商標出願における「機能不全」拒絶への効果的な対応

最近スローガンなどで用いられる用語に対して商標として機能しないことを理由に商標登録を拒絶するケースが増えてきています。しかし、今回の商標審判委員会(TTAB)におけるケースを見てみると、審査官による証拠はありふれたメッセージを表現するためにそのスローガンが第三者によって広く使用されていることを証明するには不十分である可能性があり、その問題を指摘することで、拒絶を解消できる可能性が十分あることがわかります。

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増えてきている商標出願における機能拒絶

通常、消費者は、特別な理由が無い限り、広く使用されているありふれたメッセージを出所の表示としては受け止めず、通常の意味で理解します。このような用語は、ブランド所有者の商品を他人の商品と識別・区別し、その商品の出所を表示する機能を果たしていないため、商標として登録できません。つまり、そのような用語には「識別力がない」ということになり、このようなマークの機能拒絶(Failure to function refusals)といいます。

近年、このような機能拒絶が頻発しており、商標出願者に限らない広範な使用の証拠に基づき、このような拒絶を肯定したTTABの事例がいくつも出ています。いくつか報告した: 「TEXAS LOVE」、「PAST PRESENT FUTURE」、「.SUCKS」、「FUCK」「TACO TUESDAY」が最近の事例です。

その一方で、TTABは稀ですが、証拠に基づいてこのような拒絶査定を取り消したケースもあります: SAY YES TO WHAT’S NEXT(衣料品や教育サービスに一般的または広く使用されている証拠がない)、100% THAT BITCH(社会的、政治的、愛国的、宗教的、称賛的、または情報的メッセージを伝えるための一般的な使用というよりも、Lizzoのヒット曲の歌詞に関連する証拠)などがあります。

証拠基準

ケース:In re GFactor Enterprises, LLC d/b/a Gfactor Films, Application No. 90976324 (T.T.A.B. May 5, 2023)

GFactor Enterprises, LLC d/b/a Gfactor Filmsは、ノンフィクション書籍、教育サービス、衣料品のシリーズに「MAKE YOUR PASSION YOUR PAYCHECK」(標準文字)の登録を申請しました。しかし、審査官は、商標としての機能不全を理由に登録を拒絶しました。出願人は、衣料品に関する出願を分割し、衣料品に関するスローガンの登録拒絶についてのみTTABに控訴しました。

この控訴において、TTABは出願人を支持しました。

判決では、「重要な審理は…関連する公衆が登録しようとする用語をどのように認識するかである」(critical inquiry… was how the relevant public perceives the term sought to be registered)と強調しました。判決には、審査官が提出した7ページの証拠書類が含まれていました。この証拠には、「MAKE YOUR PASSION YOUR PAYCHECK」をサービスマーク、書籍のタイトル、Tシャツやアート作品に装飾として使用している第三者のウェブサイト14件が含まれていました。

審査官は、この証拠から、自己啓発やモチベーションのトピックは、好きなことをしてお金を稼ぐべきであるというよく理解されたメッセージを伝えるために一般的であることがわかると主張しました。

しかし、出願人は、そのスローガンは「”情熱 “を “給料 “に変える」という不釣り合いな意味を持ち、「誰にも何も知らせない」(“does not inform anyone of anything”)概念であると主張しました。また、審査官の証拠は、「全国的な関心か、あまり考えもせずに日常的に語られるフレーズ」のいずれかを証明するのに必要な高い基準を満たすには不十分であると主張しました。むしろ、出願人は、そのフレーズは、「一般的に誰によっても話されたことはないが、誰かの強くかろうじて制御可能な感情がお金を稼ぐことにつながることを示唆する巧妙なスローガンである」可能性が高いと主張しました。

これらの主張と証拠を総合的に考慮した結果、TTABはこれらの記録はこのフレーズまたはその変種のありふれた第三者による使用を一様に証明するものではないとしました。TTABは、審査官が提示した14のウェブサイトの「混在した記録」を適切な証拠として認識せず、審査官の主張を退け、このスローガンを衣服の商標として登録することへの拒絶を取り消しました。

機能不全の拒絶への効果的な応答

審査官が機能不全を理由にスローガンを商標またはサービスマークとして登録することを拒絶した場合、審査官に対して、または上訴時にTTABに対して、ありふれたメッセージを表現するためにそのスローガンが第三者によって広く使用されていることを証明するには証拠が不十分であることを主張することにより、拒絶を克服できる可能性があります。

参考記事:Refuting a “Failure to Function” Refusal to Register a Trademark

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