すなわち、クレームは十分に『明確』でなければなりません。 プロダクト・バイ・プロセス・クレームの特許性は製品自体に依存するため、審査会は、問題となっている製品が何であるかを特定するためにクレームを検討しました。

審査会は、請求項104は、(1)トリクロロ酢酸とH2O2を混合するステップと、(2)第1の混合物を緩衝するために塩基性化合物を添加し、それによって緩衝された第1の混合物を形成するステップによって調製された製品を記載していることを見いだしました。

すなわち、請求されたプロセスステップは、緩衝化された第1の混合物を生じさせ、これが控訴人の主張する問題の製品であったことがわかりました。したがって、審査会は、控訴人の主張には説得力があると判断し、請求項は、緩衝化された第1の混合物を、請求項のプロセスによって調製された製品として十分な特定性と明瞭性をもって識別し、第112条第2項の2つの要件を満たしていると判断。

しかし、審査会は、請求項は明確であると判断されたものの、前文の同じ表現に加えて、「バッファリングされた第一混合物が製品である場合」に「製品」(a product)という表現が重複していることは、明瞭性を向上させていないと指摘。審査会は、「wherein the buffered first mixture is the product」が好ましいと指摘。

要点

製品を定義したり、製品を先行技術と区別したりするためには、製品ごとのプロセス制限を使用することが唯一の方法である場合があります。そのような状況では、定義要件を満たすのに、製品を参照するために、より具体的な用語(この場合は「緩衝化された第一混合物」のような)をクレーム言語に導入することが望ましいです。プロセスステップによって結果として得られる製品を明示的に識別するために、「それによって形成/得られる…」( “thereby forming/obtaining …” )のような語句を使用することも有用であろうと思われます。

解説

プロダクト・バイ・プロセスクレーム (product-by-process claim)は、理想的なクレームの方法ではないので、できれば、直接クレームで保護されるべきモノ(apparatus)を製法で限定しない形でクレームする方がいいです。

プロダクト・バイ・プロセスの制限がかかっているクレームを侵害するには、当然保護されているモノがクレームで特定されている製法を経て製造されている必要があるので、侵害を特定するのが難しく、訴訟前に侵害の確証を得にくいというデメリットがあります。(これは製法クレームも同じですね。)

今回の判例は、プロダクト・バイ・プロセス クレーム の有効性に関するもので、プロセスを経て得られる製品を明確に示すことを求めています。

この明確性をクリアーするための実務レベルでの注意点としては、記事の要点に書かれているとおり、プロダクト・バイ・プロセス クレームの終わりに、「それによって形成/得られる…」( “thereby forming/obtaining …” )のような語句を使用することで明瞭化を図るのもいいでしょう。理想としては、Preamble とセットにして、

A product … wherein the product is prepared by:

step 1

step 2

thereby obtaining the product.

とすると更に明確性が上がるので、先行技術などでプロダクト・バイ・プロセス クレームを使わないといけない場合は、このようにプロセス制限をサンドイッチする形で得られる製品を明確に特定することが望ましいと思います。

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まとめ作成者:野口剛史

元記事著者:Yanhong (Claire) Hu. Element IP(元記事を見る

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