混同の可能性(likelihood of confusion)による商標侵害があったかを判断するためにSleekcraftの8つの要素が考慮される場合がありますが、実際の案件の事実問題に大きく関わってきます。そのため、顧客の実際の混同などの証拠が裁判を大きく左右することになります。
米国第9巡回区控訴裁判所は、混同の可能性(likelihood of confusion)/逆混同(reverse confusion)の要因に関する重要な事実問題を解決するために、連邦地裁の略式判決(summary judgement)を取り消し、ランハム法に基づいて提起された訴訟の審理に再送するという判決を下しました。Ironhawk Technologies, Inc. v. Dropbox, Inc., Case No. 19-56347 (9th Cir. Apr. 20, 2021) (Smith, J.) (Tashima, J., dissenting)
Ironhawkは「SmartSync」という商標を使っているソフトウェアを2004年から販売しており、2007年に商標登録をしました。その後2017年、Dropboxは「Smart Sync」と命名した機能を既存のソフトウェアサービスに搭載しました。ほぼ同じ名前ということもあり、IronhawkはDropboxを商標侵害で提訴。訴訟の中で混同の可能性(likelihood of confusion)/逆混同(reverse confusion)が問題になっていました。
逆混同(reverse confusion)とは、上級商標の所有者(Ironhawk)と取引する消費者が、下級商標(Dropbox)と取引していると錯覚する場合に起こります。これは、知名度の高いジュニア(Dropbox)しか知らない人が、知名度の低いシニア(Ironhawk)と接触し、2つのマークの類似性からシニアがジュニアのユーザーと同じ、または関連会社であると誤って信じてしまう場合に発生します。
商標侵害、特に、混同に関する判断は、関連する消費者市場や消費者の知識や経験にも大きく影響されます。用いられたSleekcraftの8つの要素を考慮しても、第9巡回区の判事の間で意見が分かれるほどです。
今回は、地裁で事実認定を行う陪審員の判断を得る前に、略式判決をしてしまったのは間違えだったということで、略式判決は取り消され、地裁で追加の審議がなされることになりました。この判決は、混同の可能性による商標侵害は事実問題をどう解釈するかで判決が大きく変わることをよく示しています。
参考記事:Reverse Confusion Suit Not Ironclad, but SmartSync Lives On