商標侵害問題を解決するために名義の変更を和解契約に盛り込むことがあります。しかし、実際に名義変更をおこなった際に、当事者同士で認識の違いがあった場合、それは和解契約の有効性に関わるのでしょうか、それとも契約履行不備に関わるのでしょうか?
米国第一巡回区控訴裁判所は、商標に関する問題を取り上げ、類似した名称を使用していた2つの学校が、一方の学校が他方の学校の名称変更のために支払う義務を負う有効かつ執行可能な和解契約を結んでいたと結論付けました。The Commonwealth School, Inc. v. Commonwealth Academy Holdings LLC, Case No. 20-1112 (1st Cir. Apr. 14, 2021) (Selya, J.)
ボストンの私立学校であるThe Commonwealth School(以下、スクール)は、マサチューセッツ州スプリングフィールドに設立されて間もない私立学校が「Commonwealth Academy(以下、アカデミー)」という類似した名称で運営されていることに気づきます。2016年、スクールはアカデミーに対し、連邦政府のランハム法に基づき、スクール校が「Commonwealth School」という名称に商標を持っており、「Commonwealth Academy」がその商標を侵害していると主張して訴訟を起こしました。当事者は和解調停に入り、スクールがアカデミーに2万5,000ドルを支払い、その見返りとしてアカデミーがその名称を 「Springfield Commonwealth Academy 」に変更することで合意。
3年が経過し、アカデミーは宣伝用の資料やウェブサイトで名称を変更する措置を取りました。しかし、スクール側は、アカデミーが生徒のバスケットボールのジャージに「Commonwealth Academy」という名前をまだ目立つように表示していると主張し、アカデミーへの支払いを拒否していました。
ここで、再度裁判になり、第一巡回区において審議されました。第一巡回区では、和解契約が有効に成立した契約であるかどうかが争点になり、審議の結果、問題とされているアカデミー側の行為は、和解契約の有効性(contract formation)に関するものではなく、契約履行(contract performance)に関わることであるとしました。
当事者は契約条件の大部分を遵守しており、アカデミーは公共の場での名称変更の手続きを行い、スクールは契約の履行を見越してお金をエスクローに預けました。つまり、和解契約は有効であり、残っている問題は、アカデミーがチームジャージの名前を変更しなかったときに、契約が適切に履行されたかというものです。
そのため第一巡回区は、地方裁判所が和解契約を執行するよう、本件を再送しました。
参考記事:School’s Out: Trademark Settlement Agreement Enforceable