2023年4月、米国特許商標庁(USPTO)は、特許出願、意匠特許、米国発明法(America Invents Act)の審判に関して請求する手数料の一部の変更案を発表しました。案なのでまだ確定されたものではありませんが、値上げ幅の差などからUSPTOの出願人に対するメッセージが垣間見れます。
変更案の全リストはこちらを参照してください。
クレーム数はよりコンパクトに、増やすなら独立クレームを増やすべ
この変更案はまだ最終決定されておらず、2025年1月まで施行される予定はありませんが、この変更案が何を意味するのかを考察するのは意義があることだと思います。別の言い方をすれば、この変更案からUSPTOは出願人の行動にどのような影響を与えようとしているのか?が垣間見えるのです。
例えば、クレーム関連費用について見て見ましょう。ほとんどの出願人が含まれる大規模事業体料金(large entity rates)のレートで比較を行うと、クレーム数が20を超える場合、100%の値上げ(100ドルから200ドル)が提案されていますが、独立クレーム数が3を超える場合、25%の値上げ(480ドルから600ドル)しか提案されていません。このことから、USPTOはよりコンパクトなクレームセットを望んでいるようですが、独立クレームが多い場合はそれを許容する姿勢が見え隠れしています。
RCEと継続出願関連費用を上げることで長期継続審査を抑制する動き
次に、RCE関連費用を見てみましょう。アメリカではRCE(継続審査請求)の制限はなく、RCEを維持することで特許出願を半永久的に審査中にすることができます。しかし、費用面ではRCEの回数によって差別化が行われるようになり、今回の改定でも、その色が濃くなったようです。例えば、第1回のRCE出願手数料は約10%の値上げ(1360ドルから1500ドル)に留まる一方、第2回のRCE出願手数料は25%の値上げ(2000ドルから2500ドル)、第3回のRCE出願手数料は80%の値上げ(2000ドルから3600ドル)が提案されています。このように、USPTOは、2回目以降のRCE出願にかかる手数料の値上げにより、出願の係属を抑制する意図があるようです。
さらに、最も古い優先権から3年以上7年未満の継続出願(continuation filing)には1,500ドルの追加手数料がかかり、最も古い優先権から7年以上の継続出願には3,000ドルの追加手数料が課される予定です。そのため、継続出願によって1つの特許出願を維持し、市場の状況に合わせて継続出願におけるクレームを変えていくような戦略に対して、プレミアムをチャージするようなスキームが提案されています。
値上げ幅は均一ではなく特許庁は意図的に値上げ幅を変えている
このように値上げは一定ではなく、特許庁が抑制したい出願人の行動や出願人として利用価値の高い手続きに関しては値上げ幅が高くなっている傾向にあります。
この値上げ案は、まだ正式に決定したものではなく、施行日も未定です。そのため多少の変更や施行日の遅れは考えられますが、このような値上げがなくなることはありません。これらの費用は出願準備、中間処理、権利化後の戦略に影響を与える可能性があるので、なるべく早い時期から、値上げを見据えた知財戦略の再考察が必要になるでしょう。