USPTOのPost-Prosecution Pilotの結果は良好

USPTOは特許の質を向上させる取り組みとして、Post-Prosecution Pilot (P3) Programを行ってきました。今回はこの取り組みに関するデータを分析し、実際に特許の質の向上につながったプログラムだったのかを評価していました。

Post-Prosecution Pilot (P3) Programとは?

P3 ProgramはAfter-finalに関する手続きを強化したものです。既存の the After Final Consideration Pilot (AFCP) 2.0 program と the Pre-Appeal Brief Conference Pilot (Pre-Appeal) programを合わせたようなもので、権利を拡大しない補正をオプションで可能にし、主張の種類にも限定をもうけず、最終的なパネルによる判決の前に、パネルによる審査官との面談(実際に会って、電話、または、ビデオ)が義務づけられています。

P3リクエストが受理され、口頭弁論が終わると、パネルは既存の拒絶を維持するか、審査を再開するかという判断を下します。

このP3 programは2016年7月に始まり、段階的な試験を終え、現在USPTOはP3 programを延長するか協議を行っています。

データ

P3 programが行われていた間、1400件以上のリクエストがありました。P3 programの特徴の1つがクレーム補正がオプションであるということです。得られたデータでは補正がされたか否かはわかりませんでしたが、クレームが共に提出されたかということはわかったので、そのようなデータを分析してみます。

データによるとリクエストの内、31%はクレームセットなしで、69%がクレームセットありでした。クレームセットがある場合、他の情報から高い確率で補正があったことがわかりました。そのため、正確ではありませんが、クレームセットが付属していた場合とそうでないもので、P3 programの際にクレーム補正があったのか無かったのかの割合がある程度の精度で導き出せます。

分析

元記事の図1AとBには、P3判決で審査再開と判断されたものについて、クレームセットある・なしのケースにおける審査開始後のOffice Actionを比較したものです。クレームゼットある・なしにかかわらず全体の6%において最終拒絶通知が発行されました。一般のNon-finalである拒絶通知はクレームセットなしのほうが8%ほど高かったです。

次に考慮したい点が、P3のリクエストをした後の行動に注目してみたいと思います。このような行動には2つのパターンがあり、1つは特許庁による行動(non-final OA, final OA, notice of allowanceなど)、もう1つは出願人の行動(RCE, Notice of appeal, abandonment)です。

元記事の図2AとBには、P3リクエストのあとクレームセットある・なしのケースにおける行動を比較したものです。

結果は、クレームセットある・なしにかかわらず、Notice of allowanceが出たケースは全体の30%ほどでした。Non-final OAやFinal OAはクレームセットがないもにの方が7%高く、RCE, appeal, abandonmentなどはクレームセットありの方が7%ほど高いという結果になりました。

その他の分析も元記事には載っているので、興味のある人は見て下さい。

評価

データを分析した結果、P3 programは出願人にとって有効的だという結論に至りました。特に、すべての有効なP3リクエストの内、30%に最終的にnotice of allowanceが送られたことは注目するべき数字です。また、全体の7-14%のリクエストが審査の再開に至りました。

また、P3リクエストでクレームセットが無かった場合、RCEやAppealの確率が7%低く、8%ほど高い確率で審査の再開が行われるという結果になりました。

このような結果を受け、P3 programはAppealなどの長く高額な手続きを行わなくても、出願人が抱いている適切でない拒絶に関する問題を解決するために有効だということが示唆されます。

改善点

しかし、改善も必要です。P3 programはRCEやAppealを減らすという目的があります。P3リクエストの60%以上が結果的に既存の拒絶を維持するという結論に至ります。しかし、そのような結果にいたるものでも多くの判決において、新しく提出された補正は既存の拒絶を解決するものの、審査が再開されないという状況です。そのため、新たな補正を考慮してもらうためにRCEを出願するケースが多くあります。

このようなRCEを減らすためにもUSPTOはパネル審査官にクレームの有効性を判断できるようより多くの時間を与えるべきだと思います。パネル審査官、もしくは、再審査の際に審査官が新しい先行例調査などを行える余裕があれば、RECを行わずに特許の有効性について判断できることでしょう。

特に、P3リクエスト時に、新しく提出された補正が既存の拒絶を解決するものだった場合、このような追加の審議時間を設けることで、RCEを行わずに、補正されたクレームの特許性を審査することができます。

まとめ

得られたデータを分析した結果、P3 programは有効であるという結論に至りました。P3 programが更新され、より多くの出願人が恩恵を預かれるようになることを望んでいます。またよりP3 programをいいものにするために、USPTOがステークホルダーの意見を取り入れることを望みます。

まとめ作成者:野口剛史

元記事著者:Dan Ovanezian and Sam Noel. Womble Bond Dickinson (US) LLP (元記事を見る

ニュースレター、会員制コミュニティ

最新のアメリカ知財情報が詰まったニュースレターはこちら。

最新の判例からアメリカ知財のトレンドまで現役アメリカ特許弁護士が現地からお届け(無料)

日米を中心とした知財プロフェッショナルのためのオンラインコミュニティーを運営しています。アメリカの知財最新情報やトレンドはもちろん、現地で日々実務に携わる弁護士やパテントエージェントの生の声が聞け、気軽にコミュニケーションが取れる会員制コミュニティです。

会員制知財コミュニティの詳細はこちらから。

お問い合わせはメール(koji.noguchi@openlegalcommunity.com)でもうかがいます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

OLCとは?

OLCは、「アメリカ知財をもっと身近なものにしよう」という思いで作られた日本人のためのアメリカ知財情報提供サイトです。より詳しく>>

追加記事

laptop-typing
再審査
野口 剛史

マシーンラーニングに関する特許は有効か?

マシーンラーニングはAIに関わる重要な技術ですが、特許の有効性については今後大きな議論になりそうです。Alice判決によって枠組みが作られた特許適格性の問題が今後どうマシーンラーニングやAIの分野に適用されるか注目です。

Read More »
特許出願
野口 剛史

特許適格性問題の審査を延期できる新しいパイロットプログラムが始まる

1月6日、特許庁は、特許適格性に関する拒絶に対する応答を延期することを出願人に許可するDeferred Subject Matter Eligibility Response Pilot Programを導入しました。このパイロットプログラムを活用することで、発明の新規性・進歩性、記述要件などの問題に特許審査を集中させ、発明が抽象的すぎるか、自然現象を大きく超えていないかなどの曖昧な問題の議論を延期することができるようになります。

Read More »