米国特許商標庁(USPTO)は5月8日、新たなCOVID-19優先審査パイロットプログラムを発表しました。この新しいパイロットプログラムの下で、他の優先審査に関連する特許庁費用を支払うことなく、small or micro entityの資格を有する特許出願人は優先審査の申請ができます。
新しいプログラムの資格を得るためには、クレームがCOVID-19の予防および/または治療における使用のために米国食品医薬品局(FDA)の承認を受けている製品またはプロセスを対象としなければいけません。
しかし、優先審査プログラムなので、出願人がUSPTOからの連絡に速やかに応じれば、このプログラムの出願の最終処分を6ヶ月以内に行うことができます。
この発表と共にアンドレイ・イアンキュ商務次官兼USPTO長官は、「独立した発明家や中小企業は、最先端の技術革新と経済成長を実現する上で、多くの場合、違いを生み出す存在あり、また、このパンデミックとの戦いにおいて、最も支援を必要としているのは彼らです」と述べています。
詳細については、Federal Register Noticeを参照してください。
解説
今回の動きは、small or micro entity に対してCOVID-19関連の特許出願の審査を追加料金なしで加速させることで、救済が必要なセグメントへの対処と、救命につながる可能性のある治療法をより迅速に市場に投入することを両立させることが目的のようです。
通常、small entityがtrack one の優先審査を受けるためには、追加費用が2,000ドルかかります。micro entityの場合、この費用は減額され、1,000ドルになります。しかし、non-small entitiesの場合は4,000ドルとなっています。つまり、今回の制度を活用すれば、1,000ドルから2,000ドルの費用を節約しながら優先審査を申請することができます。
small entityは以下の事業体のことを示します。 (i) 非営利団体である、または (ii) すべての関連会社と合わせて、500人以上の従業員を持たない。そして、本発明の利害関係を非小企業に譲渡、ライセンス、またはその他の方法で譲っていない。詳細は、37 C.F.R. 1.27を参照。
micro entityは以下の事業体のことを示します。
- USPTOが定義するsmall entityとしての資格を有すること。
- 過去4回以上の出願に名前が記載されていないこと。
- 総所得が、手数料が支払われた前年の世帯所得の中央値の3倍以上でないこと。データが入手可能な直近の年である2011年の世帯収入の中央値は50,054ドルでした。
- 発明者と同じ所得要件を満たさない他の事業体にライセンスまたはその他の所有権を譲渡、付与、または譲渡する義務を負っていないこと。
詳細は、こちらを参照。
micro entityの条件を満たすのは大変ですが、small entityであれば多くの企業が条件を満たす可能性があります。クレームがCOVID-19の予防および/または治療における使用のために米国食品医薬品局(FDA)の承認を受けている製品またはプロセスを対象としなければいけませんが、すでに関連業界に関わっている企業であれば、今回のパイロットプログラムの活用を検討してみるのもいいかもしれません。
しかし、今回のプログラムで免除されるのは、優先審査に関連する特許庁費用だけなので、優先審査のための書類作成や拒絶通知の対応など代理人に支払う費用は変わりません。特に、優先審査の場合、すぐに拒絶通知が来るし、その対応もなるべく早く行わないといけません。このような対応を事務所にお願いする場合、追加料金が取られる可能性があるので、今回のパイロットプログラムの活用できるとしても、優先審査を活用する出願は厳選した方がいいかもしれません。
ちなみにこの制度を活用して成果が出たら、大々的にプレスリリースを行うというのも会社の知財価値を高める戦略としては有効かと思います。通常、特許出願は結果が出るまで時間がかかりますが、優先審査を使えば6ヶ月以内に権利化できる可能性があります。この仕組みを戦略的に活用してビジネスにつなげられれば、以前紹介した知財IR活動のネタにも十分なり得ます。
まとめ作成者:野口剛史
元記事著者: USPTO(元記事を見る)