USPTOのDOCXフォーマット出願への移行プロセスに新たな進展

特許出願におけるDOCXフォーマットでの出願は今後「必須」になるでしょう。しかし、出願時に意図しないエラーが出てトラブルになるケースも多いのが実態です。しかし、今回DOCXとPDFの両方を提出できる移行期間ができるのは出願人にとってはありがたいことだと思います。

PDF形式からDOCX形式への移行は避けられない

米国特許商標庁(USPTO)は、すべての特許出願を現在のPDF形式ではなく、DOCX形式で提出することを義務付ける方向で検討を続けています。義務化されても、出願人は、追加料金を支払うことでこれまで通りPDFフォーマットで出願することができるような形で検討されています。

このDOCXフォーマットにおける出願は、2022年1月1日から施行される予定でしたが、「ユーザーが適応するための時間を確保する」ために、少なくとも1年遅れて2023年1月1日に施行されることになっています。

DOCXとPDF両方のフォーマットを一緒に提出することが可能に

今回、このDOCXフォーマット出願への移行プロセスに関する情報で新しい動きがありました。ちょうど先月の終わりに、新たにUSPTOの長官に就任したKathi Vidal氏が、DOCX出願への移行を容易にするためにUSPTOが新しいプログラムを制定することを示すブログ記事を発表しました。

このブログによると、連邦官報公告において、USPTOは、パテントセンターに出願する際に、DOCXファイルと共に出願人が作成したPDF版の出願を提出するオプションを一時的に提供するとのことです。これは、テスト段階ではエラーが多かったDOCX形式の使用経験を積んでもらい、DOCXに移行した後でも安心して使用してもらうことが目的です。これは、パテントセンター出願でのみ利用可能で、USPTOが段階的に廃止しているEFS-Web経由の出願では利用することができませんので注意してください。

連邦官報によると、「出願人が任意で出願人作成PDFを提出できるようにするこの一時的な新しいプロセスの下、USPTOは、一時的な期間中にDOCXファイル(複数可)とともに提出される任意出願人作成PDFのための新しいドキュメント記述を作成しました。この新しいドキュメントの説明は、”Auxiliary PDF of application “で、対応するドキュメントコードは、AUX.PDFです。出願人が作成したPDFをパテントセンターに提出する場合、1つのPDFで、DOCX形式で提出されるすべてのセクションを含む必要があります。出願人がこの文書記述を使用することで、出願ファイル内の文書の認識が容易になり、審査や公開時に使用される明細書、請求項、要約書との混同を避けることができます。」と記載されています。

現地代理人に、この新しいオプションを示す場合は、連邦官報のリンクやそこで示されている内容を共有してもらえればと思います。

DOCXファイル(複数可)にPDFでサポートされるエラーが含まれている場合、出願人は、DOCXファイル(複数可)に必要な補正をPDFがどのようにサポートしているかを特定する申立書を提出する必要があります。しかし、USPTOは、必要な補正に加えて、申請者が作成したPDFをソースとして記録を修正する場合、申請手数料を免除し、申請者がUSPTOシステムに対する信頼を得られるようにすることを意図しています。

最後に、「DOCX出願に添付された出願人作成のPDFは、出願人作成のPDFを考慮して記録を訂正するようUSPTOに要求する請願書が提出されない限り、記録の一部となることはない。そのような申立てがない場合、USPTOは、特許付与または出願の放棄から少なくとも3年間の保存期間の後、申請者が作成したPDFとそのすべてのコピーを処分します。」と書かれています。

ユーザー目線のいい移行手続き

今後アメリカにおける出願でDOCXフォーマットへの対応は必須になりますが、出願時に意図しないエラーが出る場合もあり、移行には細心の注意が必要です。しかし、今回のようにPDFとDOCXが両方提出できる期間が設けられたことは、私達出願人にとっては、とても嬉しいことだと思います。

参考文献:USPTO Continues Transition to Filing Patent Applications in DOCX

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